慢性腎臓病と漢方
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病とは、何らかの原因により腎臓の機能が低下したり、尿にタンパクが出る状態が3か月以上持続するもので、最終的に腎不全となる可能性があるものをいいます。
日本における慢性腎臓病の患者数は1300万人(成人の約8人に1人)以上で、高齢者人口が増えたり、生活習慣病である糖尿病や高血圧が増加していることから、慢性腎臓病の患者数はますます増加する傾向にあると言えるでしょう。
慢性腎臓病は、サイレントキラーとも呼ばれ、初期症状がなく検査ではじめて気がつくことが多い病気です。
定期的な健康診断を受けることで、早期発見・早期治療に繋げられるようにしましょう。
慢性腎臓病(CKD)の原因・診断・症状・治療
慢性腎臓病の原因
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慢性腎臓病の原因は、腎臓自体の病気によって起きる“一次性”と、腎臓以外の病気によって起きる“二次性”に分かれます。また、加齢や喫煙、激しい運動、過労などにより悪化すると言われています。
一次性のもの
IgA腎症・膜性増殖性糸球体腎炎・紫斑病性腎炎等の慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎など
二次性のもの
糖尿病による糖尿病性腎症、高血圧による腎硬化症、痛風による痛風腎、膠原病によるループス腎炎など
慢性腎臓病の診断
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① 尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかであり、特に0.15g/gCr以上のタンパク尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)がある。
もしくは
② 糸球体濾過量(GFR)が60ml/分/1.73㎡未満である。
① ②のいずれか、または両方が3か月以上持続することで診断します。
『日本腎臓学会編 CKD診療ガイド2012より抜粋』
慢性腎臓病の症状
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慢性腎臓病の初期は自覚症状がほとんど無いため、検査してはじめて分かるのがほとんどです。病気が進行すると、以下のような症状が出てくるようになります。
・むくみ・尿量の異常・夜間尿・タンパク尿・血圧の上昇・疲れやすい・だるさ・吐き気・食欲不振・頭痛・かゆみ・血尿・貧血・動悸・息切れ・めまい・骨粗鬆症など
病状がさらに進んで腎機能が極度に低下する腎不全になると、尿毒症と呼ばれる状態になります。尿毒症では上記の症状に加え、意識障害や痙攣、昏睡などの中枢神経症状、尿毒症性網膜症などの眼症状、不整脈や脳梗塞、心筋梗塞などの脳・心血管系症状、肺うっ血や胸水などの呼吸器症状をはじめ全身に多様な症状が起こるのが特徴です。
慢性腎臓病の重症度分類
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慢性腎臓病は、原因(C)、腎機能(G:GFR)、タンパク尿(アルブミン尿:A)によるCGA分類により重症度が評価され、それぞれのステージに応じて治療計画が立てられます。
- ■ステージⅠ
(eGFR≧90):腎機能は正常または高値とされ、慢性腎不全の段階ではありません。 - ■ステージⅡ
(eGFR60~89):腎機能が正常または軽度に低下している状態で、慢性腎不全の段階ではありません。
上記の段階では回復の余地があることから、原因となる病気を調べ、治療することが大切です。
糖尿病や高血圧、肥満の方は病気の治療に取り組み、運動不足や喫煙、不規則な生活などがある場合は、生活習慣の見直しをしましょう。 - ■ステージⅢ
(eGFR30~59):腎機能が半分近く低下している状態で、慢性腎不全が疑われます。
むくみや夜間の多尿、疲れやすいといった自覚症状もあらわれ始め、腎臓専門医への受診が勧められます。
原因となる病気の治療と食事療法を含めた生活習慣の改善に加え、各種薬物治療を行います。 - ■ステージⅣ
(eGFR15~29):腎機能が約30%未満にまで低下した状態で、慢性腎不全が強く疑われます。
腎機能が低下することで、むくみ、高血圧や貧血など様々な症状があらわれます。現状を維持し、透析導入を遅らせることを目標に、より厳しい食事療法や薬物療法が必要となります。 - ■ステージⅤ
(eGFR15未満):腎機能がほとんど機能していない末期の腎不全の状態です。
末期腎不全(ESRD)となり透析療法や腎移植などが必要になります。一度透析療法を始めると、多くは生涯にわたって続けていかなければなりません。腎臓専門医から今後の治療について説明を受け、自分に合った治療法を選択します。
- ■ステージⅠ
慢性腎臓病の治療法
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生活習慣の改善 、食事指導、生活習慣病の治療、貧血に対する治療 、骨・ミネラル代謝異常に対する治療、尿毒症毒素に対する治療などを行い、病期の進行を遅らせるようにします。
慢性腎臓病は早期では治療で回復しますが、腎臓は一度進行すると自然に治ることはありません。発見が遅れると透析療法や腎移植が避けられない状況になるため、早期に発見することが重要です。
漢方で考える慢性腎臓病(CKD)
漢方・鍼灸の基礎理論である中医学では、内臓の働き全体を五臓六腑が行っており、慢性腎臓病では、このうちの主に“脾”と“腎”が深く関わるとされています。
脾 |
消化と吸収を行う場所で、栄養分と老廃物の分別を行っています。また、必要なもの(栄養など)を外に漏れ出ないようにする働きがあります。そのため、脾の働きが低下すると、疲労倦怠、食欲不振、むくみ、下痢、タンパク尿、貧血、息切れ、めまいなどの症状が出ます。 |
腎 |
腎は「水を主る」、「封蔵を主る」とされ、全身の水分代謝を調整したり、封じ込めて貯蔵することで、必要なもの(栄養など)を漏らさず蓄える働きがあります。他にも成長、発育、生殖、内分泌、免疫、骨、脳などと関係が深いとされています。 |
腎臓は血管が豊富な臓器であり、特に糸球体には毛細血管が多いため、中医学の観点から見ると、
“瘀血(おけつ)”という血流の停滞が起こりやすい環境にあると言えるでしょう。
また、脂質異常症や糖尿病で脂質や糖などの老廃物である“痰湿”や、痰湿に炎症が絡んだ“湿熱(しつねつ)”が血管に詰まると、腎臓に直接ダメージを与えて病気の進展をさらに加速させます。
この瘀血と湿熱の状態が長期になると、腎臓の形態や構造を変化させ、臓器の機能にも影響を与えるようになります。
慢性腎臓病では、長期間に渡って腎臓の代謝が停滞するために、身体の消耗が進み、エネルギー不足となり、それによってさらなる血流停滞に陥る可能性が高くなります。これは、中医学の「久病必瘀(慢性病は必ず瘀(滞り)が伴う」の理論と合います。
慢性腎臓病の治療では、脾や腎の機能を高めることを基本にしつつ、それぞれの体質に合わせ、不要な瘀血、湿熱を取り去る治療を行っていきます。
慢性腎臓病(CKD)によく使われている中薬
■黄耆
黄耆は慢性腎臓病の根本原因である脾腎虚弱に適する中薬で、疲労倦怠、浮腫、胃腸虚弱、貧血、内臓下垂、皮膚化膿症などに用いられます。
近年、慢性腎不全患者において、黄耆の投与による血清クレアチニン値の低下や推算糸球体ろ過量(eGFR)の改善効果が報告されています。
また、腎臓における一酸化窒素合成酵素(NOS)を抑えることで、腎糸球体硬化病変の進展を抑える可能性が示唆されています。
黄耆を含む漢方処方の一例:防已黄耆湯、補中益気湯、玉屏風散、帰脾湯など
■大黄
大黄は駆瘀血、通利(利尿・通便)、清熱の効果があり血流停滞や便秘、炎症がある状態に用いられます。
近年、生体内で血中尿素窒素とクレアチニンの低下傾向を認めたことから、大黄および大黄含有漢方方剤に腎不全の進行を抑える保存的療法として有用であることが報告されています。
大黄を含む漢方処方の一例:温脾湯、大黄甘草湯など
■附子
附子には、補陽、利水、止痛、破積の効果があり、冷えやむくみ、痛みの改善や、しこりや腫瘤を破る働きがあります。
附子の現代薬理学的にも強心、降圧、消炎鎮痛、血中コレステロール減少、タンパク尿減少といった作用が認められています。
近年、慢性腎臓病患者において、腎臓が硬くなる腎臓線維化を軽減させることによる腎機能改善作用が注目されています。
附子を含む漢方処方の一例:真武湯、附子理中湯、八味地黄丸、牛車腎気丸など
■川芎
川芎は瘀血を改善する活血薬としてよく使われ、黄耆と一緒に用いられます。
その他、駆瘀血剤では、桂枝茯苓丸をはじめ、丹参・三七人参・水姪などが使用されます。
川芎を含む漢方処方の一例:当帰芍薬散など
腎臓は体にとって非常に重要な働きを担っており、そのケアは慎重に進める必要があります。
腎機能が気になる方では、体質改善の目的で漢方薬を服用されるにあたっても、漢方薬に詳しい薬剤師などの専門家に相談しましょう。