薬草辞典-あ行

オウギ

黄耆おうぎ

おうぎ

[基原]マメ科キバナオウギやナイモウオウギなどの根。

[性・味]微温・甘

[帰経]脾・肺

[用法]10~15g。生黄耆は外表に作用し固表・托瘡・利水の作用に優れる。灸黄蓍は裏に作用し補中補気昇陽作用に優れる。補気昇陽には多量 (~30g) を使用。

人参に比べ補気力ほきりょくは劣るが,昇陽しょうよう固表こひょう・利水・托瘡たくそう作用に優れる。

補気昇陽

脾気を補うとともに,上昇力の低下した脾気の精気(中気下陥)をもち上げる。また補気により血の経絡よりの流失を防ぐ(摂血)。
(1)脾胃気虚の倦怠感・食欲不振・下痢・顔色不良などに使用される。また脾肺両虚証や気血両虚証にも用いられる。
①脾胃虚証には,人参・白朮・山薬・茯苓などと用いる。
②脾陽虚証には附子・肉桂などと用いる。
③肺脾両虚証の易感冒・食欲不振・下痢・自汗などには,芍薬・桂枝・大棗などと用いる。〔代表方剤:黄耆建中湯 〕。
④気血両虚証には, 熟地黄・人参・白朮・芍薬などと用いる。〔代表方剤:十全大補湯 〕。
(2)中気下陥の下垂感・めまい・倦怠感・内蔵下垂・気虚発熱・めまい・慢性下痢・頻尿などに使用される。
①中気下陥証には,升麻・柴胡・人参・白朮などと用いる。〔代表方剤:補中益気湯 ,挙元煎〕。
②中気下陥による息切れ・呼吸困難などには, 柴胡・升麻・桔梗・山茱萸などと用いる。〔代表方剤:昇陥湯〕。
(3)気虚による出血証(気不摂血)にも用いられる。
①気血両虚には,当帰などと用いる。 〔代表方剤:当帰補血湯〕。
②脾不統血の吐血・鼻出血・血便・崩漏・内出血紫斑などには, 人参・当帰・竜眼肉・酸棗仁や三七・烏賊骨・阿膠などと用いる。〔代表方剤:帰脾湯 〕。

補気固表・
解表

肺気を補い,膝理を密にし衛気の機能を高める(固表)。
(1)肺気虚証の息切れ・易感冒・咳嗽・白色多痰・慢性喘息・自盗汗などに使用される。
①肺気虚証の咳嗽・息切れなどには五味子・人参・熟地黄などと用いる。〔代表方剤:補肺湯〕。
②易感冒症には,防風・白朮などと用いる。〔代表方剤:玉屏風散〕 。
③表虚証の自汗には, 牡蛎・浮小麦・麻黄根などと用いる。〔代表方剤:桂枝加黄耆湯 ,牡蛎散〕。
④陰虚の盗汗には, 生地黄・麦門冬・五味子・地骨皮・浮小麦などと用いる。
⑤陽虚の自汗には,附子などと用いる。 〔代表方剤:耆附湯〕。
(2) 気虚や陽虚の感冒に使用される。陽虚の感冒の初期で,四肢冷感・倦怠感・顔色蒼白・悪寒・無汗などには,人参・桂枝・附子・細辛。生姜などと用いる。〔代表方剤:再造散〕。

益気利水

脾の機能を高めることで利水する。気虚や脾虚の水湿停滞による浮腫・尿量減少・身体の重だるさなどに使用される。白朮・防已・茯苓・生姜・桂枝などと用いる。〔代表方剤:防已黄者湯 ,防已茯苓湯〕。

托瘡生肌

瘡家の聖薬といわれ,正気を高めることで排膿を促し(托裏), 創傷や皮膚化膿症の治癒を促進する(生肌)。気血両虚などの排膿や化膿の遅延, 排膿後の傷口修復遅延などに使用される。
①気血両虚の排膿遅延には,当帰・ 川芎・穿山甲・皀角刺・連翹・金銀花などと用いる。〔代表方剤:当帰飲子 ,透膿散,托裏消毒飲〕。
②創傷修復遅延には,当帰・肉桂などと用いる。

(1) 補気により血を補い,かつよく巡らせる。気虚血虚証などの四肢のしびれ・痺証などに使用される。桂枝・芍薬・大棗・生姜などと用いる。〔代表方剤:大防風湯 ,黄蓍桂枝五物湯〕。
(2) 気虚瘀血証などの中風後遺症の半身マヒ・しびれなどに使用される。当帰・ 川芎・桃仁・紅花・地竜などと用いる。〔代表方剤:補陽還五湯〕。

[注意点]補気昇陽作用があり ,火邪を助長しやすい。そのため,表実証・気滞湿証・食積・陰虚内熱・初期の皮膚化膿炎や,十分に正気がある同症には使用しない。

オウゴン

黄芩おうごん

おうごん

[基原]シソ科コガネバナの根。

[別名]尖苓せんごん片苓へんごん

[性・味]寒・苦

[帰経]肺・胆・胃・大腸

[用法]3~10g。炒黄芩は清熱安胎,酒黄芩は清肺熱,炒炭黄芩は止血作用に優れる。

広範囲の熱証ねっしょう湿熱証しつねつしょうに使用され,特に肺火はいか肝火かんかをよく冷ます。清熱安胎せいねつあんたい作用・止血作用を有する。

清熱燥湿

よく熱を冷まし湿を除く。肝胆・胃・大腸・boukou

など多くの湿熱証 の下痢・煩熱・胸悶感・ロ渇・褐色尿・小便不利・黄膩苔などに使用される。
(1)肝胆の湿熱黄疸や寒熱錯雑証に使用される。黄疸には菌蔯嵩・山梔子・柴胡などと用いる。
(2)湿温病や暑湿初期の発熱・発汗・胸悶感・腹部脹満・嘔吐・膩苔などに使用される。滑石・通草・白豆蔲などと用いる。〔代表方剤:黄芩滑石湯,甘露消毒飲)。
(3)大腸湿熱による発熱・腹痛下痢・裏急後重などに使用される。黄連・黄柏・葛根・秦皮・白頭翁・木香・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:葛根苓連湯,白頭翁湯,黄芩湯 〕。
(4)膀胱湿熱による熱淋の小便不利・頻尿・排尿痛・残尿感・褐色尿や血淋・赤色尿などに使用される。
①木通・茅根・車前子・沢瀉・滑石などと用いる。〔代表方剤:五淋散 〕。
②気虚や血虚を伴うときには,黄耆・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:清心蓮子飲 〕。

清熱瀉火

熱を冷まし火を降ろす。温病気分証や少陽病・肺などの実熱証に多用される。
(1)温病気分証や心火亢進(特に前者)の高熱・熱感・発汗・煩燥・焦燥感・頭痛・不眠・ロ渇・意識障害・紅色舌などの実熱証に使用される。黄連・黄柏・山梔子・大黄・生地黄・牛黄などと用いる。〔代表方剤:黄連解毒湯,牛黄清心丸,清営湯〕。
(2) 寒熱錯雑証の心窩部痞塞感・胃痛・下痢・悪心・嘔吐・ロ苦などに使用され る。黄連・半夏・乾姜や生姜などと用いる。〔代表方剤:半夏瀉心湯 ,生姜瀉心湯〕。
(3)少陽病の熱盛状態の口苦・めまい・寒熱往来などに使用される。
①柴胡・黄連・半夏などと用いる。〔代表方剤:小柴胡湯 〕。
②肝胆実火による頭痛・めまい・耳鳴・焦燥感・易怒・季肋部脹満感などに使用される。竜胆草・柴胡・山梔子・車前子などと用いる。〔代表方剤:竜胆瀉火湯,大柴胡湯〕。
(4)肺熱による咳嗽・呼吸促迫・胸痛・黄色粘性痰などに使用される。桑白皮・天花粉・貝母・杏仁・天南星などと用いる。〔代表方剤:清肺湯 ,柴陥湯 ,定喘湯〕。

清熱止血

止血作用があり,黄連と同様に,血熱による吐血・鼻出血・血便などに使用される。また喀血・血尿・湿疹などにも用いられる。黄連・大黄・山楯子・三七・茅根・愧花などと用いる。〔代表方剤:三黄潟心湯〕。

清熱安胎

安胎作用(流産防止作用)がある 。胎熱による熱性の胎動不安 ・腹痛・下血などに使用される。白朮・当帰などと用いる。〔代表方剤:当帰散〕。

清熱解毒

熱毒をよく冷まし除く。皮膚化膿症・火傷・熱毒による温病・細菌性などの重症下痢・咽頭腫脹などに使用される。特に,皮膚化膿症や火傷に用いられる。黄連・連翹・金銀花・蒲公英などと用いる。〔代表方:清上防風湯 〕。

[注意点]苦寒の性が強いため,脾胃を損傷しやすい(苦寒敗胃)。脾胃虚寒証には禁忌。実熱証以外には使用しない。また燥湿作用も強く津液を消耗しやすい。

オウレン

黄連おうれん

おうれん

[基原]キンポウゲ科オウレンなどの根茎。

[別名]川連せんれん

[性・味]寒・苦

[帰経]心・肝・胃・大腸

[用法]2~6g。強い熱証には12gまで使用可。粉末も可 (1~1.5g/回)。姜黄連は止嘔に優れる。酒黄連は上部の熱証(口内炎や眼痛耳痛など)に使用される。

治火ちかの主薬といわれ,清熱せいねつ燥湿そうしつ解毒げどく各作用ともに優れた実熱瀉火じつねつしゃかの重要薬。特に心火除煩しんかじょはん作用に優れる。

清熱瀉火

よく熱を冷まし火を降ろす。諸薬の配合で以下の広範囲な実熱証に使用される。特に心火や胃熱を冷ます作用に優れる。
(1)心火亢進や温病気分証の高熱・熱感・発汗・煩躁・焦燥感・頭痛・不眠・口渇・意識障害・紅色舌などの実熱証に使用される。黄芩・黄柏・山梔子・大黄・生地黄・牛黄などと用いる。〔代表方剤:黄連解毒湯,牛黄清心丸,清営湯〕。陰血不足を伴う煩躁・不眠などにも用いられる。白芍・阿膠・黄芩・鶏子黄など。〔代表方剤:黄連阿膠湯,交泰丸〕。
(2)血熱による吐血・鼻出血・血便などに使用される。黄芩・大黄・山梔子・三七・茅根・槐花などと用いる。〔代表方剤:三黄瀉心湯〕。
(3)寒熱錯雑証の心窩部痞塞感・胃痛・下痢・悪心・嘔吐・ロ苦などに使用される。黄芩・半夏・乾姜や生姜などと用いる。〔代表方剤:半夏瀉心湯 ,生姜瀉心湯〕。
(4)胃熱証に使用される。止嘔作用も有し,胃熱嘔吐の常用薬。
①胃熱嘔吐には,半夏・竹筎などと用いられる。〔代表方剤:黄連橘皮半夏湯〕。
②口内炎・歯齦炎・歯齦出血・歯痛などには,升麻・白芷・生地黄などと用いる。〔代表方剤:清胃散〕。
③消渇などの飢餓感・ロ渇・多飲などには,天花粉・生地黄・知母などと用いる。
(5) 肝火亢進証の眼球結膜充血・眼痛腫脹・羞明・流涙などに使用される 。点眼薬も可。山梔子・竜胆草・菊花・連翹などと用いる。〔代表方剤:当帰竜薈丸)。
(6) 肝火犯胃の嘔吐・呑酸・季肋部脹満痛・曖気などにも用いられる。呉茱萸・蘇葉などと用いる。〔代表方剤:左金丸)。

清熱燥湿

よく熱を冷まし,強力に湿を除く。
(1)脾胃湿熱証に使用される。湿熱実証の胸悶感・心窩部痞塞感・悪心・嘔吐・下痢・黄膩苔などに用いられる。厚朴・山梔子・半夏などと用いる。〔代表方剤:連朴飲〕。寒熱錯雑証の胃痛・心窩部痞塞感・口苦などにも使用される。半夏・生姜などと用いる。〔代表方剤:黄連湯 〕。②裏急後重を伴う腹痛下痢には,木香・檳榔子などと用いる。〔代表方剤:香連丸〕。
(2)大腸湿熱による発熱・腹痛下痢・裏急後重などに使用される。黄芩・黄柏・葛根・秦皮・白頭翁・木香・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:葛根苓連湯,白頭翁湯〕。
(3)肺の痰熱証の胸痛・咳嗽・黄色痰などに使用される。貝母・半夏・栝楼仁などと用いる。〔代表方剤:小陥胸湯,柴陥湯 〕。
(4)痰熱証の不眠・悪心・嘔吐・めまい・ロ苦・ロの粘り・精神不安・焦燥感などに使用される。半夏・竹筎・茯苓などと用いる。〔代表方剤:竹筎温胆湯〕。

清熱解毒

熱毒をよく冷まし除く。本作用に特に優れる。熱毒による温病・細菌性などの重症下痢・皮膚化膿症・火傷・咽頭腫脹などに使用される。外用も可。)黄芩・連翹・大黄・升麻・板藍根などと用いる。〔代表方剤:清上防風湯〕

寒性を和らげるために,少量を反佐薬として使用する。

[注意点]寒性と燥性が強く,多量や長期の服用で脾胃を損傷し(苦寒敗胃),食欲不振やもたれ,悪心・嘔吐などが出現することがある。実熱証以外には使用しない。 脾胃虚証には禁忌。また燥湿作用も強く津液を消耗しやすい。陽虚証・陰虚証には慎重に使用する。