体質で考える「糖尿病」

体質で考える「糖尿病」

体質で考える「糖尿病」

更新日:2023.11.20

 

 

 

糖尿病とは?

糖尿病とは、膵臓から分泌される“インスリン”というホルモンが充分に働かず、血液中に食事からとったブドウ糖が増えてしまう病気のことで、死亡率の高い四大疾病の一つです。インスリンがうまく働かないと、ブドウ糖をエネルギー源として使えず、体内の筋肉や脂肪を分解してしまうため、いずれ体重減少が起きます。血糖の高い状態を放置すると血管が傷つき、将来的に失明、腎不全、末梢神経障害などのより重い病気に繋がります。

 

糖尿病の原因と治療

糖尿病の種類
① 1型糖尿病
膵臓のβ細胞が障害されることにより、インスリンがほとんど出なくなるため、高血糖が続きます。1型糖尿病は若年層に多く発症し、注射によってインスリンを補う必要があります。

② 2型糖尿病
インスリンの分泌量が少ないか(インスリン依存型)、十分な量があっても効きが悪くなっており(インスリン非依存型)、血糖が高い状態が続きます。インスリン非依存型糖尿病となる原因としては、糖質や動物性脂肪のとりすぎといった食習慣、肥満、加齢、運動不足、ストレスなどが挙げられ、食事療法や運動療法が行われます。改善しない場合は、ビグアナイド薬、チアゾリンジン薬、DPP-4阻害薬、スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬、αグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬などの内服薬やインスリンの注射薬が用いられます。

 
体質で考える「糖尿病」

漢方で考える糖尿病

体質で考える「糖尿病」

中医学では、糖尿病のことを“消渇(しょうかつ)”と呼びます。病気の進行状態によって病態は、上消(じょうしょう)・中消(ちゅうしょう)・下消(かしょう)の3種類に分類し、上消から下消に進むにつれて重症化していきます。消渇とは、体の消耗が激しく、口渇(喉の渇き)が強いという症状の特徴を意味しており、糖尿病がある程度進行すると、疲労倦怠感が強くなり、喉が渇いて水をたくさん飲むようになり、尿の量が増え、食欲が異常に増すようになります。こうした多飲、多食、多尿が消渇病の特徴です。


上消
じょうしょう

熱の所在が“肺(はい)”であり、潤いが消耗されるため、渇きを感じます。水を飲むことが多く、口渇多飲(こうかつたいん)が主な症状となります。

中消
ちゅうしょう

熱の所在が“脾胃(ひい)”であり、消化機能が異常に亢進して飲食の量が増え、多量に食べるがすぐ空腹になり、日に日に痩せていきます。

下消
げしょう

熱の所在が“腎(じん)”であり、身体に有用な水分を再吸収できず、尿量が増え排出されていきます。


上記のような症状は、糖尿病がある程度進行した状態で見られ、糖尿病の初期では自覚症状が乏しいケースが多々あります。そのため、検査結果なども確認して、それぞれの状態に合わせた治療方法を選択します。

 


中医学体質別治療法

① 肺燥(はいそう)体質
飲食の不摂生やストレスなどによる熱が肺に移り、体内に熱がこもり乾燥する。
随伴症状:口の渇き、多飲、空咳、少量の痰が出る、多食、多尿など。
肺には津液(体液)を全身に散布させる働きがありますが、肺に熱がこもると、全身に巡らせることができず、さらに熱が強くなるため身体が消耗していきます。

 

漢方

白虎加人参湯、麦門冬湯など

ツボ

肺兪、復溜など

食材

白ごま、白きくらげ、牛乳、ゆり根、卵など

 

 

② 胃熱(いねつ)体質
辛いものや味の濃いもの、脂っこいもののとりすぎにより体内に熱が生じている。
随伴症状:胸の灼熱感、口内炎、口の渇き、過食、口臭、便秘、多汗、のぼせなど。
食生活の不摂生やストレスなどにより胃に熱がこもると多食となります。熱が続くと、身体に必要な気血津液を消耗するため、身体が衰えていき、やがて痩せていきます。

 

漢方

防風通聖散 、白虎人参湯など

ツボ

内庭、照海など

食材

緑茶、ゴーヤ、レタス、トマト、きゅうり、セロリ、豆腐、バナナなど

 

 

③ 痰湿 (たんしつ)体質
身体にドロドロした老廃物がたまっている。
随伴症状:体が重だるい、痰が多い、食欲不振、胸苦しく胃がつかえる、下痢など。
多くは飲食の不摂生により、胃腸の働きが衰えて水分代謝が悪くなり、老廃物が滞りやすくなります。

 

漢方

二陳湯、平胃散など

ツボ

陰陵泉、豊隆など

食材

緑豆などの豆類、冬瓜、とうもろこし、ハトムギ、もやしなど

 

 

④ 腎陰虚(じんいんきょ)体質
消渇状態の持続により、腎の津液(体液)が不足するため熱を持つようになる。
随伴症状:多尿、頻尿、尿混濁、多飲、足腰がだるい、のぼせ、手足のほてり、寝汗など。
体質虚弱や加齢、糖尿病の長期化により、生命エネルギーの源である“精(せい)”を蓄える腎の働きが衰えて身体が消耗していきます。

 

漢方

知柏地黄丸、瓊玉膏など

ツボ

腎兪、太谿など

食材

黒豆、黒きくらげ、アスパラガス、山芋、牡蠣、豚肉、鶏卵など

 

 

⑤ 血瘀(けつお)体質
消渇状態の持続により、血液の粘度が高くなり血行不良になる。
随伴症状:肩こり、頭痛、唇の色が悪い、シミやくすみが目立つ、冷えのぼせなど。
血が滞ることで詰まりやすくなり、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血といった循環器障害や、痛みやしびれなどの神経障害、網膜症、腎臓障害に繋がりやすくなります。

 

漢方

疎経活血湯、桂枝茯苓丸など

ツボ

血海、三陰交など

食材

紅花、シナモン、黒糖、生姜、ネギ、玉ねぎ、ナスなど

 

 

 

糖尿病の鍼灸治療

鍼灸治療では、体質に対処するツボを適切に選定しアプローチしていくことで症状の軽減、緩和を目的としていきます。全身状態を改善することで、合併症である神経障害、腎臓障害、網膜症、心臓病などの動脈硬化の予防を行います。

糖尿病で使用される代表的なツボ
地機(ちき)、湧泉(ゆうせん)、腕骨(わんこつ)など。

 

暮らしのアドバイス

・肥満(BMI≧25以上)にならないようにしましょう
・糖質や肉類を控え、野菜や魚を積極的にとりましょう
・喫煙は控えましょう
・適度な運動をして新陳代謝を高めましょう
・ストレスを上手に発散しましょう

 

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒