体質で考える「過敏性腸症候群」

体質で考える「過敏性腸症候群」

体質で考える「過敏性腸症候群」

更新日:2023.11.21

 

 

 

過敏性腸症候群とは?

過敏性腸症候群とは? 過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)とは、主に大腸のぜん動運動や機能異常で起きる病気の総称を指します。若年層から中年層の女性に多く、腸管において炎症や腫瘍など組織学的異常が認められないにも関わらず、腹痛を伴う下痢、便秘などの便通異常、ガス過多による下腹部の張りといった症状を現します。排便の回数と便の状態から、主に下痢を起こす“下痢型”、主に便秘を起こす“便秘型”、便秘と下痢を繰り返す“交替型”に分類されます。

 

過敏性腸症候群の診断と治療

過敏性腸症候群の診断(RomeⅢ)
直近の3か月間に、月に3日以上にわたってお腹の痛みや不快感が繰り返し起こり、以下の2項目以上の特徴を示すものとされています。
 ① 排便によって症状がやわらぐ
 ② 発症時に排便頻度の変化を伴う
 ③ 発症時に便形状(外観)が変わる

*6か月以上前から症状があり、最近3か月間は上記の基準を満たしていること。
**腹部不快感は、痛みとは表現されない不快な感覚を意味する。病態生理学的研究や臨床研究に関しては、週に2日以上の痛み/不快感があるものを適格症例とする。

過敏性腸症候群では、生活習慣を見直すことが重要になります。症状によっては腸管機能を調節する薬や、腸管の内容物を調整する薬が用いられています。

 
体質で考える「過敏性腸症候群」

漢方で考える過敏性腸症候群

体質で考える「過敏性腸症候群」

緊張やストレスなどが原因で見られることが多いですが、ほかにも過労や食生活も影響しています。排便は自律神経の副交感神経に支配されており、過度のストレスを受けると自律神経のバランスが崩れ、その働きが乱れてきます。胃腸症状以外にも、頭痛や動悸、めまい、肩こり、不眠、不安、イライラといった様々な症状を引き起こすこともあります。中医学では、主に“肝(かん)”、“脾(ひ)”、“腎(じん)”のバランスが乱れることが多いと考えられます。

 


かん

血(けつ)を貯蔵したり、気血の流れをスムーズにする働きがあり、ストレスによって乱れやすい臓腑です。過度のストレスがかかると流れが不安定となり、下痢や便秘を引き起こします。


脾が弱ると消化機能が落ち、血や筋肉の元となる栄養分や水分を十分に吸収できず、水分が停滞してしまい、下痢や軟便が生じます。


じん

二陰(尿道と肛門)に関係しており、腎が弱り水分代謝が悪くなると便秘や下痢を生じます。

 

 

中医学体質別治療法

① 肝鬱気滞(かんうつきたい)体質
ストレスなどの精神刺激により、下痢や便秘を繰り返す。
随伴症状:胃痛、腹痛、お腹や胸の張り、イライラ、憂うつ感、喉のつまりなど。
自律神経がストレスや猫背などの姿勢不良により乱れると、交感神経と副交感神経のバランスが悪くなり、ちょっとした刺激にも過敏に反応しやすくなります。

 

漢方

逍遥散、四逆散など

ツボ

太衝、合谷など

食材

ミント、ジャスミン、春菊、三つ葉、みかんの皮、イカなど

 

 

② 肝脾不和(かんぴふわ)体質
もともと胃腸が弱く、ストレスなどの精神刺激により下痢や便秘を生じる。
随伴症状:胃痛、腹痛、食欲不振、お腹や胸の張り、イライラ、憂うつ感、ゲップが多いなど。
自律神経がストレスや猫背などの姿勢不良により乱れると、胃腸の働きが乱れやすくなります。

 

漢方

柴芍六君子湯、桂枝加芍薬湯など

ツボ

合谷、太白など

食材

ミント、ジャスミン、三つ葉、みかんの皮、大豆製品、きのこ類など

 

 

③ 脾胃気虚(ひいききょ)体質
もともと胃腸が弱く、消化の悪いものを食べると下痢や便秘をする。
随伴症状:食欲不振、お腹の張り、腹痛、倦怠感、疲れやすい、むくみ、めまいなど。
過労や胃腸虚弱により、食べものから効率よくエネルギーを作れないことも多く、疲労感が出やすくなります。

 

漢方

六君子湯、補中益気湯など

ツボ

足三里、陰陵泉など

食材

豆腐や湯葉などの大豆製品、卵、いんげん豆、山芋、きのこ類など

 

 

④ 脾腎陽虚(ひじんようきょ)体質
加齢や胃腸虚弱により生じ、温める力が弱りやすく下痢や便秘をする。
随伴症状:お腹や腰の冷え、立ちくらみ、めまい、倦怠感、疲れやすい、むくみ、頻尿など。
加齢や過労、胃腸虚弱、飲食の不摂生などにより、生命エネルギーの源である腎と、身体に必要な栄養物質を作り出す脾の働きが落ちやすくなります。

 

漢方

附子理中湯、八味地黄丸合補中益気湯など

ツボ

関元、足三里など ※命門にお灸を加える

食材

もち米、鶏肉、イワシ、エビ、くるみ、栗、ニラ、とちゅう茶など

 

 

 

過敏性腸症候群の鍼灸治療

鍼灸では、ストレスタイプなら主に自律神経を整え、胃腸の負担を和らげます。胃弱タイプであれば、ストレスの程度にもよりますが胃腸を整える治療を主とします。冷えがあったり、軟便やむくみなど余分な水分の停滞も見られる場合はお灸を加えることもあります。

過敏性腸症候群で使う代表的なツボ
水分(すいぶん)、内関(ないかん)、陰陵泉(いんりょうせん)など。

 

暮らしのアドバイス

・暴飲暴食を避け腹八分を心がけましょう
・消化のよいものをとり香辛料やコーヒー、アルコールなどの刺激物を避けましょう
・規則正しい生活をおくりましょう
・ストレスをうまく発散しましょう
・姿勢を正して猫背を直しましょう

 

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒