薬草辞典-は行

ハイショウ

敗醬はいしょう

はいしょうこん

[基原]オミナエシ科オミナエシやオトコエシなどの全草や根。

[別名]全草は敗醬草はいしょうそう。根は敗醬根はいしょうこん

[性・味]微寒・辛・苦

[帰経]大腸・肝

[用法]敗醬草:6~15g。敗醤根:3~20g。外用も可。

活血かっけつ作用を有する清熱解毒薬せいねつげどくやく腸癰ちょうよう治療の重要薬。有膿・無膿を問わず応用してよい。

清熱解毒・
排膿

熱毒を冷ますとともに湿を除き,瘀血を去る。熱毒と湿・気・血が結び出現した腸癰に多用される。そのほか,排膿作用を有し,配合薬により皮膚などの化膿症の初期から化膿期まで使用される。肺癰(肺炎や熱邪蘊肺証)にも使用される。塗布も可。
①未排膿の腸癰の初期には,大黄・紅藤・金銀花・牡丹皮などと用いる。
②膿あるも無熱の病症には,薏苡仁・附子などと用いる。〔代表方剤:薏苡附子敗醬散〕
③熱毒が盛んな病症には,金銀花・連翹・黄芩などと用いる。
④肺癰には,黄芩・魚腥草・桔梗などと用いる。

活血化瘀

紅藤と同様に,血を巡らせ疼痛を去る。瘀血による産後の腹痛や月経痛・胸腹疼痛などに使用される。単味服用も可。当帰・川芎・五霊脂・香附子などと用いる。

[注意点]血瘀であっても熱毒によらない場合には用いない。

バイモ

貝母ばいも

ばいも

[基原]ユリ科アミガサユリ属植物の鱗茎。

[性・味]平(川貝母)・寒(浙貝母)・甘(川貝母せんばいも)・苦(浙貝母せきばいも

[帰経]肺・心

[用法]3~5g。粉末も可 (1~1.5g/回)。川貝母は高値であり,粉末で服用してもよい。

寒性かんせい潤性じゅんせいがあり,清熱潤燥せいねつじゅんそう作用を有し,熱痰ねつたん燥痰そうたんともに使用可能な化痰薬かたんやく栝楼かろに比べ清熱化痰せいねつかたん作用に優れる。

清熱化痰
・止咳


よく肺熱を冷まし,痰を除去し止咳する。潤性・寒性は貝母の種類によって異なる。栝楼と同様に,肺熱鬱滞による粘性痰・黄色痰・乾燥黄膩苔・紅色舌,肺の津液不足や肺陰虚内熱による粘性少痰・喀出困難の痰・咽頭乾燥・少苔や無苔・紅色舌などに使用される。さらに,外感風熱の咳嗽にも用いられる。
①肺熱咳嗽(浙貝母が適する)には,栝楼・知母・桑白皮などと用いる。〔代表方剤:清肺湯,二母散〕。
②肺陰虚(川貝母が適する)には,沙参・麦門冬・百合・紫苑などと用いる。〔代表方剤:貝母散,滋陰至宝湯,養陰清肺湯〕。
③痰熱を伴う風熱証の咳嗽には,桑葉・菊花・牛蒡子などと用いる。

清熱散結

熱を冷まし解毒し痰熱などの鬱結や結実を除く。浙貝母が優れる。肺癰・乳癰・腸癰・瘰癧・甲状腺腫(癭瘤)・皮膚化膿症状の初期(未潰) などに使用される。特に初期に使用される。
①瘰癧には,玄参・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:消瘰丸〕。
②癭瘤(浙貝母が適する)には,海藻・昆布・半夏・青皮・川芎などと用いる。[代表方剤:海藻玉壺湯〕 。
③皮膚化膿症の初期には,麦門冬・天花粉・金銀花などと用いる。
④肺癰には,薏苡仁・魚腥草・桃仁・桔梗などと用いる。

[注意点]基本的には寒性であり,寒痰証には禁忌。伝統的に烏頭とは相反。

バクガ

麦芽ばくが

ばくが

[基原]イネ科オオムギの発芽した穂先の果実。

[別名]麦糵ばくげつ

[性・味]平・甘

[帰経]脾・胃・肝

[用法]10~15g。丸・散剤も可。回乳には生麦芽を大量に使用する(30~60g)。生麦芽は健脾開胃,炒麦芽は消食作用に優れる。

和中わちゅう作用を有する消食薬しょうしょくやく山楂子さんざし神麹しんきくに比べ消食力は弱いが,健脾開胃けんぴかいい作用を有する。穀芽こくがに比べ,消食力に優れる。

消食和中

消化力に優れ,消化作用を促進することで脾胃の機能を助ける。特に米・芋・小麦などの澱粉類の消化作用に優れる。食積や脾胃虚証によるもたれ・胃部脹満感・食欲不振,さらには嘔吐などに使用される。特に脾胃虚証に食積を伴う証に多用される。また健脾薬と併用してその胃腸障害を防ぐ。軽症には単味の服用も可。
①食積には穀芽・神麹・鶏内金などと用いる。
②脾胃虚証による食欲不振などには,人参・白朮などと用いる。

回乳

乳汁の分泌を抑制する。断乳や乳汁鬱滞による乳房脹満感(痛)などに使用される。単味の使用も可。神麹などと用いる。

疏肝解鬱

肝気を流通に流す。胸部季肋部脹満感・曖気・めまいなどを呈する 肝鬱気滞証や肝陽上亢証・肝脾不和証の補助薬として使用される。肝気鬱結に食積を伴う証によく適する。川楝子・芍薬・菌蔯蒿などと用いる。〔代表方剤:鎮肝熄風湯〕

[注意点]授乳期には禁忌。

ハクセンピ

白蘚皮はくせんぴ

はくせんぴ

[基原]ミカン科ハクセンの根皮。

[性・味]寒・苦

[帰経]脾・胃

[用法]5~10g。外用も可。

瘙痒そうようを伴う湿熱瘡瘍しつねつそうようの常用薬。

清熱解毒
・除湿止痒


清熱解毒と同時に湿を除き祛風して瘙痒感を緩和する。
(1) 瘙痒感・糜爛・黄色の滲出液などを伴う湿熱の湿疹や皮膚化膿症に多用され る。そのほか,風疹・陰部湿疹・陰部瘙痒症・疥癬などにも用いられる。煎液の外洗も可。苦参・蒼朮・地膚子・防風などと用いる。

(2)湿熱黄疸・湿熱痺症などにも使用される。

ハクヘンズ

白扁豆はくへんず

はくへんず

[基原]マメ科フジマメの成熟種子。

[別名]扁豆へんず

[性・味]微温・甘・苦

[帰経]脾・胃

[用法]10~30g。丸・散剤も可。炒白扁豆は健脾止瀉に,生白扁豆は祛暑化湿に優れる。

補気健脾力ほきけんぴりょく山薬さんやく白朮びゃくじゅつに劣るが,祛暑化湿きょしょかしつ作用を有する補気薬ほきやく

健脾化湿

脾胃の気を補いその機能を高めて補気する。だが健脾カ・燥性ともに弱く,化湿するも乾燥させず温和である。芳香性があり,湿を除き脾胃機能を調整する(化湿和中)。白朮・人参などの補助薬として使用される 。
(1)湿証を伴う脾虚証に多用される。左記病態の下痢・食欲不振・身体の重だるさ,さらにもたれ・胃部脹満感・倦怠感・顔色不良などに使用される。慢性の下痢には,白朮・山薬・人参・茯苓・陳皮・薏苡仁・砂仁などと用いる。〔代表方剤:啓脾湯 ,参苓白朮散〕。
(2)脾虚証による白色や赤色帯下・倦怠感,さらに混濁尿・頻尿などに使用される。白朮・芡実・烏賊骨などと用いる。

祛暑化湿

健脾するとともによく暑湿の邪を除く。夏季の暑湿邪による腹痛下痢・嘔吐・腹部脹満感などに使用される。単品を服用してもよい。香薷・厚朴・藿香などと用いる。〔代表方剤:香薷散〕。

解酒毒

解毒作用があり酒毒・食肉中毒などに使用される。
①酒毒には,葛花・砂仁・白豆蔲などと用いる。
②フグ毒には,芦根などと用いる。

バクモンドウ

麦門冬ばくもんどう

ばくもんどう

[基原]ユリ科ジャノヒゲの塊根。

[性・味]寒・甘・微苦

[帰経]心・肺・胃

[用法]10~15g。丸・散・膏剤にも使用可。

よく肺陰はいいんを滋養する。天門冬てんもんどうに比べ滋陰じいん作用は弱いが,養心陰ようしんいん清心火せいしんか養胃陰よういいん作用を有する。

養陰潤肺

肺陰を滋養し肺を潤すが,天門冬に比べ滋陰作用は弱い。肺陰虚証や肺燥,肺熱,肺癆などによる乾咳・無痰や粘性少痰・血痰・喀出困難な痰,少苔・無苔・乾燥舌・紅色舌など,天門冬と同様の病態症状に使用される。そのほか,気逆性の乾咳にも使用される。
①肺燥の咳嗽には,天門冬・桑葉・杏仁・阿膠・知母などと用いる。〔代表方剤:麦門冬湯,滋陰降火湯,滋陰至宝湯,二冬膏,清燥救肺湯〕
②肺癆の咳嗽・喀血には,百合・沙参・生地黄などと用いる。

養胃生津

胃陰を潤し津液を生じよみがえらせ,胃熱を去り,渇を止める。薬性が温和で,胃陰を補う良品。
(1)外感熱病後期や慢性疾患などの胃陰虚証に使用される。口渇・ロ燥・紅舌・無苔や少苔などの症状。玉竹・沙参・乾地黄などと用いる。〔代表方剤:益胃湯〕
(2)消渇病に使用される。特に上・中消に多用される。烏梅・括楼根・生地黄などと用いる。

養心陰・
清心火

心陰を滋養し心火を冷まし,心神を安定させる。
(1)心陰虚や心経熱証による不眠・心煩・動悸・ほてり・盗汗などに使用される。生地黄・酸棗仁・玄参・五味子などと用いる。〔代表方剤:天王補心丹〕
(2)気陰両虚証の息切れ・倦怠感・動悸・不眠・ロ渇などにも使用される。人参・五味子・竹葉・人参などと用いる。〔代表方剤:生脈散,清暑益気湯,灸甘草湯,竹葉石膏湯〕
(3)温熱邪の心営に入ったための身熱煩躁・意識障害・乾燥絳舌などの症状に使用される。黄連・生地黄・竹葉・丹参などと用いる。〔代表方剤:清営湯〕。

(1)腸を潤し排便を促進する(軽度の潤腸通便)。だが薬力は天門冬より弱く,他の補助薬として使用される。熱性燥性の腸燥便秘に使用される。玄参・乾地黄などと用いる。〔代表方剤:増液湯〕
(2)清熱作用があり,陰虚鬱熱による咽頭痛・咽頭発赤・咽頭炎・慢性扁桃腺炎などに使用される。生地黄・貝母・玄参・牡丹皮・百僵蚕などと用いる。〔代表方剤:養陰清肺湯〕

[注意点]風寒感冒や風寒,湿性の咳嗽,脾胃虚寒証の下痢には禁忌。

ハゲキテン

巴戟天はげきてん

はげきてん

[基原]アカネ科ヤエヤマアオキの根。

[性・味]温・辛・甘

[帰経]腎

[用法]10~15g。丸・散剤も可。

潤性じゅんせい温腎壮陽薬おんじんそうようやく肉蓯蓉にくじゅよう鎖陽さようと同時によく使用される。祛風寒湿きょふうかんしつ作用を兼ねる温腎壮陽薬おんじんそうようやく

温腎壮陽

よく腎陽を補い先天の気を盛んにする。さらに壮陽作用を有し,精血を補う。潤性であり乾燥させず傷陰の弊害が少ない。腎陽虚の陽萎・不妊・腰痛・腰下肢の脱力倦怠感などに使用される。また腎陽虚による尿失禁などにも使用される。
①陽萎・不妊には人参・肉蓯蓉・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:巴戟丸〕。
②尿失禁には,益智仁・桑螵蛸などと用いる。
③月経失調・小腹部冷感・淡白色帯下などには,肉桂・呉茱萸・高良姜などと用いる。〔代表方剤:二仙湯〕。

強健筋骨
・祛風湿

腎陽を補いながら筋骨を強健にし,風湿を除き痺痛を止める 。腎陽虚を伴う下半身の風湿寒痺証に多用される。腰下肢関節痛・筋肉痛・屈伸不利など。杜仲・牛膝・五加皮・肉桂・附子などと用いる。〔代表方剤:金剛丸〕。

[注意点]陰虚火旺や湿熱の痺証には使用しない。