体質で考える「坐骨神経痛」

体質で考える「坐骨神経痛」

体質で考える「坐骨神経痛」

更新日:2023.11.20

 

 

 

坐骨神経痛とは?

下半身の神経痛の主なものは坐骨神経痛です。坐骨神経痛とは、坐骨神経が走っている領域に沿って出る痛みのことで、お尻から下半身の後側、あるいは外側、足先まで痛むこともあります。

 
体質で考える「坐骨神経痛」

坐骨神経痛の原因と治療

体質で考える「坐骨神経痛」

坐骨神経は、人体における末梢神経のなかで一番太く、最も長いものとなっています。何らかの原因でこの坐骨神経に問題が起きると、神経の通り道でもあるお尻から下半身にかけて痛みが引き起こされます。坐骨神経痛の原因となる病気には次のようなものがあります。

椎間板ヘルニア
加齢などにより、骨と骨の間でクッションの働きをしている椎間板の弾力性が無くなり外に飛び出ることで神経を圧迫するため、痛みやしびれといった神経症状が現れます。

梨状筋(りじょうきん)症候群
骨盤の出口のところで坐骨神経が何らかの理由で硬くなった梨状筋の圧迫を受け、お尻や下半身に痛みが出ます。

脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)
背骨が変形したり、靭帯が厚くなることで神経が通る脊柱管が狭くなり、神経を圧迫していきます。坐骨神経とともに馬尾神経を圧迫するようになると、尿意切迫感などの膀胱直腸障害や異常勃起などの性機能不全、しびれなど下半身の異常感覚が見られることがあります。

治療は、重症でない限り温熱療法や運動療法、薬物療法といった保存的治療が行われます。 硬いマットレスを使ったベッドでの安静と、痛みと炎症を軽減する薬だけで回復することもあります。手術が必要なケースには、外科的手術が行われます。

 

漢方で考える坐骨神経痛

中医学では、筋や骨や関節における痛み、腫れ、しびれを主な症状とするものを“痺症(ひしょう)”と呼んでおり、坐骨神経痛もこれに分類されます。体力の低下や内臓の弱りに乗じて、外界からの邪気(人体に悪影響を与える自然環境の変化)が体内に侵入して気血の運行を阻滞し、痺症を引き起こします。例えば、冬のとても寒い日に腰が痛み出すといったことは、中医学的には寒邪(かんじゃ)という冷えの邪気により気血の流れが滞り痛みが起きたものと考えられます。このことから、多くの場合で痺症は、季節の変化に左右されやすい傾向があるといえるでしょう。

 

中医学体質別治療法

① 湿熱(しつねつ)体質
お尻や下半身の後側に焼けるような痛み、熱感やしびれなどをともなう張痛などを生じる。
随伴症状:身体が重だるい、のぼせ、口の渇き、口臭、多汗、尿が黄色など。
体内で停滞している水分に熱が加わった状態で、痛みの原因となります。蒸し暑い日や、過度な飲酒、辛いものや脂質のとりすぎなどで悪化しやすくなります。

 

漢方

越婢加朮湯、竜胆瀉肝湯など

ツボ

陰陵泉、曲池など

食材

ハトムギ、とうもろこし、冬瓜、緑豆、きゅうり、クチナシの実など

 

 

② 寒湿(かんしつ)体質
腰や下半身の持続した鈍痛で、寒い日や雨の日に痛みが誘発される。
随伴症状:筋肉のひきつり、寒がり、手足の冷え、むくみなど。
体内で停滞している水分に、冷えが加わった状態で、痛みの原因となります。気候変化のほかに、薄着のしすぎ、冷たいものや生もののとりすぎなどで悪化しやすくなります。温めると痛みが一時的に減る傾向があります。

 

漢方

五積散、桂枝加苓朮附湯など

ツボ

陰陵泉、腎兪など ※お灸を多用

食材

ネギ、生姜、シナモン、紫蘇、玉ねぎ、ニンニク、山椒、ニラ、酢など

 

 

③ 血瘀(けつお)体質
刺すように痛み、夜間になると痛みがひどくなる。
随伴症状:肩こり、頭痛、唇の色が悪い、シミやくすみが目立つ、冷えのぼせなど。
血の滞りにより痛みが生じます。痛みが長引きやすく、治りにくい傾向があります。

 

漢方

疎経活血湯、桂枝茯苓丸など

ツボ

血海、三陰交など

食材

紅花、シナモン、黒糖、生姜、ネギ、玉ねぎなど

 

 

④ 肝腎陰虚(かんじんいんきょ)体質
腰や下半身のだるさや無力感を感じる。揉んだり休むと一時的に楽になる。
随伴症状:足腰がだるい、倦怠感、目の疲れ、筋肉のつり、便秘、ほてり、イライラなど。
中医学において、生命エネルギーの源である腎(じん)と血(けつ)を蓄える肝(かん)は、加齢や過労、睡眠不足などにより消耗して痛みが出やすくなります。

 

漢方

杞菊地黄丸、二至丸合六味丸など

ツボ

太谿、三陰交など

食材

黒豆、黒きくらげ、アスパラガス、山芋、卵、人参、ほうれん草など

 

 

⑤ 腎陽虚(じんようきょ)体質
疲労や加齢によって痛みが誘発され、腰や下半身後側の痛みやしびれ、脱力感がある。
随伴症状:手足の冷え、寒がり、足腰のだるさ、倦怠感、物忘れ、耳鳴り、白髪など。
冷えが強く、エネルギーとなる陽気が不足したタイプです。体を温められないと血行が悪くなり痛みを引き起こします。

 

漢方

独活寄生湯、牛車腎気丸など

ツボ

腎兪、命門など ※お灸を多用

食材

黒豆、くるみ、もち米、羊肉、エビ、栗など

 

 

 
体質で考える「坐骨神経痛」

坐骨神経痛の鍼灸治療

体質で考える「坐骨神経痛」

痛みの治療では、痛みが出ている場所を確認し、通じなくなっている経絡(気血の通り道)を確認します。坐骨神経痛は一般的に、背中から背面を走る“足の太陽膀胱経(たいようぼうこうけい)”、身体の外側を走る“足の少陽胆経(しょうようたんけい)”に異常が生じます。足の太陽膀胱経の特徴は、外界から邪気の侵入を最も受けやすい点です。例えば、風邪の引き始めに背中がゾクゾクするのは、足の太陽膀胱経に邪気が侵入したことを意味します。経絡の流れは、腰からお尻、下半身の後側を走っているため、坐骨神経痛や腰痛の原因になります。足の少陽胆経は、足の太陽膀胱経に次いで外邪が侵入しやすいです。

坐骨神経痛で使う代表的なツボ
足太陽膀胱経型:腎兪(じんゆ)、秩辺(ちっぺん)、委中(いちゅう)、崑崙(こんろん)など。
足少陽胆経型:環跳(かんちょう)、風市(ふうし)、陽陵泉(ようりょうせん)、足臨泣(あしりんきゅう)など。

 

暮らしのアドバイス

・洋服や下着はゆったりしたものを着て締め付けないようにしましょう
・長時間の座りっぱなしを避けましょう
・ウォーキングをして血行をよくしましょう
・冷え性の方は温かい飲食や入浴を心がけましょう
・ストレスをうまく発散しましょう

 

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒