不妊でよく用いられる「補中益気湯」はどんな漢方薬?

~補中益気湯の多面的な効果とその応用について解説します~

補中益気湯の多面的な効果


日本人によく用いられる有名な漢方薬の一つに「補中益気湯ほちゅうえっきとう」があります。
男性不妊でお悩みの方の中には、病院で処方された経験のある方もいらっしゃるかもしれません。
とはいえ、補中益気湯は男性のための漢方薬というわけではなく、胃腸虚弱で疲れやすい方のために作られた優れた漢方薬であり、女性の方にもよく用いられます。
そこで、今回はさまざまなケースに応用されている補中益気湯の多面的な効果について、ご紹介したいと思います。



“胃腸薬”としての補中益気湯

胃腸薬

補中益気湯という漢方薬は、中国の金・元時代に活躍した李東垣(り・とうえん、1180-1251)の著書〈内外傷弁惑論〉、〈脾胃論〉で紹介されました。
李東垣は、人が病気になる原因は脾胃(消化器系)が弱るためだと考え、体内環境を強くすることが重要だと説きました。
その代表的な漢方薬が補中益気湯であり、中医学では「益気昇陽」、「甘温除大熱」、「益気健脾」といった働きを持ちます。
これらの働きを簡単に説明すると、胃腸の機能を高め、食欲を増進することで栄養の吸収を促し、「※1」の生成を助ける働きがあるということです。

「気」が体内で十分に生成されると、全身にエネルギーが行き渡り、疲労が取れやすくなります。
特に、疲れが取れない、手足がだるい、朝起きるのが辛いといった症状に対して有効です。
また、胃腸機能を改善するため、食欲不振といった不調にも役立ちます。

このように補中益気湯という漢方薬は非常に広い応用範囲を持ち、〈古今方彙〉などの古典的な医学書でも頻繁に登場します。
組成としては、黄耆、甘草、人参、白朮、升麻、柴胡、当帰などが含まれており、特に甘草の分量が多いのが特徴です。
この構成により、胃腸の機能を高め、「気虚ききょ 」と呼ばれる「気」が不足した体質を改善するために重要な役割を果たします。

※1「気」:人の生命活動に必要不可欠な物質の一つで、エネルギー・新陳代謝・栄養・免疫・体を温めるなどに関わります。



“婦人薬”としての補中益気湯

婦人薬

中医学では、妊娠や出産において「気」と「けつ※2」のバランスが非常に重要とされています。
「気」は、胎児を子宮内で安定させ、子宮内膜をしっかりと固定する働きを持ちます。
また、「血」は卵子の成熟、子宮内膜の増殖、胎盤や胎児に酸素や栄養を送り届ける役割を果たします。

補中益気湯は、胃腸機能を高め、「気」と「血」を補充することで、妊娠をサポートします。
特に、流産しやすい方の体質改善や妊娠を維持する力を高める際にお勧めです。
「気」を補うことは、卵子の質を向上させ、子宮内膜を強化し、妊娠の維持に必要な全体的な体力を支えることができます。

※2「血」:「気」とともに人の生命活動に必要不可欠な物質の一つで、栄養・潤い・精神活動などに関係しています。
「血」の生成には、胃腸の働きが大きく関係し、また「血」の構成成分には「気」が含まれているため、「血」の生成に「気」が欠かせません。



“男性の強壮薬”としての補中益気湯

男性

補中益気湯は男性にもよく用いられ、特に、疲れやすく全身の倦怠感がある方に有効です。

補中益気湯は、「気」を補充することから、男性の性機能の改善にも応用されています。
実際に、乏精子症や精子無力症の男性に対して、精子の濃度や運動率を改善する効果が報告されています。
ストレス過多な現代社会において、精神的な疲れが性欲低下や勃起不全、精子無力症などの問題に繋がっています。
「気」は肉体だけでなく精神のエネルギーにも関係します。心身の健康を取り戻すことが非常に重要です。

総合的に補中益気湯は、男性の生殖能力をサポートし、全体的な健康状態を向上させることが期待されます。



“夫婦で取り組む妊活”における補中益気湯の重要性

夫婦

ここまでご紹介してきたように、補中益気湯は、胃腸の健康を支え、全身の「気」を補うことで、男女ともに健康な体を維持する働きがあります。
女性においては、子宮内膜の安定や胎児の成長をサポートし、男性においては、精子の質や運動率を改善することで、妊娠の可能性を高めます。

ご夫婦での妊活においては、双方の健康状態が重要です。
補中益気湯を用いることは、体全体のエネルギーを増強し、妊娠しやすい環境を整えることにつながるでしょう。
中医学の知見を活用し、是非ご夫婦での妊活に取り組んでみて下さい。


※漢方薬の服用に際しては、専門家と相談の上、服用しましょう。
漢方薬は沢山の種類があり、気を補う漢方薬にも複数種類があります。
ぜひご自分に適した漢方薬を専門家に選んでもらってください。


更新日:2024-07-17