薬草辞典-か行

 

柴胡 さいこ

さいこ

[基原]セリ科ミシマサイコなどの根。

[性・味]微寒・苦・辛

[帰経]肝・胆

[用法]3~10g。退熱には多量(10~15g)を,疏泄や升陽には少量(3~5g)を使用する。醋炒柴胡は疏肝解鬱に,生柴胡は退熱作用に優れる。

陽気 ようき を引き上げ, を巡らせ,鬱熱 うつねつ を去る。葛根 かっこん より昇陽 しょうよう 作用に優れる。

解表退熱

気を巡らせて(疏泄),鬱熱を発散し取り除く(退熱)。軽度の発汗作用もある。
(1)傷寒少陽証治療の重要薬。半表半裏の邪による往来寒熱・胸脇苦満・ロ苦・咽頭乾燥・めまいなどに多用される。黄芩・半夏などと用いる。〔代表方剤:小柴胡湯〕。
(2)表証の外邪が除かれず鬱熱となったための強い身熱・軽度悪寒・頭痛・無汗・心煩・眼痛などに使用される。葛根・黄芩・石膏・桔梗などと用いる。〔代表方剤:柴葛解肌湯〕。
(3)瘧疾 ぎゃくしつ に使用される。生柴胡を多量に用いる。草果・青皮などと用いる。〔代表方剤:柴胡達原飲〕。

疏肝解鬱

肝気をよく伸びやかに巡らせ,気滞を除く。肝気鬱結のための胸腹部痞満・季肋部脹満痛・乳房のしこり・経前乳房脹満・抑鬱気分・焦燥感・月経不調・月経痛などに使用される。
①肝血虚証や脾虚証との合併による食欲不振・もたれ・月経失調・顔色不良などには,白朮・当帰・熟地黄・白芍・薄荷などと用いる〔代表方剤:加味逍遙散,逍遙散〕。
②胸腹季肋部の脹満痛(感)には,枳殻・川芎・香附子・鬱金・白芍などと用いる。〔代表方剤:四逆散,柴胡疏肝散〕。
③肝気鬱結で熱を生じたため(肝鬱化火)の焦燥感・眼球結膜充血・頭痛・ロ苦・黄色苔などには,竜胆草・黄連・黄芩・山梔子などと用いる。〔竜胆瀉肝湯,大柴胡湯〕。

昇堤陽気

清陽の気を上らせることで,下に墜ちた気(下陥の気)を引き上げる。 脾虚中気下陥証による脱肛・子宮脱・慢性の下痢・めまい・立ちくらみ・下垂感・ 倦怠感・息切れ・頻尿・ほてり感などに使用される。升麻・黄者・人参・白朮・芍薬などと用いる。〔代表方剤:補中益気湯,昇陥湯,乙字湯〕。

[注意点]昇散の性質が強く,陰や気を消耗しやすい。そのため過度の陰虚証や陰虚火旺証,肝陽上充証,気逆証には禁忌。また,適時滋陰補血薬や柔肝薬(白芍・ 当帰など)を配合すべきである。

(管理No.01-051)

 

細辛 さいしん

さいしん

[基原]〕ウマノスズクサ科ウスバサイシンの全草(中国),または根および根茎(日本)

[性・味]温・辛

[帰経]肺・腎・心

[用法]1~3g。“辛は銭(3g)を過ぎず”といわれ多量には使用しない。散剤・外用も可。藜芦と相反。

よく寒飲 かんいん を温め去る。辛性 しんせい で走性が強く,祛風 きょふう 散寒 さんかん 止痛し水飲 すいいん を去る。乾姜 かんきょう と比べ止痛作用に優れる。

祛風散寒・止痛

よく風寒を温め散じ止痛する。寒性疼痛の常用薬。
(1)風寒湿邪による頭痛・風寒湿痺証の関節痛・腹痛・胸痛・風寒歯痛などに使用される。
①頭痛には川芎・防風・荊芥などと用いる。〔代表方剤:川芎茶調散〕。
②風寒湿痺証には,独活・羗活・防風・秦艽・杜仲などと用いる。〔代表方剤:独活寄生湯〕。
③歯痛には,乳香・白芷などと用いる。含嗽も可。
④寒邪による下腹痛・四肢冷感などには,附子・桂枝・肉桂・当帰・呉茱萸などと用いる。〔代表方剤:当帰四逆加呉茱萸生姜湯〕。
⑤寒証の胸痺には,薤白・桂枝・丹参などと用いる。
(2) 寒邪が強い外感表証の,悪寒・頭痛・四肢関節痛・鼻閉・咽痒などに使用される。風寒表証には羗活などと用いる。〔代表方剤:九味羗活湯〕。 
(3)陽虚証を伴う外感表寒証の悪寒・冷感・倦怠感・横臥を欲する・淡白舌・脈沈などに使用される。麻黄・附子などと用いる。〔代表方剤:麻黄附子細辛湯〕。

温肺化飲

肺中の寒飲(寒飲伏肺)を温めて除去する。乾姜と同様だが,薬カはより優れる。寒飲伏肺の呼吸困難・水様性多痰・咳嗽・背部や四肢の冷感・白滑苔などに使用される。乾姜・麻黄・五味子・杏仁などと用いる。〔代表方剤:小青竜湯,苓甘姜味辛夏仁湯,苓甘五味姜辛湯〕。

宣通鼻窮

辛性で走竄性があり鼻腔(鼻窮)に入り,温めて湿邪を除き閉塞した鼻腔を通じさせる(宣通)。
(1) 鼻閉・鼻渊・水様性鼻汁などに使用される。辛夷・白芷・薄荷・麻黄などと用いる。
(2) 中風の意識障害の覚醒のため,粉末を鼻腔に吹きかけくしゃみをさせる。

風火歯痛

清熱瀉火薬を配合して,熱証の歯痛・舌炎・ロ内炎などにも使用さ れる。
①歯痛には石膏・黄芩などと用いる。
②舌炎や口内炎には,粉末を黄連末とともに塗布する。

浮熱を散じる作用もあり,外感風寒・外寒内熱・裏熱証・陰虚などの熱による咽頭痛に使用される。

[注意点]辛性が強く,気や陰液を消耗しやすい。気血両虚証・陰虚証には禁忌。

(管理No.01-052)

 

山楂子 さんざし

さんざし

[基原]バラ科オウミサンザシやサンザシの成熟果実。

[別名]酸楂 さんざ

[性・味]微温・酸・甘

[帰経]脾・胃・肝

[用法]5~10g。炒山楂子は消食,生山楂子は活血作用にそれぞれ優れる。

肉類の消化作用に優れ,活血 かっけつ 作用 を有する消食薬 しょうしょくやく

消食化積

消化を促進し,下痢を止める。特に肉類や脂肪,母乳の消化作用に優れる。肉・脂肪類などの食積によるもたれ・胃部や腹部脹満感(痛)・下痢,母乳の消化不良(乳積)による下痢,慢性下痢などに使用される。単味の服用も 可。
①食積には神麴・麦芽 ・莱菔子などと用いる。〔代表方剤:保和丸〕。
②腹部脹満痛には木香・ 枳実などと用いる。
③脾胃虚証を伴う食積には,白朮・陳皮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:健脾丸〕。

活血化瘀

血分に作用し活血して瘀血を散じる。新血の産生を妨げないとされる。産後の瘀血腹痛や悪露停滞 ・瘀血の月経失調や月経痛,さらには肝などの腫瘍に使用される。当帰・川芎・益母草・紅花・烏薬などと用いる。〔代表方剤:帰芎山楂湯,通瘀煎〕。

(1)仙気痛・陰嚢腫大などに使用される。小茴香・橘核などと用いる。
(2)近年では,高血圧・狭心症・高脂血症などにも使用されている。

[注意点]多食で歯を痛めるので,齲歯には多量に使用しない。

(管理No.01-053)

 

山梔子 さんしし

さんしし

[基原]アカネ科クチナシなどの成熟果実。

[性・味]寒・苦

[帰経]心・肺・肝・胃・三焦

[用法]5~10g。外用も可。生山梔子は清熱瀉火作用に,焦炭山梔子は涼血止血作用に優れる。焦山栖子は苦寒の性質が弱まる。

瀉火除煩 しゃかじょはん 作用があり,特に清心肝火 せいしんかんか 作用に優れる。夏枯草 かごそう 竜胆 りゅうたん の二薬に比べ,広範囲な実熱証 じつねつしょう に使用され,利湿 りしつ 涼血止血 りょうけつしけつ 作用を有する。

清熱瀉火
・除煩


鬱熱を冷まし取り去り,煩躁を除き,解毒する。“三焦の熱を冷ます”といわれ,広範囲の実熱証に使用されるが,特に心・肝の火をよく冷 ます。
(1)温病気分証などの熱邪による熱感・煩躁・胸悶・不眠・不安・焦燥感などに使用される。
①豆鼓・柴胡・香附子・川芎などと用いる。〔代表方剤:越鞠丸,梔子鼓湯〕。
②強い熱邪による高熱・煩躁譫語(うわ言)・意識障害などには,黄連・黄芩・大黄・連翹などと用いる。〔代表方剤:清瘟敗毒飲,黄連解毒湯〕。
(2)肝火上炎や肝鬱化火による頭痛・眼球結膜充血・眼痛・めまいや煩躁・熱感・胸部痞塞感などに使用される。菊花・柴胡・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:竜胆瀉肝湯 ,加味逍遙散〕。
(3)清熱解毒作用を有し,皮膚化膿症や打撲・捻挫・火傷などに使用される 。後者には粉末を使用。化膿症には黄連・黄芩・連翹などと用いる。〔代表方剤:清上防風湯〕。 

清熱利湿

利尿作用があり熱を小便より排泄する 。燥性はあまり強くない。湿熱の黄疸や膀胱湿熱の熱淋に使用される。
①黄疸には,大黄・黄柏・苦参などと用いる。〔代表方剤:茵蔯蒿湯,梔子柏皮湯 〕。
②熱淋には,木通・滑石・車前子などと用いる。〔代表方剤:五淋散,八正散〕。

涼血止血

止血作用があり,血熱による吐血・鼻出血・血尿や温病血分証の皮下出血などに使用される。生地黄・牡丹皮・大薊・小薊・茅根などと用いる。〔代表方剤:十灰散〕。

[注意点]潤腸通便傾向があり,脾胃虚寒証や脾虚証の下痢・食欲不振などには禁忌。

(管理No.01-054)

 

山茱萸 さんしゅゆ

さんしゅゆ

[基原]ミズキ科サンシュユの成熟果肉。

[別名]棗皮 そうひ

[性・味]微温・酸・澁

[帰経]肝・腎

[用法]5~10g。亡陽などの重症には多量(~30g) に使用してもよい。

補肝腎 ほかんじん の代表薬。枸杞子 くこし とよく同時に配合される。収斂作用を有する。

補肝腎陰

肝血と腎精を滋養する。補肝陰作用に優れるが,微温性であり腎精の補充を通して腎陽をも補う。肝腎陰虚のめまい・頭重・腰下肢倦怠感・耳鳴や陰陽両虚証の尿失禁・陽萎・遣精などに使用される。また肝腎陰虚の骨蒸潮熱などにも用いられる。
①山薬・熟地黄・牡丹皮・枸杞子・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:六味丸,八味丸 ,左帰飲,左帰丸〕。
②腎陽不足の陽萎・遺精・尿失禁などは当帰・補骨脂・麝香・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:草還丹〕。

収斂固澁

良好な収斂固澁作用を有する。主に下焦の滑脱症に使用される。
(1) 気虚や亡陽による盗汗・発汗過多・遺精・尿失禁・頻尿などに使用される。五味子・牡蛎・竜骨・黄耆・人参などと用いる。〔代表方剤:来復湯〕。
(2)肝腎陰虚に伴う過多月経・崩漏などに使用される 。阿膠・益母草・川芎・烏賊骨などと用いる。〔代表方剤:固衝湯〕。
(3)微温性であり,腎虚による五更瀉などにも使用される。補骨脂・五味子・肉豆蔲などと用いる。

[注意点]収斂作用があり湿熱証や小便不利,実証には慎重に使用する。

(管理No.01-055)

 

山薬 さんやく

さんやく

[基原]ヤマイモ科ナガイモの根茎。

[別名]薯蕷 しょよ

[性・味]平・甘

[帰経]脾・肺・腎

[用法]10~30g。粉末の服用(6~10g/回)や多量(60~200g)も可。生山薬は補陰に,炒山薬は健脾止瀉作用に優れる。

補気 ほき 作用のほか,潤燥 じゅんそう 作用と澁性 じゅうせい を有し,肺・腎の いん も補う補気健脾薬 ほきけんぴやく 白朮 びゃくじゅつ に比べ,甘平性で潤性 じゅんせい があり肺腎陰虚 はいじんいんきょ にも使用される。

補気健脾・
養陰


脾胃の気を補いその機能を高めて補気する。潤性があり,脾気とともに脾陰も補い,また澁性がありよく止瀉・止帯する。 一般的な脾胃虚証に使用されるが,特に脾虚証の慢性下痢や配合薬により種々の帯下,小児の栄養不良などに使用される。
(1)脾虚証の食欲不振・もたれ・胃部脹満感・下痢・倦怠感・顔色不良などに使用される。
①慢性の下痢には,白朮・白扁豆・人参・茯苓・陳皮・薏苡仁・砂仁などと用いる。〔代表方剤:啓脾湯,参苓白朮散〕 。
②胃陰虚証には,麦門冬・玉竹・ 石斛などと用いる。
(2) 脾虚証を伴う白色帯下・混濁尿・頻尿などに使用される。
①白帯下には, 竜骨・海螵蛸・牡蛎・茜草などと用いる。〔代表方剤:清帯湯〕。
②脾虚の帯下には,白朮・人参・蒼朮・柴胡・白芍などと用いる。〔代表方剤:易黄湯〕。

補益肺陰

肺気を補うとともに肺陰をも補う。肺虚証,特に肺陰虚の慢性咳嗽・息切れ・軽度呼吸困難・少痰・無痰・粘性痰・少苔などに使用される。麦門冬・五味子・玄参・鶏内金などと用いる。〔代表方剤:資生湯〕。

補腎陰

腎陰を補う。腎虚による遺精・頻尿・腰下肢倦怠無カ・めまい・ほてり・盗汗や白色帯下,消渇などに使用される。薬力は弱く他の補腎薬を配合する。
①腎虚証には,熟地黄・山茱萸・菟絲子・枸杞子などと用いる。〔代表方剤:六味丸,八味丸〕。
②消渇病には,知母・天花粉・地黄・葛根・石膏などと用いる。単品の服用も可。〔代表方剤:玉液湯〕 。
③腎虚の頻尿・遺精などには,芡実・益智仁・烏薬・蓮子肉などと用いる。〔代表方剤:金鎖玉関丸,縮泉丸〕。

[注意点]養陰作用があり湿を助長しやすい。そのため脾胃湿証や食積には単独使用しない。実熱証には禁忌。

(管理No.01-056)

 

三棱 さんりょう

さんりょう

[基原]ミクリ科ミクリの塊根。

[性・味]平・苦・辛

[帰経]肝・脾

[用法]3~10g。醋炒三棱は止痛作用に優れる。作用が強く,正気の損傷を防ぐために益気補血薬を配合すべきである。

破血行気止痛 はけつこうきしつう 作用と消腫 しょうしゅ 作用を有する活血薬 かっけつやく 莪朮 がじゅつ と薬効が類似し,よくともに配合される。平性 へいせい であり,莪朮 がじゅつ に比べ活血力 かっけつりょく に優れる。

破血行気

気血を巡らせ瘀血を除き,腫塊や結実を散じ,止痛する。強い活血作用(破血)を有し,同時に良好な行気作用を有する。気滞瘀血による腹部腫瘍(癥瘕・積聚)・ 肝腫大・季肋部痛・腹痛・閉経・外傷打撲などに使用される。特に有形で実体のある腫瘍(癥・積) に多用される。近年では子宮外妊娠の血腫にも使用される。
①癥瘕積聚・閉経には,牛膝・延胡索・川芎・鬱金などと用いる。〔代表方剤:三棱丸,三楂煎丸〕。
②虚証の瘀血には,人参・黄耆・当帰などと用いる。
③子宮外妊娠に,丹参・乳香・没薬・当帰などと用いる。〔代表方剤:宮外孕方〕。

行気消積

気を巡らせ鬱滞を除き止痛する。気滞が強い食積などによる腹部脹満痛 (感)・腹部痞塞悶絶感・噯気・呑酸・厚苔などに使用される。
①食積気滞には,青皮・麦芽・檳榔子・山楂子などと用いる。〔代表方剤:三棱煎,木香檳榔丸〕。
②脾胃虚証の食積には,人参・白朮などと用いる。

[注意点]月経過多・妊婦には禁忌。

(管理No.01-057)

 

紫蘇葉 しそよう

しそよう

[基原]シソ科シソなどの葉。

[別名]紫蘇 しそ 蘇葉 そよう

[性・味]温・辛

[帰経]肺・脾・胃

[用法]3~10g。長時間煎じない。外用も可。

風寒 ふうかん を散じ, を巡らせ肺や脾胃 ひい 気滞 きたい を去る。荊芥 けいがい に比べ,散寒力は強い。

発汗解表

発汗により風寒を散じて表証を治癒させる(解表)。穏やかな薬性で,最も一般的な辛温解表薬。風寒表証の悪寒発熱・頭痛・鼻閉・無汗などに使用される。発汗力は麻黄に次いで強い。
(1)一般的な風寒表証や胸悶感・咳嗽を伴う風寒感冒などに使用される。咳嗽 を伴う風寒感冒時には,杏仁・前胡などと用いる。〔代表方剤:杏蘇散〕
(2)悪心・嘔吐.胃部不快感などを伴う胃腸型感冒,虚弱者の感冒(補益薬と配合)などに多用される。気滞を伴う表寒証の胸悶感・悪心嘔吐・腹部脹満などには,香附子・陳皮・半夏・枳実などと用いる。〔代表方剤:香蘇散 ,参蘇飲 〕

行気和中

気を巡らせ脾胃の気滞を緩和し(寛中),脾胃の働きを伸びやかに調整し(和中),嘔吐を止める。脾胃気滞の胸悶・胃部の重苦しさやつかえ・悪心・ 嘔吐などに使用される 。
①寒証には,藿香・大腹皮・陳皮・香附子・半夏などと用いる。 〔代表方剤:藿香正気散〕
②胃熱による口苦・黄苔などには,黄連などと用いる。
③気滞により痰が停滞(痰結)したための,梅核気・胸悶感・嘔吐などには,半夏・厚朴・香附子などと用いる。〔代表方剤:半夏厚朴湯 〕

行気安胎

気を巡らせるとともに安胎(流産防止)作用もあり,妊娠性嘔吐な どに使用される。陳皮・白朮・砂仁・木香などと用いる。

魚貝類や蟹の食中毒による下痢・腹痛・嘔吐などに用いられる。生姜・ 白朮・半夏などと用いる。

 

(管理No.01-058)

 

地膚子 じふし

じふし

[基原]アカザ科ホウキギの成熟果実。

[性・味]寒・甘・苦

[帰経]腎・膀胱

[用法]10~15g。外用も可。

皮膚や膀胱の湿熱 しつねつ を去り,止痒する。

清熱利湿

よく利水し湿熱を冷まし除く 。湿熱の淋病(熱淋)の小便不利・ 排尿痛などに多用される。車前子・滑石・木通・瞿麦など用いる。〔代表方剤:地膚子湯〕。

利湿止痒

皮膚の湿熱を除き止痒する 。
(1)湿熱による湿疹・疥癬・滲出液のある皮膚化膿症・全身瘙痒感・蕁麻疹.湿熱の黄色や白黄混在の帯下などに使用される。白蘚皮・菊花・生地黄・蟬退な どと用いる。外用も可。
(2) 男女の陰部湿疹や瘙痒感・腟炎などに使用される。多くは外用で使用。蛇床子・苦参・白矾(ミョウバン)などと用いる。

(管理No.01-059)

 

地竜 じりゅう

じりゅう

[基原]ツリミミズ科カッショクツリミミズやフトミミズ科のミミズなどの乾燥体。

[別名]蚯蚓 きゅういん 土竜 どりゅう

[性・味]寒・鹹

[帰経]肝・脾・膀胱

[用法]5~15g。粉末(1~2g/回)や外用も可。

無毒で薬性は温和。全蠍 ぜんかつ 蜈蚣 ごしょう より薬力は弱いが,虚実両証 きょじつりょうしょう に使用可能。寒性 かんせい で肝・肺・膀胱などの熱を下降させ,かつ通絡 つうらく 作用を有する無毒で温和な清熱熄風 せいねつそくふう 止痙薬 しけいやく

清熱・
平肝熄風


熄風止痙作用とともに,邪を駆除し下降させ,かつよく熱を冷ます。高熱による煩躁・痙攣,肝陽上亢による頭痛・眼球結膜充血・めまい・熱性の狂状態などに使用される。単味の服用も可。
①熱性の痙攣には,釣藤鈎・石膏・白僵蚕・全蠍・大青葉などと用いる。
②肝陽上亢には,石決明・菊花・夏枯草などと用いる。

清熱通絡

寒性で清熱とともに経絡を流暢にし(通利)止痛する。
(1) 風湿痺証や中風の半身マヒ,瘀血の経絡阻害などに使用される。特に熱性のものに適する。
①風湿熱痺の関節の発赤・腫脹・疼痛には,桑枝・忍冬藤・赤芍などと用いる。〔代表方剤:桑絡湯〕。
②風寒湿痺証の関節疼痛・関節運動不利などには,川烏・草烏・天南腥・乳香・没薬などと用いる。〔代表方剤:小活絡丹〕。
③気虚瘀血証の中風後遺症の半身マヒには,黄耆・当帰・紅花・川芎などと用いる。〔代表方剤:補陽還五湯〕。
(2) 骨の生成癒合促進作用もあるとされ,骨折の腫脹疼痛や打撲症にも使用される。当帰・桃仁・紅花・乳香などと用いる。

平喘

肺熱を冷まし呼吸困難を緩和する(平喘)。肺熱証の咳嗽・喘息・百日咳(頓咳)などに使用される。特に痰熱の多痰・呼吸困難や咳嗽に適する。肺熱証には,麻黄・杏仁・石膏・知母などと用いる。

清熱利尿

鹹味で下降作用があり,清熱とともに利尿する。熱が膀胱に結んだ(熱結膀胱)ための淋病・小便不利・排尿痛・排尿困難などに使用される。特に熱淋に適する。単味の服用も可。車前子・木通・滑石などと用いる。

(1)近年,降圧作用もあるとされる。石決明・夏枯草・黄芩・釣藤鈎などと用いる。
(2)火傷・下肢皮膚潰瘍などに外用で使用される。

[注意点]脾胃虚弱者や虚寒証には禁忌。

(管理No.01-060)

 

芍薬 しゃくやく (白芍薬)

しゃくやく

[基原]ボタン科シャクヤクの栽培種根。

[性・味]微寒・苦・酸

[帰経]肝・脾

[用法]5~10g。重症や柔肝には多量に使用する(15~30g)。丸剤も可。炒白芍は補血に,生白芍は養陰・止汗・平肝に,醋炒白芍は止痛に,それぞれ優れる。酒炒白芍は寒性が弱くなる。

寒性 かんせい 補血滋陰薬 ほけつじいんやく 。滋陰とともによく柔肝平肝 じゅうかんへいかん して汗を止める。

養陰柔肝平肝

よく肝血肝陰を補う。微寒性であり血虚内熱に適する。
(1) 肝血虚のめまい・動悸・顔色不良・不眠・羸痩・月経後期・過少月経・閉経などに使用される。また月経不調・産後腹痛・崩漏などにも用いられる。当帰・熟地黄・阿膠 ・川芎などと用いる 。〔代表方剤:四物湯 〕。
(2) 肝陰を補い,上昇した肝陽を抑える(平肝)。肝血虚・肝陰虚の肝陽上亢による頭痛・めまい・痙攣・顔面紅潮や熱感・眼瞼眼球結膜充血・焦燥感などに使用される。生地黄・牛膝・牡丹皮などと用いる。

柔肝緩急止痛

肝の陰血を補うこと(柔肝)で気を緩め,気滞を改善して止痛する。また止痢作用もある。肝血虚や肝陰不足に伴う肝気鬱結証の季肋部脹満痛 (感)・腹痛・月経前乳房脹満痛(感)・筋肉痙攣や疼痛・腹痛下痢などに使用される。
①陰虚の季肋部痛胃痛には,川棟子・枸杞子・沙参などと用いる。〔代表方剤:四逆散 ,一貫煎〕。
②腹痛・筋肉痙攣疼痛には,甘草などと用いる。〔代表方剤:芍薬甘草湯〕。
③肝脾不調の腹痛下痢には,防風・白朮などと用いる。〔代表方剤:痛瀉要方〕。

斂陰収斂止汗

陰液を保持し汗の漏れを防ぐ。表虚証の盗汗・自汗に使用される。
①風寒表証の悪風・自汗などには,桂枝・生姜などと用いる。〔代表方剤:桂枝湯〕。
②陰虚内熱の盗自汗には,牡蛎・竜骨・浮小麦などと用いる。

[注意点]伝統的に藜芦とは相反。陽虚証には慎重に使用する。

(管理No.01-061)

 

沙参 しゃじん

しゃじん

[基原]キキョウ科トウシャジンやサイヨウシャジンなどの根。

[別名]南沙参 なんしゃじん

[性・味]寒・甘・微苦

[帰経]肺・胃

[用法]10~15g。丸・散剤にも使用可。

よく肺と胃の陰を補う。北沙参 きたしゃじん に比べ養陰 よういん 作用そのものは弱いが,肺陰 はいいん の滋養には優れる。また化痰 かたん 作用を有する。

養陰清肺
・化痰

肺をよく滋養し潤し肺熱を冷ます。同時に化痰して止咳す る。肺燥証や肺陰虚証,肺熱,肺癆などに使用されるが,熱証を伴うものに適す る。また表証にも使用可能。粘性で喀出困難な黄色少痰に多用される。そのほか, 乾咳粘性少痰や無痰・血痰・口燥感・ロ渇などに使用される。
①温燥の表証を伴う肺燥咳嗽には,桑葉・豆鼓・杏仁・貝母などと用いる。〔代表方剤:桑杏湯〕。
②肺熱陰虚証には, 麦門冬・桑葉・玉竹・天花粉などと用いる。〔代表方剤:沙参麦門冬湯〕。
③肺癆の咳嗽・血痰などには,天門冬・熟地黄・百部・貝母などと用いる。〔代表方剤:月華丸〕。
④肺熱証には,石膏・地骨皮・桑白皮・貝母などと用いる。

養胃生津

胃陰を補い津液をよみがえらせる。北沙参に比べ養胃作用は弱い。外感病後期や慢性疾患の胃陰虚証による口燥・嘈雑感・便秘・紅舌・無苔や少苔などに使用される。麦門冬・玉竹・石斛・生地黄などと用いる。〔代表方剤:益胃湯〕。

[注意点]伝統的に藜芦は禁忌。風寒や寒飲性の咳嗽,脾胃寒虚証には禁忌。

(管理No.01-062)

 

車前子 しゃぜんし

しゃぜんし

[基原]オオバコ科オオバコの成熟種子。

[性・味]寒・甘

[帰経]腎・肝・肺

[用法]5~10g。包煎。

寒性の利水滲湿薬 りすいしんしつやく 熱淋 ねつりん の重要薬。滑石 かっせき に比べ利水力に優れ,明目 めいもく 清肺 せいはい 作用を有する。

清熱利湿

寒性であり,下焦の湿熱を尿より排泄し除く。利水力に特に優れ, 湿熱による熱淋の排尿痛・褐色尿・頻尿・排尿困難などに多用される。また小便不利や浮腫などにも使用される。
①熱淋には,滑石・木通・山梔子・沢瀉・瞿麦・茯苓などと用いる。〔代表方剤:五淋散,八正散〕。
②浮腫には,茯苓・白朮・沢瀉などと用いる。

利湿止痢

利尿することで下痢を止める。湿邪の下痢に使用される。単味の服用も可。
①湿性下痢には,茯苓・白朮・沢瀉などと用いる。
②暑湿の下痢には,藿香・香薷・茯苓などと用いる。

清肝明目

肝火を冷まし明目する。
(1)肝火上炎による眼球充血(目赤)眼球痛・眼精疲労・霞視,肝熱の頭痛などに使用される。菊花・決明子・黄連・密蒙花などと用いる。
(2) 肝腎陰虚による霧視・眼前暗・立ちくらみ・頭重などに使用される。熟地黄・枸杞子・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:牛車腎気丸,駐景丸〕。

清肺化痰

肺熱を冷まし,痰を除き(化痰)咳嗽を緩和する。肺熱の咳嗽・黄色多痰などに使用される。杏仁・前胡・桔梗・貝母などと用いる。

(管理No.01-063)

 

十薬 じゅうやく

じゅうやく

[基原] ドクダミ科ドクダミの地上部。

[別名]魚腥草 ぎょせいそう 重薬 じゅうやく 蕺菜 じゅうさい

[性・味]微寒・苦

[帰経]肺

[用法]10~30g。肺癰には多量(60~90g)に使用する。外用も可。揮発成分を含むため,長時間煎じるべきではない。

清熱利尿 せいねつりにょう 作用を有する清肺薬 せいはいやく

清肺解毒

肺の熱毒 を冷まし,膿を排泄する。肺癰や肺熱証(熱邪壅肺)による粘性黄色痰・膿性痰・血痰・胸痛・咳嗽などに使用される。
①肺癰には金蕎麦・芦根・桔梗などと用いる。〔代表方剤:葦茎湯〕。
②肺熱証には金蕎麦・貝母・桑白皮・知母などと用いる。

消癰腫

瘡瘍の熱毒を冷まし縮小させる。皮膚化膿症・痔核・湿疹などに使用される。金銀花・野菊花・蒲公英・連翹などと用いる。

清熱利尿

清熱利尿通淋作用があり,熱淋の排尿痛・頻尿・排尿困難などに使用される。石葦・金銭草・海金沙・車前子などと用いる。

(管理No.01-064)

 

熟地黄 じゅくじおう

じゅくじおう

[基原]ゴマノハグサ科ジオウやカイケイジオウの根を酒で蒸したもの。

[性・味]微温・甘

[帰経]肝・腎

[用法]10~30g。丸・散・膏剤にも使用可能。

補血滋陰 ほけつじいん の重要薬。阿膠 あきょう に比べ,滋陰 じいん に優れる。

補血

よく心肝の血虚を補い,一切の血虚証に使用される。血虚によるめまい・ 動悸・顔色不良・不眠・羸痩・月経後期・過少月経・閉経などに使用される。また不正性器出血(崩漏)などにも使用される。当帰・白芍薬・阿膠・川芎などと用いる。〔代表方剤:四物湯,芎帰調血飲 〕

滋陰補精

腎陰を潤し補い腎精を生じさせる。滋補肝腎の代表薬。
(1)腎陰虚や肝腎陰虚のめまい・耳鳴・腰部の疼痛や倦怠感・盗汗・遺精などに使用される。
①腎陰虚証には,山茱萸・山薬・牡丹皮・何首烏・山茱萸などと用いる。〔代表方剤:六味丸 ,左帰丸〕
②陰虚火旺の骨蒸潮熱・盗汗・ほてりなどには,亀板・ 知母・黄柏などと用いる。〔代表方剤:大補陰丸〕
③心腎陰虚証の不眠・多夢・動悸などには,酸棗仁・柏子仁・遠志などと用いる。〔代表方剤:養心湯,天王補心丹〕
(2)精血虚損による発育遅延・白髪・不妊症・インポテンツ・早衰 ・健忘などに使用される。拘杞子・菟絲子・鹿角膠・何首烏などと用いる。
(3)腎虚による咳嗽・息切れなどにも使用される。
①肝腎両虚証の息切れ・喘息などには,五味子・麦門冬・山薬・茯苓・山茱萸などと用いる。〔代表方剤:都気丸〕
②腎虚の咳嗽・多痰には,茯苓・白朮・半夏 ・当帰などと用いる。〔代表方剤:金水六君煎〕

潤腸通便作用があり,腸燥便秘に使用される。通便力は弱く,他薬の補助薬として用いられる。麻子仁・杏仁・桃仁・阿膠・当帰などと用いる。〔代表方剤:潤腸湯〕

[注意点]粘膩性が強く,生地黄より消化を妨害しやすい。脾胃虚弱・湿証・気滞などの腹部脹満痛・食欲不振・下痢などには禁忌。胃障害の防止には,縮砂・陳皮・木香などを配合する。

(管理No.01-065)

 

縮砂 しゅくしゃ

しゅくしゃ

[基原]ショウガ科シュクシャミツの種子。

[別名]砂仁 しゃじん・しゃにん 陽春砂 ようしゅんしゃ

[性・味]温・辛

[帰経]脾・胃

[用法]2~5g。砕いて煎じる。後下。多量には使用しない。

理気 りき 作用に優れ,湿困脾胃気滞証 しつこんひいきたいしょう に多用される化湿薬 かしつやく 安胎 あんたい 作用のある温性化湿薬 おんせいかしつやく 。白豆蔲に比べ,行気 こうき 作用が強く止痛力・止痢力に優れる。

化湿行気
・止痢


気を巡らせよく湿を除くことで,脾機能を活発にし胃機能を整える(醒脾和胃)。芳香性が強く,優れた化湿・行気作用を有し,温燥性・行気止痛カ・止痢力に優れる。中焦・下焦に作用し,湿困脾胃証や湿阻気滞証の胃部脹満(痛)・食欲不振・腹痛下痢(特に寒湿下痢)などに多用される。そのほか,食積証のもたれ・食欲不振・下痢,脾虚痰湿証の嘔吐・下痢などにも用いられる。また補益薬の胃腸障害防止にも使用される。
①湿困脾胃の胃部脹満・もたれ・嘔吐・食欲不振などには,白豆蔲・木香・蒼朮・厚朴・陳皮などと用いる。〔代表方剤:香砂二陳湯〕。
②脾胃気滞証のもたれ・胃部脹満感などは,木香・枳実・白朮など。〔代表方剤:香砂枳朮丸〕。
③食積証の腐臭性噯気・呑酸などには,山楂子・莱菔子・枳実・神麴などと用いる。
④脾虚証と湿邪気滞を伴う脾虚証には,党参・白朮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:香砂六君子湯〕。
⑤寒性が強い腹痛下痢は,乾姜・附子・肉豆蔲などと用いる。〔代表方剤:縮砂丸〕。

行気安胎

行気和胃することで止嘔し,流産を防止する(安胎)。妊娠悪阻・胎動不安・流産防止に使用される。
①妊娠悪阻には半夏などと用いる。
②胎動不安には白朮・蘇梗などと用いる。
③腎虚の胎動不安には杜仲・桑寄生・続断などと用いる。

[注意点]陰虚内熱証には禁忌。

(管理No.01-066)

 

生姜 しょうきょう

しょうきょう

[基原]ショウガ科ショウガの新鮮な根茎。

[性・味]微温・辛

[帰経]肺・脾・胃

[用法]3~10g。外用も可。絞り汁を服用してもよい。

解表 げひょう して中焦 ちゅうしょう を和す。解表 げひょう 作用とともに脾胃 ひい を温め整えて除湿し,よく止嘔する。

発汗解表

風寒表証で悪寒発熱・頭痛・鼻閉などに使用される。解表作用は弱く,主に他の辛温解表薬の補助薬として用いられる。〔代表方剤:桂枝湯〕。

温中・止嘔

(1)胃を温め胃気を降ろし湿を除くことで,悪心・嘔吐を止める。そのため“嘔家の聖薬”といわれる。寒熱両証に使用可能。
①胃寒証の口渇がない悪心・嘔吐・腹痛・滑苔などには,半夏・陳皮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:小半夏加茯苓湯〕。
②胃熱証の口苦・胸やけ・黄苔を伴う悪心・嘔吐には,黄連・竹茹・枇杷葉などと用いる。〔代表方剤:橘皮竹茹湯〕。
(2)生姜汁で炮製することで他薬の止嘔作用を増強させる。姜竹茄・姜半夏など。

解毒

(1)半夏・天南星・附子・烏頭などの毒性や刺激性を緩和する。またこれらの薬物中毒に用いられる。また半夏・天南星などは,一般に生姜とともに炮製して毒性を中和後に使用されることが多い。
(2)魚や蟹の中毒による嘔吐・下痢などを緩和する。紫蘇などと用いる。

[注意点]温燥性があるため,陰虚内熱証・表虚自汗・胃陰虚の嘔吐には禁忌。

(管理No.01-067)

 

生地黄 しょうじおう

しょうじおう

[基原]ゴマノハグサ科カイケイジオウの根。

[性・味]寒・甘・苦

[帰経]心・肝・腎

[用法]10~30g。炒炭地黄は止血に優れる。

清熱滋陰 せいねつじいん の重要薬。玄参 げんじん に比べ,涼血 りょうけつ 滋陰養血 じいんようけつ 作用に優れ,止血作用を有する。陰血 いんけつ 不足と虚火 きょか がある病態に広く使用される。

清熱涼血

温熱病営血証の高熱・意識障害・口渇・発疹・発班・絳色舌などに使用される。玄参・犀角・黄連・牡丹皮・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:清営湯〕。

涼血止血

(1)清熱涼血することで止血する。血熱妄行のための吐血・尿血・鼻出血・血便・不正性器出血(崩漏)などに使用される。
①吐血や鼻出血などには,側柏葉・艾葉・荷草などと用いる。〔代表方剤:四生丸〕。
②血便には,地楡・槐花などと用いる。
③血尿には,茅根・小薊・蒲黄・山梔子などと用いる。〔代表方剤:小薊飲子〕。
④崩漏には阿膠・牡丹皮などと用いる。
(2)血熱による発斑・湿疹・蕁麻疹・出血斑や紫斑などに使用される。
①出血斑・紫斑には,犀角・赤芍薬・牡丹皮などと用いる。〔代表方剤:犀角地黄湯〕。
②湿疹などには,蟬退・防風・当帰・石膏などと用いる。〔代表方剤:消風散〕。

滋陰生津

陰分を滋養し,軽度ながら津液を潤す。
(1)温熱邪により津液や陰分が消耗したための,便秘・ロ渇・舌乾燥などに使用される。玄参・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:増液湯〕。
(2)温病後期で余熱が退かず津液が消耗したための,夜間発熱・ほてり感・ロ燥・紅舌乾燥・少苔や無苔などに使用される。
(3)雑病陰虚内熱証の骨蒸潮熱・五心煩熱・便秘・ロ渇・腰部下肢の疼痛や脱力感・遺精・舌質紅などに使用される。玄参・麦門冬・知母・地骨皮・鼈甲・青蒿などと用いる。〔代表方剤:青蒿鼈甲湯〕。
(4)陰虚火旺証の咽頭痛に使用される。玄参・甘草・薄荷・山豆根などと用いる。
(5)熱による陰液消耗のための,口渇・口燥・紅色舌・五心煩熱などに使用される。麦門冬・沙参・玉竹などと用いる。〔代表方剤:益胃湯〕。
(6)消渇病の多飲・ロ渇などに使用される。黄者・山薬・葛根・天花粉などと用いる。〔代表方剤:滋膵飲〕。

[注意点]脾虚証による湿証や下痢には禁忌。

(管理No.01-068)

 

小麦 しょうばく

しょうばく

[基原]イネ科コムギの種子。

[性・味]微寒・甘

[帰経]心

[用法]30~60g。

益気 えき 退熱 たいねつ 除煩 じょはん 作用を有する斂汗薬 れんかんやく 。浮小麦に比べ,養心除煩 ようしんじょはん 作用に優れる。

養心除煩

心神を養い安定させる。心神不安による煩躁・焦燥・不安・不眠・臓躁証などに使用される。甘草・大棗などと用いる。〔代表方剤:甘麦大棗湯 〕。

斂汗

心陰を滋養し熱を除き,糯稲根などと同様に皮膚を引き締め汗を止める。心の気陰不足による自汗・盗汗や陰虚による骨蒸潮熱などに使用される。
①気虚の自汗には,麻黄根・黄耆・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:牡蛎散〕。
②陰虚内熱の骨蒸潮熱や盗汗には,麦門冬・地骨皮・生地黄・玄参などと用いる。

 

(管理No.01-069)

 

升麻 しょうま

しょうま

[基原]キンポウゲ科サラシナショウマやオオミツバショウなどの根茎。

[性・味]微寒・甘・辛

[帰経]脾・胃・肺

[用法]3~10g。炙升麻は昇提中気に優れる。

清熱解毒 せいねつげどく 作用を有する昇陽 しょうよう 薬。

発表透疹

風熱を発散し,さらに透疹する。だが,発表発散作用は弱く,主に麻疹の初期に使用される。生升麻を使用。葛根・芍薬・甘草などと用いる。〔代表方剤:升麻葛根湯〕。

昇提中気

脾胃の陽気を引き上げる。
(1) 脾虚の中気下陥証による脱肛・子宮脱・慢性の下痢・めまい・立ちくらみ・下垂感・ 倦怠感・息切れ・頻尿・ほてり感などに使用される。柴胡・黄者・人参・白朮・芍薬などと用いる。〔代表方剤:補中益気湯,昇陥湯,乙字湯〕。
(2) 気虚が下陥し血が保持不能(気不摂血)となったための不正性器出血・過多月経などに使用される。黄者・人参・白朮などと用いる。〔代表方剤:挙元煎〕。

清熱解毒

肺胃の熱を冷まし解毒する。
(1)胃火亢進による歯痛・歯齦炎・ロ内炎などに使用される。黄連・生地黄・牡丹皮・石膏などと用いる。〔代表方剤:清胃散,立効散〕。
(2)風熱による咽頭の発赤腫脹疼痛に使用される。桔梗・玄参・牛蒡子などと用いる。 〔代表方剤:普済消毒飲〕。
(3)温病の発斑や皮膚化膿症に使用される。
①発斑には石膏・犀角・生地黄などと用いる。
②皮膚化膿症には金銀花・連翹などと用いる。
(4)陽明経(前額部)の頭痛に使用される。

[注意点]昇散の性質があり,陰虚火旺や咳嗽・喘息などの気逆証には禁忌。また麻疹後期には使用しない。

(管理No.01-070)

 

女貞子 じょていし

じょていし

[基原]モクセイ科トウネズミモチの成熟果実。

[性・味]涼・甘・苦

[帰経]肝・腎

[用法]10~15g。丸・膏剤,外用も可。

薬性が温和な補肝腎薬 ほかんじんやく 熟地黄 じゅくじおう 山茱萸 さんしゅゆ 枸杞子 くこし より補陰 ほいん 作用は劣る。旱蓮草とともによく配合される〔二至丸〕。墨旱蓮 ぼくかんれん より補肝腎 ほかんじん 作用に優れるが,止血作用はない。

補肝腎陰

肝腎の陰を補う。膩性が少なく作用は比較的温和。特に陰虚内熱のものに適する。
(1)肝腎陰虚による頭重・めまい・耳鳴・腰下肢倦怠感・遺精・白髪などに使用される。旱蓮草・熟地黄・黄精・菟絲子・枸杞子・何首烏などと用いる。
(2)明目作用もあり肝腎陰虚による視力低下・霧視・眼花などに使用される。熟地黄・枸杞子・黄精・菟絲子・覆盆子などと用いる。
(3)補陰により虚熱を冷ます。陰虚内熱による心煩・骨蒸潮熱・ほてり・紅舌・少苔などに使用される。地骨皮・牡丹皮・生地黄・白薇などと用いる。〔代表方剤:女貞湯〕。

[注意点]寒性であり脾胃虚寒証の下痢,陽虚証には禁忌。

(管理No.01-071)

 

辛夷 しんい

しんい

[基原]モクレン科モクレンやハクモクレン望春花などの花蕾。

[性・味]温・辛

[帰経]肺・胃

[用法]3~10g。外用も可。包煎。

鼻渊 びえん の常用薬。解表薬 げひょうやく としてはあまり使用されない。蒼耳子 そうじし に比べ,通鼻作用は強いが解表力 げひょうりょく は弱い。

通鼻・
散風寒

鼻腔の通気を良好にする(通鼻)。鼻渊・鼻閉・粘性鼻汁・無臭,さらに風寒性の頭痛に多用される。寒熱両証に使用可能だが,特に風寒証の病態に適する。

①寒証鼻渊や頭痛には,細辛・防風・白芷・藁本などと用いる。〔代表方剤:葛根湯加川芎辛夷〕。
②熱証鼻渊には,薄荷・黄芩・連翹・石膏などと用いる。〔代表方剤:辛夷清肺湯〕。

[注意点]陰虚火旺には禁忌。

(管理No.01-072)

 

神麴 しんきく

しんきく

[基原]小麦粉や米の( ふすま に赤小豆粉,杏仁泥,蒼茸,青蒿などと混合し発酵させたもの。

[別名]六麴 ろくきく

[性・味]温・甘・辛

[帰経]脾・胃

[用法]6~12g。丸・散剤も可。炒焦神麴は消食和胃作用に優れる。

消食 しょうしょく 作用とともに健脾和胃 けんぴわい を有する優れた消食薬 しょうしょくやく

消食和胃

消化を促進するとともに脾胃機能を補助調整(健脾和胃)し,下痢を止める。特に澱粉類の消化作用に優れる 。
(1)食積証や脾胃虚証の食欲不振・もたれ・胃部脹満痛(感)・下痢・噯気,酒積にも使用される。特に食積による下痢に多用される。山楂子・麦芽・莱菔子・香附子などと用いる。〔代表方剤:保和丸,越麴丸〕 。
(2)消化不良などの胃腸障害を起こしやすい丸剤(磁朱丸など)の賦形剤としても用いられる。

(管理No.01-073)

 

赤芍 せきしゃく

せきしゃく

[基原]ボタン科ヤマシャクヤクの根。

[性・味]微寒・苦

[帰経]肝・脾

[用法]5~10g。

活血 かっけつ 作用も兼ねる清熱涼血薬 せいねつりょうけつやく 血熱瘀血証 けつねつおけつしょう の常用薬。牡丹皮 ぼたんぴ とよく同時に配合される。牡丹皮 ぼたんぴ に比べ活血 かっけつ 作用に優れ,かつ止痛作用を有する。涼血 りょうけつ 作用は牡丹皮 ぼたんぴ に比べやや劣る。

清熱涼血

血熱を冷まし,よく活血し,血熱の妄行を防ぐ。涼血作用は牡丹皮に比べやや劣る。以下の温病や雑病に使用される。
(1)温熱病の営分血分証で,夜間の高熱・発疹発斑・絳色舌などに使用される。牡丹皮・生地黄・玄参・連翹などと用いる。
(2)血熱妄行による吐血・鼻出血などに使用される。牡丹皮・犀角・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:犀角地黄湯〕。
(3)血淋や熱淋の小便不利にも使用される。小薊・茜草・茅根などと用いる。

活血止痛

血熱を冷まし瘀血を除き止痛する。疼痛を有する熱性瘀血によく適する。
(1)瘀血の閉経(無月経)・月経痛・腹部腫瘍(癥・積)などに使用される。桃仁・川芎・当帰・乳香・紅花・牡丹皮などと用いる。〔代表方剤:桂枝茯苓丸,隔下逐瘀湯, 血府逐瘀湯,通竅活血湯,少腹逐瘀湯,大黄䗪虫丸〕。
(2)外傷打撲や瘀血の腫脹疼痛に使用される。没薬・乳香・牡丹皮・紅花などと用いる。〔代表方剤:折衝飲〕。
(3)皮膚化膿症・腸癰などにも使用される。皮膚化膿症や腸癰には,金銀花・乳香・皂角刺・山梔子などと用いる。〔代表方剤:仙方活命飲〕。
(4)中風の後遺症に使用される。黄者・地竜などと用いる。〔代表方剤:補陽還五湯) 。
(5) 熱毒による腹痛・膿血便・下痢などに使用される。黄柏・地楡などと用いる。〔代表方剤:芍薬湯〕。

清肝瀉火

肝火を冷ます。
(1)肝火による眼球眼瞼充血・眼痛・熱感頭痛・ほてり感などに使用される。菊花・夏枯草・木賊・決明子などと用いる。〔代表方剤:決明子散〕。
(2)肝鬱化火による季肋部痛に使用される。柴胡・香附子・鬱金などと用いる。

[注意点]虚寒証には禁忌。藜芦とは配合禁忌。

(管理No.01-074)

 

石菖根 せきしょうこん

せきしょうこん

[基原]サトイモ科セキショウの根茎。

[別名]菖蒲 しょうぶ 石菖蒲 せきしょうぶ 九節菖蒲 きゅうせつしょうぶ

[性・味]温・辛

[帰経]心・胃

[用法]煎剤として使用される。 5~10g。粉末も使用可能。

和中 わちゅう 作用も有する化痰開竅薬 かたんかいきょうやく 寒閉 かんへい 熱閉 ねつへい 両証に使用可能。

化痰開竅

芳香性が強く,よく痰を除き経絡を通じさせ開竅する。温性であるが,寒閉・熱閉両証に使用可能。化湿作用は蘇合香より弱い。
(1)湿痰が心竅を塞いだ(蒙閉)ための意識障害・精神撹乱・中風・癲癇などに使用される。
①湿熱の意識障害には,鬱金・竹葉や連翹・天竺黄・天南星などと用いる。〔代表方剤:菖蒲鬱金湯〕。
②痰濁による癲狂には,天南星・遠志・茯神・半夏・生鉄落などと使用する。〔代表方剤:生鉄落飲〕。③癲癇には鬱金・朱砂・白矾などと用いる。
(2)痰湿が経絡を塞ぎ(壅阻経絡),清陽が阻止されたための耳鳴・聴力低下・知力低下・健忘などに使用される。遠志・茯苓・天南星・竜歯・磁石などと用いる。〔代表方剤:安神定志丸〕。

化湿和中

芳香性により脾胃の湿濁を除く。食欲増進作用もある。中焦湿濁による胸腹部脹満痞塞感や疼痛・もたれ・食欲不振・下痢などに使用される。寒熱両証に使用可能。
①蒼朮・厚朴・白豆蔲・陳皮・茯苓・藿香などと用いる。
②湿熱証の腹痛下痢・噤口痢・嘔吐・食欲不振などには,黄連・陳皮・石蓮子などと用いる。〔代表方剤:開噤散〕。
③脾虚証を兼ねるものには,人参・白朮・茯苓などと用いる。

[注意点]陰虚血虚証・多汗には慎重に使用する。

(管理No.01-075)

 

川芎 せんきゅう

せんきゅう

[基原]セリ科センキ ュウなどの根茎。

[別名]芎藭 きゅうきゅう

[性・味]温・辛

[帰経]肝・胆・心包

[用法]3~10g。丸・散剤も可。

血中の気薬 けっちゅうのきやく 本草網目 ほんぞうこうもく ≫”といわれ行気 こうき 作用が強い活血薬 かっけつやく 活血 かっけつ を巡らせ止痛調経 しつうちょうけい する。

活血行気

血を温めよく気血を巡らせる。以下の瘀血気滞証に多用される。
(1) 血海(子宮)に作用し,月経痛・月経障害・難産・産後腹痛・閉経などに使用される。また外傷打撲の瘀血腫脹にも用いられる。
①月経痛・月経障害には,当帰・芍薬・紅花・香附子・益母草などと用いる。〔代表方剤:四物湯,芎帰調血飲,当紅四物湯〕。
②虚寒性には,桂枝・呉茱萸・牡丹皮・当帰などと用いる。〔代表方剤:温経湯〕。
③虚寒瘀血の産後排泄不全・腹痛には,当帰・桃仁・炮姜などと用いる。〔代表方剤:生化湯〕。
④外傷には,三七・ 没薬・乳香・紅花などと用いる。〔代表方剤:治打撲一方 ,托裏消毒散〕。
(2)気の鬱滞を除き(疏肝),胃の働きを調整する(和胃)。肝鬱気滞や瘀血による季肋部痛・腹痛・胸痛・痞塞感などに使用される。
①気滞証には,柴胡・白芍薬・香附子・枳殻などと用いる。〔代表方剤:柴胡疏肝散〕。
②瘀血気滞証には,桃仁・紅花・当帰・柴胡などと用いる。〔代表方剤:血府逐瘀湯〕。
(3)瘀血性の癥瘕(腫瘍)に使用される。五霊脂・紅花・延胡索などと用いる。
(4)皮膚化膿症や近年では狭心痛や脳血管障害にも使用される。狭心症には,鬱金・丹参などと用いる。

祛風止痛

昇散性があり,頭部や皮膚・関節に作用し,経絡の気血をよく巡らせる。
(1)“頭痛の重要薬”といわれ,風寒・風熱・風湿などの各種の頭痛に多用される。特に少陽部(頬部より耳部)頭痛に適するが,他部も可。
①風寒頭痛には,羗活・細辛・白芷などと用いる。〔代表方剤:川芎茶調散〕。
②風熱頭痛には,菊花・石膏・白僵蚕など。〔代表方剤:川芎散〕。
③風湿頭痛には,羗活・独活・防風などと用いる。〔代表方剤:羗活勝湿湯〕。
④血虚頭痛には,当帰・白芍薬などと用いる。
(2) 風湿痺証の筋関節痛やしびれ・半身マヒなどに使用される。黄耆・当帰・桂枝・独活・細辛などと用いる。〔代表方剤:大防風湯,補陽還五湯,蠲痺湯〕

[注意点]陰虚火旺・月経過多・出血症には禁忌。

(管理No.01-076)

 

川玉金 せんぎょくきん

せんぎょくきん

[基原]ショウガ科ウコンやハルウコン,ガジュツの塊根。

[別名]中国ではショウガ科のウコンやハルウコン,ガジュツの乾燥した塊根を鬱金と呼び,ウコンやハルウコンの乾燥した根茎を姜黄と呼ぶ。これに対し,わが国の生薬名である鬱金は,ウコンの乾燥した根茎,つまり中国でいう姜黄のことである。また中国の鬱金は,わが国では川玉金 せんぎょくきん 玉金ぎょくきん と通称される。このように,中国とわが国ではその呼び方が逆となるので注意が必要である。

[性・味]寒・辛・苦

[帰経]心・肝・胆

[用法]3~9g。粉末も可 (1~3g/回)。

気中 きちゅう 血薬 けつやく ”といわれ,活血 かっけつ しよく止痛する。寒性であり,姜黄 きょうおう に比べ,行気力 こうきりょく に優れ体内臓腑に作用し止血する。

行気活血

活血作用とともに良好な行気力を有し,気血を巡らせ止痛する。疏肝解鬱作用に優れ肝鬱気滞に多用される。肝気鬱結や瘀血による胸部腹部季肋部痛・月経痛・閉経に使用される。さらに月経不順・腫瘍などにも用いられる。
①胸痛・季肋部痛・焦燥感には,木香などと用いる。気滞と瘀血の割合で配合を変えるとよい。〔代表方剤:顚倒木金散〕。他に丹参・柴胡・香附子などと用いる。〔代表方剤:疏肝解鬱湯〕。
②月経痛・月経前乳房脹満感などには,香附子・当帰・白芍薬・柴胡など。〔宣鬱通経湯〕。

化痰解鬱

鬱滞した痰を除き心竅を開き(開心竅),痰による心への阻害を改善する。寒性であり熱証に適する。痰気鬱阻による意識障害・胸胃部痞悶・癲狂などに使用される。
①意識障害には,山梔子・菖蒲・竹瀝などと用いる。〔代表方剤:菖蒲鬱金湯〕。
②癲癇や癲狂には,白矾などと用いる。〔代表方剤:白金丸〕。

利胆退黄

湿熱黄疸を緩和する。湿熱の黄疸などに使用される。
①黄疸には山梔子・菌蔯蒿・大黄などと用いる。
②湿熱の胆石症には,菌蔯蒿・金銭草などと用いる。

涼血止血

血熱を冷まし降気して止血する。肝火上炎の吐血や鼻出血,血熱瘀血証や血熱妄行による倒経・血淋などに使用される。他の止血薬との配合が望ましい。
①吐血・鼻出血・倒経には,牡丹皮・山梔子・生地黄などと用いる。
②血淋には小薊・生地黄・滑石などと用いる。

[注意点]妊婦には慎重に使用する。丁香とは相畏。

(管理No.01-077)

 

前胡 ぜんこ

ぜんこ

[基原]セリ科ノダケなどの根。

[性・味]微寒・苦・辛

[帰経]肺

[用法]5~10g。蜜炙前胡は寒性が弱まり潤性が増加し,肺陰虚の乾咳に適する。

外感風熱咳嗽 がいかんふうねつがいそう に多用される止咳薬。桔梗 ききょう とともによく配合される。桔梗 ききょう に比べ降気 こうき 作用に優れ,降気 こうき によって痰を除去する。主に熱証 ねつしょう に使用される。

宣肺降気
・化痰

肺の宣発作用を高めて,肺気を良好にして流暢に流し,痰を除去して止咳する。またよく肺の風熱を発散する。寒熱両証,ともに使用可能だが, 熱証により適する。
(1)肺内の痰や熱痰の停滞,肺鬱熱証などの咳嗽・粘性多痰・軽度呼吸困難(気喘)・胸部痞塞感など使用される。熱痰には,貝母・桑白皮・杏仁などと用いる。 〔代表方剤:前胡散〕。
(2)外感風熱の表証や外感肺の鬱熱証の咳嗽・頭痛・咽頭痛などに使用される。桔梗・牛蒡子・薄荷などと用いる。

[注意点]陰虚火旺や寒飲の咳嗽には使用しない。

(管理No.01-078)

 

センナ

せんな

[基原]マメ科チンネベリーセンナやアレキサンドリアセンナの小葉。

[別名]番瀉葉 ばんしゃよう

[性・味]寒・甘・苦

[帰経]大腸

[用法]緩下には1.5~3g,攻下には5~10gを使用する。粉末の冲服か後下して使用する。

大黄 だいおう に類似した瀉下 しゃげ 作用を有するが,瀉火 しゃか 活血 かっけつ 止血 しけつ 作用はない。

瀉下攻積

大腸の滞積便を洗浄除去し,鬱熱を冷ます。熱証の便秘(熱結便秘)に適するが,食積の便秘や腹痛にも用いられる。単味の服用も可。枳実・厚朴・莱菔子・陳皮などと用いる。

[注意点]妊婦・虚弱者・月経期・哺乳期には禁忌か慎重に使用する 。多量の服用で腹痛・悪心嘔吐などが出現することがある。

(管理No.01-079)

 

川楝子 せんれんし

せんれんし

[基原]センダン科トウセンダンの成熟果実。

[別名]金鈴子 きんれいし 楝実 れんじつ

[性・味]寒・苦

[帰経]肝

[用法]5~10g。丸・散剤や外用も可。

熱性気滞 ねつせいきたい の常用薬。

疏肝理気
・止痛

肝気をよく巡らせ止痛するとともに,寒性であり鬱熱を除く。熱証を伴う肝気鬱結証によく適する。
(1)肝気鬱結や肝鬱化火・肝胃不和などによる季肋部や腹部の脹満痛(感)などに多用される。肝腎陰虚の気滞証にも用いられる。辛温理気薬の配合で寒証にも使用可能。
①肝鬱化火犯胃の季肋部痛や胃痛・曖気・口苦・黄苔などには,延胡索・木香などと用いる。〔代表方剤:金鈴子散〕。
②肝気鬱結の季肋部痛には,枳殻・鬱金などと用いる。
③肝鬱陰虚の季肋部胃部の疼痛・ロ乾・紅色乾燥舌・少苔や無苔などには,生地黄・北沙参・枸杞子・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:一貫煎〕。
(2)下腹部の疝痛などに使用される。
①青皮・陳皮などと用いる。
②寒性の疝痛には, 呉茱萸・小茴香・木香などと用いる。〔代表方剤:導気湯,天台烏薬散〕。

駆虫止痛

寄生虫による腹痛に使用される。特に蛔虫の腹痛に適する。檳榔子・使君子などと用いる。

(1)外用で頭部の湿疹に使用される。
(2)寒性と降気作用があるところより,肝腎陰虚による内風のめまい・痙攣・顔面 のほてりなどに補助的に使用される。代赭石・竜骨・天麻などと用いる。〔代表方剤:鎮肝熄風湯〕。

[注意点]悪心・嘔吐・下痢・呼吸困難などが出現することがある。苦寒性であり脾胃虚寒証には使用しない。

(管理No.01-080)

 

皂角刺 そうかくし

そうかくし

[基原]マメ科トウサイカチの棘刺。

[別名]皂刺 そうし 皂針 そうしん

[性・味]温・辛

[帰経]肺・大腸・肝・胃

[用法]6~9g。煎服。

辛散温通 しんさんおんつう する薬力が鋭利であり,病変部に直達する。

消腫排膿

辛散温通し,廱疸腫毒(皮膚化膿症)の潰破する前に,穿山甲・当帰・黄耆などと用いる。

捜風殺虫

疥癬・麻風(癩病)などにも使用する。

[注意点]廱疸腫毒の潰破後および妊婦には禁忌。

(管理No.01-081)

 

蒼耳子 そうじし

そうじし

[基原]キク科オナモミの成熟果実。

[性・味]温・苦・辛

[帰経]肺

[用法]3~10g。

通鼻し皮膚の湿 しつ を除く。鼻渊 びえん 頭痛の重要薬。辛夷 しんい に比べ,祛風除湿 きょふうじょしつ 作用が強く,鼻渊 びえん 以外にも使用される。鼻渊 びえん の常用薬。解表薬 げひょうやく としてはあまり使用されない。

通鼻・
散風寒

鼻腔の通気を良好にする(通鼻)。鼻渊・鼻閉・粘性鼻汁・無臭,さらに風寒性の頭痛に多用される。寒熱両証に使用可能だが,特に風寒証の病態に適する。
①寒証鼻渊や頭痛には,細辛・防風・白芷・藳本などと用いる。
②熱証鼻渊には,薄荷・黄芩・連翹・石膏などと用いる。

祛風湿止痛

祛風とともに湿を除き止痛する。
(1)風湿痺証の関節筋肉痛・筋拘縮に使用される。威霊仙・川芎・秦艽・蒼朮・肉桂などと用いる。
(2)止痒作用もあり,湿疹にも用いられる。蒺藜子・蟬退・地膚子・荊芥などと用いられる。

[注意点]多量の使用で嘔吐・腹痛・下痢などを引き起こすことがある 。多量には使用しない。副作用防止のため炒蒼耳子を使用するとよい。陰虚火旺には禁忌。

(管理No.01-082)

 

蒼朮 そうじゅつ

そうじゅつ

[基原]キク科ホソバオケラやシナオケラの根茎。

[性・味]温・辛・苦

[帰経]脾・胃

[用法]5~10g。生蒼朮は燥性が強く,炒蒼朮は燥性が弱まる。

湿阻中焦 しつそちゅうしょう 治療の重要薬。脾胃 ひい 外表 がいひょう 湿 しつ を除く。寒・熱両証,体の内外上下の広範囲に使用される化湿 かしつ の重要薬。厚朴 こうぼく に比べ,燥湿 そうしつ 作用に優れる。

燥湿健脾

強い芳香性を有し燥性が強く,除湿作用に優れ,脾胃の湿を除いてその機能を回復させる(健脾)。だが補益作用はない。厚朴と同様に主に寒湿証に使用されるが,苦寒燥湿薬を加え湿熱証にも使用可能。湿困脾胃証の下痢・嘔吐・白膩苔に多用され,浮腫にも使用される。そのほか,胃もたれ・腹部脹満感・悪心・身体の重だるさなどにも使用される。湿困脾胃には厚朴・陳皮・白朮・枳穀などと用いる。〔代表方剤:平胃散 ,胃苓湯,越鞠丸〕。

祛風湿

外表の風湿を除く。湿邪が強い痺証に多用される 。
(1)寒湿痺証に使用される。特に筋関節の重だるい疼痛に適する。
①湿邪が強い痺証には,防已・薏苡仁・羗活などと用いる。〔代表方剤:二朮湯〕。
②寒湿ともに強い痺証には, 附子・桂枝などと用いる。〔代表方剤:桂枝加朮附湯,大防風湯〕。
(2)湿熱痺証の関節の重だるい熱感痛・発赤腫脹に使用される。石膏・知母・薏苡仁 ・防已などと用いる。〔代表方剤:白虎加蒼朮湯〕。
(3)湿熱下注による下肢関節筋の重だるい疼痛・熱感・腫脹,あるいは筋萎縮無カ・歩行困難,さらに白色帯下などに使用される。黄柏・牛膝・薏苡仁・菌蔯蒿などに使用される。〔代表方剤:二妙散,三妙丸,四妙散,当帰拈痛湯〕。
(4)風寒湿外邪による外感表証の悪寒・筋関節のこりや重だるい疼痛・頭痛などに使用される。羗活・防風・細辛・白芷・川芎などと用いる。〔代表方剤:神朮散〕。
(5)湿疹,特に下肢の湿疹に使用される。

目明

視力を明瞭にする。夜盲症や内障・外障などの視力低下などに使用される。胡麻などと用いる。

[注意点]陰虚内熱,気虚の多汗には禁忌。

(管理No.01-083)

 

桑椹子 そうじんし

そうじんし

[基原]クワ科マグワなどの成熟集合果。

[別名]桑椹 そうじん

[性・味]寒・甘

[帰経]肝・腎

[用法]10~15g。膏・酒・丸・散剤に使用可。

薬性が温和で補血 ほけつ 潤腸 じゅんちょう 作用を有する補陰薬 ほいんやく 。胡麻に比べ,補肝腎 ほかんじん 作用に優れ,生津止渇 せいしんしかつ 作用を有する。

補肝腎陰・
養血

肝腎の陰を滋養し血も補う。膩性は少なく薬性は温和であるが,薬力はやや弱い。陰虚や血虚による頭重・めまい・視力低下・霧視・白髪などに使用される。そのほか,耳鳴・不眠・遺精などにも使用される。単味の服用も可。墨旱蓮・何首烏・女貞子などと用いる。〔代表方剤:首烏延寿丹〕

生津止瀉

津液を潤し口渇を止める。温和で胃の障害は少ないが,薬力は弱く他の生津薬とともに用いられる。津液消耗や陰虚内熱の消渇病などに使用される。麦門冬・天花粉・石膏・知母などと用いる。

補血潤腸

津液を潤し血を補い排便を促す。陰虚や血虚による腸燥の便秘に使用される。だが作用は弱く,他の通便薬の補助として使用される。麻子仁・何首烏・胡麻・枳実などと用いる。

[注意点]脾虚寒証の下痢には使用し ない。

(管理No.01-084)

 

桑白皮 そうはくひ

そうはくひ

[基原]クワ科マグワの根皮。

[性・味]寒・甘

[帰経]肺

[用法]5~15g。生桑白皮は瀉肺清熱と利水に優れ,蜜炙桑白皮は肺虚の咳嗽に適する。

寒性 かんせい 止咳降気薬 しがいこうきやく 。肺中の火と水気を しゃ す。枇杷葉 びわよう に比べ清肺熱 せいはいねつ 作用に優れ,利水作用を有する。

瀉肺清熱
・平喘

よく肺火を瀉し(瀉肺清熱)肺気を降ろすことで,止咳し呼吸困難を静める(平喘)。肺の実熱証の咳嗽・喘息に多用されるが,肺虚証にも使用される。
(1)肺熱の黄色粘性多痰・咳嗽・呼吸困難・黄膩苔などに使用される。地骨皮 ・黄芩・知母・石膏・杏仁・貝母・芦根などと用いる。〔代表方剤:瀉白散,清肺湯,五虎湯,定喘湯〕。
(2)肺虚有熱の咳嗽・自汗盗汗・タ方や夜間の発熱・息切れなどに使用される。黄耆・人参・熟地黄・蘇子・沈香などと用いる。〔代表方剤:補肺湯,喘四君子湯〕。
(3)利水作用もあり,肺中の水飲停滞による呼吸困難・胸部脹満感などに使用される。麻黄・杏仁・細辛・乾姜などと用いる。

利尿消腫

肺気を流暢に降ろすことにより通調水道を高め,利水する。顔面などの浮腫・小便不利などに使用される。茯苓皮・生姜皮・大腹皮・陳皮などと用いる。 〔代表方剤:五皮飲〕。

近年では降圧作用もあるとされ,肝陽上亢などの高血圧にも応用されている。夏枯草・決明子・黄芩・釣藤鈎などと用いる。

[注意点]外感風寒の咳嗽には禁忌。

(管理No.01-085)