体質で考える「肥満」
肥満の原因と治療
原発性肥満
食習慣や運動習慣といったライフスタイルとの関係が深く、肥満の約95%を占めます。
二次性肥満
遺伝性の病気や内分泌異常、ホルモン剤服用などによる副作用によって引き起こされます。
治療では、食事療法を中心としながら運動療法を一緒に行います。二次性肥満の場合は、原因となる病気の治療が必要です。
漢方で考える肥満
中国最古の医学書である“黄帝内経(こうていだいけい)”には、肥満について以下のような記載があります。
『肥人多痰、肥乃気虚也。虚則気不運行、故痰生也。』
“肥満者は痰が多く気虚(エネルギー不足)がある、気虚により気の巡りが滞り痰が生まれる”という意味です。
『肥人湿多。』
“肥満者には湿が多い”という意味です。
この“痰(たん)”と“湿(しつ)”という老廃物こそが、肥満の原因物質となります。
ここで重要なのが、“痰湿(たんしつ)”の生成と密接に関係しているのが、中医学では“脾(ひ)”と“腎(じん)”という内臓の働きです。脾は飲食物の消化、吸収、代謝および栄養物質の生成をするところで、脂っこく味の濃いものを過食したり、胃腸虚弱で代謝がうまくできないと老廃物である痰湿を生みます。腎は人体を構成する基本物質である生命エネルギーの“精(せい)”を貯蔵することで、成長、発育、老化、生殖、水分代謝を司ります。腎の働きが悪くなると水分の排出がうまくいかず、老廃物である痰湿を生み出します。また、ストレスが関係する場合は五臓のうちの“肝(かん)”に影響するため、ストレスなどにより働きが悪くなると、“瘀血(おけつ)”という血行不良の状態を生み出します。
中医学体質別治療法
① 胃熱(いねつ)体質
脂っこいものや味の濃いもの、糖分のとりすぎ、暴飲暴食、アルコールの摂取で起きやすい。
随伴症状:胸の灼熱感、口内炎、口の渇き、過食、口臭、便秘、多汗、のぼせなど。
胃に熱がこもることで空腹感を感じず、食欲が衰えず食べすぎる傾向にあります。
漢方 |
防風通聖散、大柴胡湯など |
ツボ |
内庭、曲池など |
食材 |
緑茶、ゴーヤ、レタス、トマト、きゅうり、セロリ、豆腐、バナナなど |
② 痰湿 (たんしつ)体質
身体にドロドロした老廃物が溜まっており、滞りが生じている。
随伴症状:体が重だるい、痰が多い、食欲不振、胸苦しく胃がつかえる、下痢など。
多くは飲食の不摂生により、胃腸の働きが衰えて水分代謝が滞っています。脂っこいものや味の濃いものをとり続けると太りやすくなります。
漢方 |
二陳湯、平胃散など |
ツボ |
陰陵泉、豊隆など |
食材 |
緑豆などの豆類、冬瓜、とうもろこし、ハトムギ、もやしなど |
③ 血瘀(けつお)体質
ストレスなどにより血行不良となる。
随伴症状:肩こり、頭痛、唇の色が悪い、シミやくすみが目立つ、冷えのぼせなど。
ストレスなどで自律神経を司る肝が失調すると、気血が巡らなくなります。また、運動不足によっても筋力が衰え、血行不良の原因となります。
漢方 |
桃核承気湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁など |
ツボ |
血海、三陰交など |
食材 |
紅花、シナモン、黒糖、生姜、ネギ、玉ねぎ、ナスなど |
④ 気虚(ききょ)体質
身体のエネルギーとなる気が不足しているため、老廃物を代謝することができない。
随伴症状:食欲不振、お腹の張り、倦怠感、疲れやすい、むくみ、めまいなど。
過労や胃腸虚弱によりエネルギーが不足するため血を巡らせることができず、滞りが生まれやすくなります。また、冷えやすくなることで基礎代謝が低く、カロリーを消耗しにくい傾向があります。
漢方 |
防己黄耆湯、六君子湯など |
ツボ |
足三里、気海など |
食材 |
豆腐や湯葉などの大豆製品、卵、いんげん豆、山芋、きのこ類など |
肥満の鍼灸治療
鍼灸治療では、その体質に対処するツボを適切に選定しアプローチしていくことで症状の軽減、緩和を目的としていきます。ツボを刺激することで臓腑の働きを調整するとともに、血流や水分代謝の改善を促します。肥満の鍼灸治療では、耳つぼ治療もよく行われます。
肥満で使う代表的なツボ
足三里(あしさんり)、陰陵泉(いんりょうせん)、豊隆(ほうりゅう)、関元(かんげん)、太衝(たいしょう)、飢点(きてん)、渇点(かってん)など。
暮らしのアドバイス
・食事のバランスに気をつけ、過食を控えましょう
・清涼飲料水や菓子類は控えましょう
・1日15分以上の有酸素運動を行いましょう
・喫煙は控えましょう
・ストレスを上手に発散しましょう
薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師
中国漢方普及協会 学術委員
株式会社 誠心堂薬局 営業部課長
北里大学薬学部薬科卒
東京医療福祉専門学校鍼灸科卒