薬草辞典-な行

 

肉蓯蓉にくじゅよう

にくじゅよう

[基原]ハマウツボ科ホンオニクの肉質茎。

[性・味]温・甘

[帰経]腎・大腸

[用法]10~15g。

潤性じゅんせい温腎壮陽薬おんじんそうようやく巴戟天はげきてん鎖陽さようと同時によく使用される。潤腸通便じゅんちょうつうべん作用を有する温腎壮陽薬おんじんそうようやく巴戟天はげきてんに比べ,潤性じゅんせいが強く温和である。

温腎壮陽

よく腎陽を補い先天の気を盛んにする。さらに壮陽作用を有し,精血を補う。潤性であり乾燥させず傷陰の弊害が少ない。温性だが膩性は弱く潤性があり,薬性は温和。腎陽虚や精血不足の陽萎・不妊などに多用される。そのほか,腎陽虚の腰痛・腰下肢の脱力倦怠感・健忘・痴呆などにも用いられる。
①陽萎には,熟地黄・菟絲子・五味子などと用いる。〔代表方剤:肉蓯蓉丸〕 。
②陽虚証の不妊には,鹿角膠・当帰・ 熟地黄などと用いる。
③腰痛や腰下肢倦怠感には,巴戟天・杜仲などと用いる。

潤腸通便

腸を潤し通便する。腸燥の便秘,特に老人の腎陽虚証や精血不足の便秘に多用される。当帰・麻子仁などと用いる。〔代表方剤:潤腸丸〕。

[注意点]陰虚火旺や脾虚の下痢には禁忌。実熱証の便秘には使用しない。

(管理No.01-121)

 

乳香にゅうこう

にゅうこう

[基原]カンラン科ニュウコウジュの膠状樹脂。

[別名]薫陸香くんりっこう

[性・味]温・辛・苦

[帰経]心・肝・脾

[用法]3~10g。煎じると混濁し独特の臭気がある。外用も可。

強い止痛作用を有する温性おんせい活血薬かっけつやく没薬もつやくとともによく配合される。没薬もつやくに比べ,温性おんせい行気こうき作用に優れ,風寒湿痺ふうかんしつひ作用にも使用される。

活血行気・
止痛


(1)走散性が強く,血とともに気をもよく巡らせ瘀血を去り止痛する 。特に気を良く巡らせる。各種の瘀血性疼痛,特に瘀血気滞の疼痛に多用される。また風湿寒痺証にも用いられる。
①瘀血胃痛には五霊脂・香附子・川楝子などと用いる。
②胸痛・心痛には,丹参・川芎などと用いる。
③月経痛・ 産後瘀血の腹痛・閉経には,当帰・丹参・桃仁・紅花などと用いる。〔代表方剤:活絡効霊丹〕。
④外傷打撲の瘀血の腫脹疼痛には,紅花・血竭・麝香などと用いる。外用の使用も可。〔代表方剤:七厘散〕。
(2)活血により筋を緩め経絡の気血を巡らせる作用(舒筋活絡)に優れる。
そのため,没薬に比べ風湿寒痺証の関節筋肉痛・筋肉拘縮痙攣にも多用される。
風寒湿痺証の関節筋肉痛・筋肉拘縮痙攣には,羗活・当帰・秦艽・没薬などと用いる。〔代表方剤:蠲痺湯,小活経丹〕。

祛腐生肌

血を巡らせ腫脹や結節・化膿症を緩和し,化膿巣や傷口の修復を早め(祛腐生肌),かつ止痛する。外科の常用薬。皮膚化膿症・皮膚潰瘍・外傷・腸癰などに使用さ れる。特に傷口の修復不全に多用される。
①皮嗜化膿症の初期で発赤・腫脹・疼痛のものには,金銀花・連翹・天花粉などと用いる。〔代表方剤:仙方活命飲〕。
②瘰癧(皮下結節)などには, 麝香・雄黄など。〔代表方剤:醒消丸)。
③傷口修復不全には,乳母と没薬の両薬の粉末を塗布してもよい。〔代表方剤:海浮散〕。

[注意点]多量の服用で悪心・嘔吐を引き起こすことがあるので,胃弱者にば慎重に使用する。 非瘀血証や妊婦には使用しない。

(管理No.01-122)

 

人参にんじん

にんじん

[基原]ウコギ科オタネニンジンの根。

[性・味]温・甘・微苦

[帰経]心・脾・肺

[用法]3~10g。粉末も可(0.5~1g/回)。虚脱証には大量を使用する(15~30g)。とろ火で長時間煎じる。別煎して他薬に加えてもよい。伝統的に五霊脂を畏れ,黎芦に反し,皀莢を忌む。また大根やお茶は,薬力を弱めるので同時には服用しない。

補気ほきの最重要薬。補気ほき作用は黄耆おうぎより強く,固脱こだつ作用を有し,潤性じゅんせい生津せいしん安神あんじん作用に優れる。

大補元気

人体生存の根本的気(元気)を大いに補い,気の流失を防ぎ(固脱),元気を回復させる。
(1)虚労内傷・出血・多汗・吐瀉などにより,元気が衰退した病態(気虚症)や,気が虚脱し流失した病態(気脱による亡陽)に使用される。
①気脱による顔面蒼白・呼吸微弱・脈微細などには,人参単味を多量に服用する。〔代表方剤:独参湯〕。
②気脱に四肢冷感・自汗などの亡陽が伴うときには,附子・乾姜・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:参附湯,四逆加人参湯〕。
③気と陰の虚脱で息切れ・倦怠・ロ燥・少苔などには, 麦門冬・五味子・黄耆・甘草などと用いる。〔代表方剤:生脈散〕。
(2)元気を補うことで,補腎壮陽する。他の補腎薬と配合して腎陽虚証などに使用される。附子・熟地黄・鹿茸・補骨脂・肉蓯蓉・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:人参鹿茸丸〕。

補脾益肺

脾胃の気の機能を高め(補脾),肺気を補い満たす(益肺) 。
(1)健脾の基本薬であり,脾虚証による食欲不振・下痢・嘔吐・倦怠感などや,脾虚による中気下陥証に使用される。
①脾虚証には,白朮・茯苓・炙甘草などと用いる。〔代表方剤:四君子湯,六君子湯〕。
②脾陽虚証の冷感・水様便などには,乾姜・附子・白朮などと用いる。〔代表方剤:人参湯,桂枝人参湯,附子人参湯〕。
③湿証を伴う脾虚証の慢性下痢には,白朮・茯苓・山薬・白扁豆・砂仁・陳皮などと用いる。〔代表方剤:啓脾湯,参苓白朮散〕。
④痰飲を伴う脾虚証の悪心・嘔吐・小便不利・めまいなどには,茯苓・半夏•生姜・沢瀉などと用いる。〔茯苓飲,半夏白朮天麻湯〕。
⑤中気下陥には,黄耆・白朮・升麻・柴胡などと用いる。〔代表方剤:補中益気湯〕。
(2) 肺虚証の慢性の咳嗽・喘息・息切れ ・倦怠感・易汗・易感冒などに使用される。
①肺腎両虚証には,蛤蚧・胡桃肉・五味子・黄耆などと用いる。〔代表方剤:補肺湯,人参蛤蚧散〕。
②慢性の咳嗽には,款冬花・五味子・百部・紫苑などと用いる。

益気生津

気を補うと同時に津液をより潤し(生津)口渇を止める。消渇・熱病などで,気虚し津液が消耗した証(気虚傷津)や気陰両虚証に使用される。
①熱病の気虚傷津による熱感・ロ渇・多汗などには,石膏・知母・粳米・竹葉・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:白虎加人参湯,竹葉石膏湯〕。
②気陰両虚証の動悸・ロ渇・熱感・ 倦怠感・息切れ・少苔などには,灸甘草・麦門冬・五味子・地黄・阿膠などと用いる。〔代表方剤:灸甘草湯,麦門冬湯,清暑益気湯〕。
③消渇病には,天花粉・麦門冬・知母・生地黄・山薬などと用いる。〔代表方剤:麦門冬飲子〕。

益智安神

気を補うことで,心神の安定を図り見識力を高める。気虚証や血虚証などによる,不眠・多夢・動悸・健忘・不安などに使用される。
①心脾両虚(気血両虚証)には,黄耆・酸棗仁・竜眼肉などと用いる。〔代表方剤:帰脾湯〕。
②心腎両虚(陰虚証)には,生地黄・麦門冬・天門冬・丹参・柏子仁などと用いる。〔代表方剤:天王補心丹〕。
③車前子・蓮子肉・茯苓・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:清心蓮子飲〕。

補気生血
・摂血

補気により陰血の生成を促進する。血虚・気血両虚証などに使用される。四物湯〔当帰・熟地黄など〕などの補血薬によく配合される。他に白朮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:参帰湯,十全大補湯,人参養栄湯〕。

扶正祛邪

祛邪薬に配合し,補気することで正気を強め邪を除く。邪盛正虚証や虚証体質の感冒などに使用される。祛邪薬の作用を阻害させないよう少量とする。
①気虚の感冒には,羗活・柴胡・蘇葉・生姜・葛根などと用いる。〔代表方剤:参蘇飲,人参敗毒散〕。
②気虚の便秘には,大黄・厚朴・枳実・当帰などと用いる。〔代表方剤:黄竜湯〕。

[注意点]邪火を助長し邪をとどめるので,実証・熱証には禁忌。

(管理No.01-123)