体質で考える「めまい」

体質で考える「めまい」

体質で考える「めまい」

更新日:2023.11.20

 

 

 

めまいとは?

男性よりも女性に多いとされている“めまい”。めまいは一人ひとり感じ方も様々で、耳鳴りなどの症状をともなうこともあります。私たちは、目からの情報や耳からの信号、首の筋肉、関節といった深部感覚から情報を集め、それらを脳で統合して身体のバランスをとっていますが、これらの平衡感覚器官や脳に何らかの障害が起きると、集めた情報に矛盾が生じ、“めまい”として自覚されます。どの場所が障害されるかで症状は異なり、原因となる病気も多岐にわたります。

 

めまいの原因と治療

回転性のめまい
“目がまわる”、“天井がグルグルまわる”などと表現されるめまいで、内耳と視覚と筋肉からなる、身体のバランスを保つ機能(平衡機能)の異常により起こります。耳の病気や脳の病気なども原因と考えられます。寝返りをしたり、起きあがろうとするときなど、頭の位置を動かしたときにグルグルと目がまわる良性発作性頭位めまい症は、めまい疾患の中で最もよく見られるものです。
回転性めまいの多くは、耳の異常(メニエール病、前庭神経炎、突発性難聴、聴神経腫瘍、騒音難聴、抗生物質などの薬物から起こるもの、前庭神経が圧迫されたため等)が原因で起こります。放っておくと、難聴になる恐れもあります。 また、脳の異常(脳卒中、脳梗塞、椎骨脳底動脈循環不全、てんかん)でも回転性めまいが起こることがあります。

浮動性・動揺性のめまい
身体がフワフワ浮いているような感じ、あるいはユラユラ揺れているような感じのめまいは、車酔いにも似て気分の悪いものです。脳腫瘍や脳梗塞、脳血栓といった脳血管障害などによることがあります。また、高血圧やうつ病が原因ということも考えられます。

失神性のめまい
目の前が真っ暗になったなどと表現されるめまいで、頭からスーッと血の気が引いていくような感覚を覚えます。いわゆる立ちくらみはこれに相当します。起立性調節障害や不整脈などの原因や、血圧の変動に関係する全身性の病気が原因として考えられます。
このように、めまいにもいろいろな種類と原因がありますが、それぞれストレスなど、心因的な原因の場合も少なくありません。

薬物治療では、抗めまい薬、循環改善薬、吐き気止め、抗不安薬、浸透圧利尿薬、ステロイド薬、ビタミン剤などが使用され、めまいを起こす原因を改善する薬と、めまいによって引き起こされる症状を抑える薬が処方されます。薬が飲めないほど症状がひどい場合には注射や点滴をします。薬によっても症状が改善せず日常生活に支障をきたす場合、外科的手術によってめまいを起こす神経を取り除くこともあります。

 
体質で考える「めまい」

漢方で考えるめまい

体質で考える「めまい」

中医学ではめまいを“眩暈(げんうん)”といいます。めまいは精神的な要因や生活習慣の乱れなどで起こる場合がほとんどです。中医学の医学古典によると、“風(ふう)・痰(たん)・虚(きょ)”によりめまいが起きると記載されています。また、五臓でみると“肝・脾・腎”が特に関わっています。これらを考慮しながら、めまいの原因を分析、治療していきます。

 


かん

“めまいは肝に属す”とされており、めまいと最も関係が深いのは肝だと考えられています。中医学でいう肝は、自律神経の働きを調整して全身の血液循環もコントロールしています。血流や筋肉の働きも管理していますから、更年期の問題や肩こりなどにも関わってくることが多いです。目や神経の使いすぎ、ストレス、寝不足、過労などは肝を消耗させることに繋がります。結果として自律神経の働きが乱れ、脳や内耳へ十分に血液が循環しなくなり、めまいを引き起こします。


“痰無くしてめまい起こらず”とされており、水毒症状の代表としてめまいが起こることがあります。油っこいものや甘いものの食べすぎ、冷たいものの飲みすぎなどが胃腸の働きを弱らせて余分な水分(痰)を滞らせるため、めまいを引き起こします。


じん

“腎は耳に開竅(かいきょう)する”とされており、耳とも深い関係があります。中医学でいう腎は泌尿器だけでなく、内分泌、免疫、生殖、骨や歯、耳、髪、腰などと関係しています。そのため、年をとると腎の機能は低下して骨や歯は弱くなり、尿の出方、生殖能力も弱ってきます。そして耳の方も、耳鳴りや難聴が起きやすくなり、耳の内耳の平衡器官が障害されるとめまいが起こりやすくなります。

 

 

 

中医学体質別治療法

① 肝火上炎(かんかじょうえん)体質
精神的ストレスにより、めまいが起きる。
随伴症状:せっかちな性格、頭痛、赤ら顔、高血圧、目の充血、口の苦みや渇き、不眠など。
ストレスにより気の流れが詰まることで熱が生じてめまいが起こります。情緒変化で急に悪化やすく、耳鳴りをともなうことがあります。

 

漢方

竜胆瀉肝湯、加味逍遙散など

ツボ

行間、風池など

食材

ミント、ジャスミン、緑茶、セロリ、紫蘇、クチナシの実など

 

 

② 気血両虚(きけつりょうきょ)体質
身体に必要な気(エネルギー)や血が不足することにより、めまいが起きる。
随伴症状:倦怠感、食欲不振、不眠、顔色が白い、めまい、眼精疲労、動悸、脱毛など。
過労や胃腸虚弱、栄養失調、出産などにより身体の基本となる気や血が不足すると、血管内を巡る物質が減るため頭部の栄養状態が悪くなります。立ちくらみやフラっとするめまいが起きやすく、横になると一時的に楽になる傾向があります。

 

漢方

十全大補湯、補中益気湯など

ツボ

足三里、気海など

食材

豆腐などの大豆製品、卵、いんげん豆、山芋、人参、ほうれん草など

 

 

③ 腎虚(じんきょ)体質
加齢や虚弱体質により、めまいが起きる。
随伴症状:足腰がだるい、物忘れ、耳鳴り、頻尿、白髪、難聴、精力減退、むくみなど。
加齢などにより腎の働きが弱ると、脳髄が衰えて頭が空虚となり、めまいを引き起こします。フラっとするめまいがしたり、夕方以降に悪化しやすい傾向があります。

 

漢方

六味地黄丸、八味地黄丸など

ツボ

腎兪、太渓 ※冷えをともなう場合は、命門にお灸を加える

食材

黒豆、黒きくらげ、黒ごま、山芋、卵、くるみ、アーモンドなど

 

 

④ 痰湿(たんしつ)体質
水分代謝が悪いため、めまいが起きる。
随伴症状:身体が重だるい、頭重、むくみ、めまい、食欲不振、胸苦しい、軟便など。
天気が悪くなるとこれらの症状が悪化するのが、このタイプの特徴です。暴飲暴食などによる胃腸の不調で頭部に水分が停滞し、リンパ液の循環に影響してめまいを引き起こします。耳閉感や頭重感があり、グルグルするめまいや嘔吐をともないます。

 

漢方

苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯など

ツボ

陰陵泉、豊隆など

食材

緑豆などの豆類、冬瓜、とうもろこし、ハトムギ、もやしなど

 

 

⑤ 血瘀(けつお)体質
血行不良により、めまいが起きる。
随伴症状:頭痛、唇の色が悪い、シミやくすみが目立つ、冷えのぼせなど。
打撲などの外傷や、ストレス、寒熱バランスの乱れなどにより血(けつ)の巡りが悪くなり、めまいを引き起こします。めまいは夜間に悪化しやすく、刺すような頭痛をともなうことがあります。

 

漢方

血府逐瘀湯、桂枝茯苓丸など

ツボ

膈兪、三陰交など

食材

紅花、シナモン、黒糖、生姜、ネギ、玉ねぎなど

 

 

 

めまいの鍼灸治療

体質と原因に合わせた全身の施術が基本です。頭部と頚部と耳周囲に鍼やお灸をすることでバランスを整え、自律神経と筋肉(骨格筋)の緊張を緩和すると、めまいの程度や発作の頻度は低くなります。頭や目、耳の血流が促され、治療後に頭が軽く感じられた、視界がはっきりしたと自覚される方が多くいらっしゃいます。最近では、パソコンやスマートフォンの長時間使用、過労やストレスによる血行不良を肩こりや頭痛として自覚され、めまいと同時に訴えられるケースも多くなっています。肩こりの治療が、直接めまいの改善に繋がることもあります。

 

めまいで使う代表的なツボ
翳風(えいふう)、百会(ひゃくえ)、風池(ふうち)、肩井(けんせい)、中渚(ちゅうしょ)など。

 

暮らしのアドバイス

・規則正しい生活をして寝不足にならないようにしましょう
・過労や過度のストレスを避けましょう
・定期的に適度な運動やストレッチをしましょう
・禁煙しましょう
・お酒やコーヒーは控えめにしましょう

 

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒