体質で考える「便秘」

体質で考える「便秘」

体質で考える「便秘」

更新日:2023.11.21

 

 

 

便秘とは?

便秘とは、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態とされています。単に排便間隔が長くなるだけでなく、便秘にともなう腹痛や腹部膨満感、排便困難、便意はあるがスッキリ出せず残便感があるなども便秘に含まれます。

 

便秘の種類と原因

機能性便秘
食事性便秘
少食や食物繊維を摂取する量が少ないことにより腸壁に適当な刺激がなく、腸のぜん動運動が不十分な状態です。

直腸性便秘
便意の我慢のしすぎや下剤の使いすぎで腸管の感受性が下がり、便意が起こらない状態です。温水洗浄便座では、水を肛門の奥まで入れるために神経の感度が鈍り、便秘になる方が増えています。

弛緩性便秘
加齢や運動不足、下剤の連用により大腸を動かす筋肉が緩んで、大腸のぜん動運動が十分行われない状態です。

痙攣性便秘
ぜん動運動に連続性がなくなり、便の通過に時間がかかり過ぎている状態です。ストレスの影響が強いと考えられ、便秘と下痢を交互にくり返す過敏性腸症候群などの傾向も見られます。

器質性便秘
手術後の癒着や炎症性疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などのために、大腸の中を便がスムーズに通過できずに起こる便秘です。女性で直腸の一部が腟に入り込んでしまう直腸瘤もよくある原因です。

症候性便秘
甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症では大腸のぜん動運動が弱くなり、便秘がちになります。女性の場合、病気とは別ですが生理や妊娠中にホルモンの影響で便秘になりやすくなります。

薬剤性便秘
抗うつ薬、抗コリン薬、咳止めなどは大腸のぜん動運動を抑える作用があるため、便秘になることがあります。

 

 

便秘の治療

便秘薬には、その作用メカニズムによって様々なタイプがあり、原因に応じた治療を行います。

非刺激性下剤
便を柔らかくしたり、膨らんで便のかさ増しを行い、腸のぜん動運動を助けます。腸への刺激性がなく穏やかな効き目を示すため、毎日服用するのに適しています。

刺激性下剤
大腸を刺激することでぜん動運動を活発にして排便を助けます。連用することで大腸の感受性が低下し、弛緩性便秘に移行することがあります。

他にも腸液分泌促進薬や座薬、浣腸などがあります。ビフィズス菌製剤や乳酸菌製剤などの整腸剤、腸管運動調節剤が症状に応じて下剤といっしょに処方されることがあります。

 

漢方で考える便秘

中医学において、便秘は大腸の伝導機能の低下で引き起こされます。大腸は、小腸から流れてきた消化物の中から身体に必要な栄養成分と水分を取り込み、残りは便として排出します。飲食の不摂生、ストレス、貧血、加齢、冷えなどがあると、大腸の機能が乱れ便秘になります。

中医学体質別治療法
① 熱秘(ねっぴ)体質
胃腸に熱がこもることで便秘が生じる。
随伴症状:肛門に灼熱感、腹痛、口の渇き、過食、口臭、多汗、のぼせなど。
もともと陽盛体質(暑がり)や炎症性疾患、辛いもの・味の濃いもの・脂っこいものなど過食することで、便は黄褐色で臭く、乾燥して硬くなります。

 

漢方

大黄甘草湯、防風通聖散など

ツボ

合谷、内庭など

食材

緑茶、ゴーヤ、レタス、トマト、きゅうり、セロリ、豆腐、バナナなど

 

 

② 気秘(きひ)体質
ストレスなどの精神刺激や運動不足により便秘が生じる。
随伴症状:胃痛、腹痛、お腹や胸の張り、イライラ、憂うつ感、ゲップが多いなど。
自律神経がストレスにより乱れると、気の流れが滞るため、胃腸に影響して便秘になります。便の硬さは一定せず、便秘になったり軟便になったりします。

 

漢方

大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯など

ツボ

太衝、内関など

食材

ミント、ジャスミン、春菊、三つ葉、みかんの皮、イカなど

 

 

③ 虚秘(きょひ)体質
身体が虚弱であり、便を押し出す力や腸に潤いがなく便秘になる。
随伴症状:食欲不振、お腹の張り、腹痛、倦怠感、めまい、立ちくらみ、動悸など。
慢性疲労や病後、産後、貧血、加齢などにより陰血(体液や血)が不足して大腸を潤せない状態になっています。便はコロコロとした兎糞状(ウサギのフンのような便)のことが多いです。

 

漢方

潤腸湯、麻子仁丸など

ツボ

三陰交、照海など

食材

鶏肉、人参、ほうれん草、卵、蜂蜜、黒ごま、松の実など

 

 

④ 冷秘(れいひ)体質
冷えによって大腸の働きが悪いため便秘が生じる。
随伴症状:お腹や四肢の冷え、腰痛、夜間尿、息切れ、疲れやすい、顔色が青白いなど。
もともと陽虚体質(寒がり)や、疲労の蓄積、加齢、冷たいものの食べすぎや飲みすぎなどにより、冷えて大腸の動きが悪くなっています。最初は太くて硬い便が出るが最後は下痢になりやすくなります。

 

漢方

人参湯、大建中湯など

ツボ

腎兪、関元 ※命門にお灸を加える

食材

ネギ、生姜、シナモン、ニラ、エビ、くるみ、栗など

 

 

 

便秘の鍼灸治療

原因を分析した上で、“寛腸(滞っているものを取り除く)”と“潤腸(腸を潤す)”を行い、便秘の解消を促します。鍼灸治療が適応となるのは慢性の機能性便秘であり、鍼灸による刺激は、腸管運動の促進あるいは抑制を行い、弛緩性便秘における腸のぜん動運動の低下や、痙攣性便秘におけるぜん動リズムの不調和などを調整し、便秘を改善します。また、神経系統を刺激し、身体が本来持っている鎮痛物質を分泌させ、ストレスを緩和することで、便秘症状も改善しやすくなります。便を出すだけではなく、同時に体内の不調を整え便秘にならない体質にしていきます。

便秘で使う代表的なツボ
天枢(てんすう)、上巨虚(じょうこきょ)、足三里(あしさんり)など。
※鍼灸治療により慢性的で重症的な便秘患者の4割が改善したと米国内科学会機関誌(2016年9月12号)で発表されました。

 

暮らしのアドバイス

・1日3食なるべく規則正しく食べましょう
・暴飲暴食を避けましょう
・朝1杯の水を飲みましょう
・トイレに行く習慣を身につけましょう
・こまめな水分補給で腸の潤いを守りましょう
・食物繊維を積極的にとりましょう

 

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒