コラム:不妊症シリーズ2

「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは」

PCOSと聞いてお分かりになる方は婦人科系や妊活でお悩みの方が多いかもしれません。
PCOSは自覚症状があり初めて婦人科を受診し、超音波検査やホルモン検査を受けて分かるケースがほとんどです。

関連動画:漢方マスターが教える【PCOS①】多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは【妊活】

一般的には28日前後が正常な生理周期だといわれています。それが40日たっても、50日たってもなかなか来ず、また次の月は30日で来たりする。この様な生理周期が一定ではなくバラバラなことを生理不順といいます。また、3か月以上生理がこない場合を無月経と言います。


問診

生理不順や無月経の方が病院で検査をして、
「卵巣に発育が停止した小さい卵胞がたくさんあります」
「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)です」
と言われて初めて生理不順や無月経の原因、PCOSを認識します。


    PCOSの典型的な症状
  •  太る
  •  体毛が濃くなる
  •  ひげが生える
  •  皮脂が多い
  •  ニキビが出来る
  •  血液検査で男性ホルモンの値が高くなる
  •  脳下垂体から分泌されるLH(ホルモン)が高くなる

    意外と多いが典型的ではない症状
  •  若い(年齢)
  •  中肉中背
  •  色白
  •  冷え症
  •  皮脂が多い感じが無い


慢性的な生理不順がある方へ

まずは3か月から4か月基礎体温をつけることをおススメします。 将来妊娠の希望される方で、肥満・多毛・ニキビなどPCOSの典型的な症状でお悩みの場合、まず基礎体温で排卵が順調であるかを確認することができます。
生理が来ている場合でも、排卵ができていない場合があります。


基礎体温が低温期と高温期の2層に分かれているか

基礎体温

低温期は36.2度から36.4度くらいの体温で約2週間、そこから0.5度くらい体温が上昇して、高温期が約2週間続いて生理が来る、とういうのが正常なパターンで、排卵がうまく行われている状態です。低温期と高温期の2層に分かれているかを確認してください。


婦人科を受診されたことがない方へ

ぜひ勇気をもって受診してみてください。超音波検査や血液検査でPCOSかどうかが分かります。PCOSは生理不順や無月経、肥満・多毛・ニキビなどの症状を引き起こすだけではなく、子宮内膜癌のリスクを上昇させます。 ご自身のお体の状態を知る事はとても大切です。


自宅でできる検査キット

AMH(アンチミューラリアンホルモン・抗ミュラー管ホルモン)という卵巣予備能を測定する検査キットが販売されています。

本来PCOSを調べる検査キットではありませんが、卵巣内で発育段階にある卵胞から分泌されるAMH値を測定することで、発育段階にある卵胞数を調べることができます。


AMHの標準値

AMH

AMHは年齢によって数値が標準化されています。
30歳だと6前後、35歳だと3~5前後が標準ですが、PCOSの方は10前後と数値が高くなります。それは発育が停止した小卵胞が卵巣内にたくさんあり、その多数の卵胞からAMHが分泌されるため数値が高くなります。

PCOSとは別で生理不順があり、AMHが低い場合があります
例えば、30歳でAMHの標準が6前後のところ、1以下と非常に低い方。これは、卵巣内の卵胞数が少ないということになります。
女性は初潮の時、卵巣内に卵が約30万個あると言われています。それが約25年間で5~6万個に減ると言われていますが、減るスピードが早い方もおられ、このように急速に卵が減ってしまう場合、先述のようにAMHが標準よりも低くなります。



「PCOSと漢方薬」


PCOSの原因

image卵巣の白膜が厚く硬くなり排卵ができない
imageFSH・LHのバランスが乱れる
image男性ホルモンが高くなる
などの状態が見られますが、はっきりとした原因は分かっていません。

排卵障害が起こり、不妊症の原因ともなり、多くの女性が悩まれています。


PCOSでお悩みの方は非常に多いのですが、同じPCOSといっても体質は人それぞれ。中医学では「腎虚じんきょ」と「痰瘀たんお」の代表的な2体質が挙げられます。

腎虚じんきょ」とは

中医学では、本来女性がもっている妊娠する力(妊孕性)が低下している状態のことを、総称して「腎虚じんきょ」と言います。 腎虚は腎陽虚じんようきょ腎陰虚じんいんきょの2タイプにわけられます。PCOSでは一般的に体を温める力、排卵させる力、高温期を作る力などが不足する、ホルモン分泌に関する生殖軸が弱い体質、腎陽虚タイプが多くみられます。


関連動画:漢方マスターが教える【PCOS②】中医学でみるPCOS 漢方の有効性【妊活】

有効な漢方薬

腎陽虚を改善する漢方薬として、「血肉有情けつにくゆうじょう」:血と肉と情がある、つまり動物性の漢方薬が非常に有効です。
動物性の漢方薬で代表的なものに、鹿の角、胎盤、オットセイの陰茎などがあります。
補腎ほじんにより、ホルモン分泌に関する生殖軸を整えることが可能となります。 卵子が成熟するために十分な性ホルモンが満ち足りていれば、卵胞はしっかり成長していきます。


参考文献:1806年 張仲景 『金匱要略』
参考文献:[新装版]中医臨床のための方剤学 東洋学術出版社 p.301八味地黄丸、p.303牛車腎気丸



痰瘀たんお」とは

中医学で「痰瘀たんお」は、「痰湿たんしつ」と「瘀血おけつ」が組合さったものをいいます。

痰湿たんしつ」:ドロドロした老廃物が体に溜まっている状態
瘀血おけつ」:血の流れが停滞した状態

PCOSは卵巣内に発育が停止した小卵胞がたくさん出来ており、そのために排卵が上手くいきません。老廃物が停滞している、血の流れが停滞している、そのような状態だと、卵子が成熟するための十分なホルモンが卵巣に届きにくいため、卵胞の発育も停止しやすくなると考えます。

関連動画:漢方マスターが教える【PCOS③】PCOSにオススメの漢方薬【妊活】

有効な漢方薬

桂枝茯苓丸加薏苡仁けいしぶくりょうがんかよくいにんという漢方薬があります。桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがんという瘀血を改善する漢方薬に、薏苡仁よくいにんという痰湿を改善する漢方薬が加わったものです。


桂枝茯苓丸は元々、お腹の中にできた腫瘤、腫瘍などの塊(癥瘕ちょうか)を取り除くため、例えば筋腫、内膜症、腺筋症などのためにつくられた漢方薬です。


PCOSを大きくとらえると、卵巣という臓器の中に小さい塊がたくさんあるということになるので、塊を取り除く、発生させないようにするのに桂枝茯苓丸加薏苡仁は非常に有効な漢方薬です。


参考文献:1806年 張仲景 『金匱要略』
参考文献:[新装版]中医臨床のための方剤学 東洋学術出版社 p.398桂枝茯苓丸

漢方薬の使用にあたり

漢方薬の使い方は、その方の体質によって異なり、全身症状などの主観的なものだけではなく、舌の状態や脈の状態など客観的なものと合わせて判断していく必要があります。
漢方薬専門の相談薬局などであれば、細かく体を見て体に合った漢方薬を選んでくれますので、ぜひ勇気をもって相談してみてくださいね。


公開日:2022-11-24
更新日: