体質で考える「狭心症」
更新日:2023.11.21
狭心症とは?
狭心症は、心筋梗塞とともに虚血性心疾患と呼ばれ、日本人の三大死因の一つとなっています。心臓に酸素や栄養を送っている冠動脈が何かの原因で狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)してしまうと、充分な酸素や栄養を心筋に供給できない“虚血”の状態となり、胸の痛みといった症状が現れます。このような状態を虚血性心疾患と称します。血管が狭窄・閉塞する原因の多くは、血管の内側に悪玉コレステロール(LDL)などが沈着して血流を妨げる”動脈硬化”によるものです。
狭心症の初期は心電図が正常であることが多く、これは冠状動脈が狭くなっていても50%以下の詰まりでは心電図に現れず、50~75%まで詰まった状態になってから初めて発見されるためです。
狭心症の分類
狭心症は、血管の狭窄・閉塞の原因から、労作性(ろうさ)狭心症、異型狭心症(冠攣縮性狭心症)、不安定狭心症に分類されます。経過が比較的ゆるやかな"労作性狭心症"と"異型狭心症"は、慢性冠動脈疾患と呼ばれ、狭窄や閉塞が急速に進行する不安定狭心症は、急性心筋梗塞とともに急性冠症候群と呼ばれます。
労作性狭心症
階段を上がったり、運動など身体を動かしたりすることによって起こります。動脈硬化による血管の狭窄が原因です。症状は胸のしめつけ感、圧迫感が5分ほど続き、ときに肩・腕・顎・歯に痛みが現れます。まれに呼吸困難、倦怠感がみられることもあります。
異型狭心症(冠攣縮性狭心症)
夜間から早朝の寝ている時や静かにしている安静時に起こります。原因としては、冠動脈が攣縮(冠攣縮=過度な収縮)をすることによる一時的な狭窄もしくは完全閉塞によって起こります。症状として胸の痛みが数分~15分程度続き、労作性狭心症よりも持続時間がながいことが特徴です。発作的に息苦しくなって呼吸が早くなる”過換気”、飲酒、早朝の運動時に起こることもあります。
不安定狭心症
血栓による狭窄が原因で、労作時、安静時を問わずに胸の痛みが数分~20分ほど持続して起こり、症状は悪化傾向にあります。ときに、顎・首・肩・腕などに痛みを伴います。早急な対処が必要です。
狭心症の原因のほとんどが動脈硬化によるもので、脂質異常症(高脂血症)、高血圧、耐糖能以上(糖尿病)、高尿酸血症、内臓脂肪型肥満、喫煙、運動不足、ストレス(特に完璧主義、せっかち、怒りっぽいなどの性格)、加齢にともない発症しやすくなります。
狭心症の西洋医学による検査と治療
検査
・心筋障害マーカー(クレアチンキナーゼ、クレアチンキナーゼMB、ミオグロビン、心蔵型脂肪酸結合蛋白、心筋トロポニンT、ミオシン軽鎖)
・心電図(とくに発作時のST変化)
・心エコー法、心カテーテル法、CT、MRI、冠動脈造影(CAG)、心蔵核医学検査、心筋血流シンチグラフィなどが適宜行われます。
治療
抗狭心症薬を中心とした薬による治療を行います。発作が起きたときに口の中で溶かして服用するニトログリセリン、硝酸薬、抗カルシウム薬、βブロッカー薬などが用いられます。また日ごろから血栓形成の予防のために、抗血小板薬(アスピリンなど)や抗凝固薬(ヘパリン・ワルファリンなど)が用いられます。
経過をみながら、カテーテル治療や外科的血行再建術を行う場合もあります。
漢方で考える狭心症の体質
中医学において、狭心症は“胸痹(きょうひ)”と呼ばれており、胸が詰まって痛むことをいいます。血液ポンプとしての役割を担っているのは、中医学でいう五臓のうちの“心(しん)”であり、過労などによりその働きが弱ったり、ストレスで心臓に負荷がかかると血液がうまく運ばれなくなり、“瘀血(おけつ)”という血行不良の状態を生じさせます。
中医学体質別治療法
① 心腎陽虚(しんじんようきょ)体質
身体を温めるためのエネルギーが不足するため、冷えが強く血流が滞りやすい。
随伴症状:息切れ、動悸、寒がり、手足の冷え、むくみ、尿量減少など。
過労や肉体疲労により内臓が冷えることで血の巡りが滞り、循環器障害が起こりやすくなります。
漢方 |
真武湯合四逆湯、桂枝加人参湯など |
ツボ |
心兪、腎兪など ※お灸を多用 |
食材 |
ニラ、くるみ、もち米、羊肉、鶏肉、エビ、栗など |
② 肝腎陰虚(かんじんいんきょ)体質
ホルモンの働きが低下して身体中を巡るのに必要な陰血(体液や血)が不足するため、血行不良となる。
随伴症状:動悸、めまい、足腰がだるい、倦怠感、筋肉のつり、便秘、ほてり、イライラなど。
加齢や疲労にともない体液や血(けつ)が消耗すると、血管が硬くなったり、血が不足してしまうため、血液循環が十分に行われなくなります。
漢方 |
杞菊地黄丸、二至丸合六味丸など |
ツボ |
太谿、三陰交など |
食材 |
黒豆、黒きくらげ、アスパラガス、山芋、卵、人参、ほうれん草など |
③ 寒凝脈阻(かんぎょうみゃくそ)体質
外部からの冷えにより血液の流れが滞っている。
随伴症状:寒がり、手足の冷え、関節痛など。
寒い季節や冷房など冷えた空気によって刺激を受けたり、生ものや冷たいものの過食により身体を冷やして血行不良となります。
痛み方は発作的で激痛であり、温めると一時的に楽になる特徴があります。
漢方 |
附子人参湯など |
ツボ |
大椎、合谷など ※お灸を多用 |
食材 |
ネギ、生姜、シナモン、紫蘇、玉ねぎ、山椒など |
④ 痰湿内阻(たんしつないそ)体質
身体にドロドロした老廃物がたまり、血流が滞りやすい。
随伴症状:胸の圧迫感、体が重だるい、頭重、痰が多い、食欲不振、下痢など。
多くは飲食の不摂生や思い悩むことにより、胃腸の働きが衰えて水分代謝が悪くなり、老廃物が滞り胸部に詰まりやすくなっています。
漢方 |
二陳湯、温胆湯など |
ツボ |
陰陵泉、豊隆など |
食材 |
緑豆などの豆類、冬瓜、とうもろこし、ハトムギ、もやしなど |
狭心症の鍼灸治療
鍼灸治療では、体質に対処するツボを適切に選定しアプローチしていくことで不快な症状の軽減、緩和を目的としていきます。ツボを刺激することで臓腑の働きを調整するとともに、血流や水分代謝の改善を促します。
狭心症で使う代表的なツボ
巨闕(こけつ)、膻中(だんちゅう)、内関(ないかん)、郄門(げきもん)など。
暮らしのアドバイス
・肉類を減らし、魚と野菜中心の生活にしましょう
・アルコールの飲みすぎに気をつけましょう
・喫煙は控えましょう
・ストレスを上手に発散しましょう
・1日15分以上の有酸素運動を行いましょう
薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師
中国漢方普及協会 学術委員
株式会社 誠心堂薬局 営業部課長
北里大学薬学部薬科卒
東京医療福祉専門学校鍼灸科卒