薬草辞典-は行

バシケン

馬歯莧ばしけん

ばしけん

[基原]スベリヒユ科スベリヒユの全草

[性・味]寒・酸

[帰経]大腸

[用法]9~15g。下痢には多量(30~60g)に使用する。食用も可。

薬性が温和な湿熱しつねつ下痢の常用薬。酸性であり,地錦草ちきんそうに比べ止痢作用に優れる。

清熱解毒
・止痢

清熱解毒とともに止痢作用があり,胃腸の湿熱毒邪を冷まし下痢を止 める(清腸止瀉)。
(1)湿熱による下痢・裏急後重や,湿熱と血が結びついた痢疾の膿血便に使用される。地錦草とよく同時に使用される。単味でも可。白頭翁・黄連・黄芩などと用いる。
(2)熱毒の皮膚化膿症・湿疹・痔・瘰癧・毒蛇などの咬傷にも使用される。塗布も可。

涼血止血
・通淋

血熱を冷まし止血し,利尿通淋する。
(1)産後の出血・不正性器出血,熱性赤白色帯下に使用される。帯下には,烏賊骨・樗根皮など。
(2)利尿通淋作用もあり,熱淋・血淋などに使用される。

[注意点]脾虚や寒証の下痢には禁忌。

ハッカ

薄荷はっか

はっか

[基原]シソ科ハッカの地上部や葉。

[性・味]涼・辛

[帰経]肺・肝

[用法] 2~6g。芳香性であり後下する 。

風熱ふうねつの邪を透散とうさんする。芳香性で軽く浮いて上昇し頭部疾患に多用される。

発散風熱

最も一般的な辛涼解表薬で,風熱を散じる。辛涼解表薬中,発汗解表力は最も強い。風熱表証の熱感・軽度悪寒・咽頭痛・微発汗などに使用される。 原則として実証に使用される。荊芥・金銀花・連翹・牛蒡子などと用いる。〔代表方剤:銀翹散,桑菊飲〕。

清頭目

頭や眼の熱を冷まし明瞭にする。
(1)風熱による頭痛や眼球結膜充血(目赤)などに使用される。桑葉・菊花・ 蔓荊子など。〔代表方剤:薄荷湯〕。
(2)風寒表証の頭痛にも補助的に使用される。川芎・荊芥・白芷などと用いる。〔代表方剤:川芎茶調散 〕

清利咽頭

咽頭の熱を冷まし流暢に呼吸させる。風熱による咽頭の発赤腫脹・疼痛・嗄声などに使用される。牛蒡子・桔梗・荊芥など。〔代表方剤:六味湯〕。

透疹

風熱を散じるとともに熱毒を排出することにより,透疹させる。麻疹の初期や湿疹が出切らないもの,風熱の発疹などに使用される。止痒作用もある。蟬退・牛蒡子・荊芥・葛根などと用いる。〔代表方剤:透疹湯,竹葉柳蒡湯〕。

疏肝解鬱

芳香発散性により気を巡らせて鬱を開く。薬力は弱い。肝気鬱結証に対し補助的に使用される。柴胡・白芍・当帰などと用いる。〔代表方剤:加味逍遙散〕。

[注意点]発汗性が強く,陰虚火旺証や表虚証の自汗には禁忌。

ハトムギ(ヨクイニン)

薏苡仁よくいにん

はとむぎ

[基原]イネ科ハトムギの成熟種子。

[別名]薏米よくべい苡仁いにん

[性・味]微寒・甘・淡

[帰経]脾・胃・肺

[用法]10~30g。丸・散剤に可。食品としても使用可。炒薏苡仁は健脾作用に優れる。

薬性が温和で補益性ほえきせいがあり,各種の作用を有する利水滲湿薬りすいしんしつやく

利湿健脾

湿を除くと同時に脾の機能を高める(健脾)。脾虚証に湿が加わっ た病態(脾虚湿盛)に多用される。作用は茯苓と類似し,標本兼治の薬物といえる。
(1)脾虚湿停の下痢・食欲不振などに使用される。人参・白朮・茯苓・山薬などと用いる。〔代表方剤:参苓白朮散〕
(2)水湿停留による浮腫・下肢の重だるさなどに使用される。冬瓜皮・赤小豆・茯苓などと用いる。
(3)湿熱による淋病や湿盛の白色帯下に使用される。
(4)湿邪が強い湿温病気分証の胸部痞塞感・食欲不振・下痢・身体の重だるさ・白膩苔などに使用される。杏仁・白蔲仁・厚朴などと用いる。〔代表方剤:三仁湯〕

利湿除痺

利湿と同時に筋を緩め(舒筋)関節や筋肉痛を緩和する 。風湿痺証 や筋の痙攣(転筋)に使用される。特に湿邪が強い病態に適する。
①湿が強い風湿痺証には,蒼朮・麻黄などと用いる。〔代表方剤:薏苡仁湯〕
②熱性の痺証には地竜・防已・麻黄・杏仁などと用いる。(麻杏薏甘湯,宣痺湯〕
③湿熱下注による下肢浮腫・重だるさ・筋萎縮・しびれなどには,蒼朮・黄柏・牛膝などと用いる。〔代表方剤:四妙散〕
④寒性の痺証には,麻黄・桂枝などと用いる。

清熱排膿

熱を冷まし膿を排泄する。肺癰・腸癰・皮膚化膿症などに使用される。また生肌作用も有する。
①肺癰の咳嗽・膿性痰には,芦根・冬瓜仁・桃仁などと用いる。〔代表方剤:葦茎湯〕
②腸癰には,牡丹皮・桃仁・敗醬草などと用いる。〔代表方剤:腸癰湯 〕

単味を尋常性疣贅(イボ)に使用する。

 

ハンゲ

半夏はんげ

はんげ

[基原]サトイモ科カラスビシャクの塊茎。

[性・味]温・辛

[帰経]脾・胃・肺

[用法]5~10g。内服には主に製半夏を使用する。外用も可。

化痰かたんの重要薬。天南星てんなんしょうとともによく配合される。治痰の要薬ちたんのようやくといわれ,湿痰しつたんを除去し和胃降逆止嘔わいこうぎゃくしおうする化痰かたんの重要薬。天南星てんなんしょうに比べ体内,特に脾胃の湿痰しつたんをよく除き,かつ止嘔作用を有する。

燥湿化痰

温燥の性質があり,よく化痰しかつ咳嗽を止める 。痰湿による多痰・咳嗽・胸部痞塞感・呼吸困難などに使用される。主に寒性の湿痰に使用するが,炮製や清熱化痰薬との配合で熱痰にも用いられる。
①痰湿による多痰・胸部痞塞感・胸悶感・四肢の重だるさ・賦苔などには,陳皮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:二陳湯〕。
②寒湿による薄い水様性の多量の痰には,細辛・乾姜などと用いる。〔代表方剤:小青竜湯 ,苓甘姜味辛夏仁湯〕。
③脾虚生痰には,人参・白朮・茯苓などと用いる。健脾薬の補助として使用される。〔代表方剤:六君子湯〕。
④痰熱証には,黄芩・知母・瓜萎根・竹筎などと用いる。〔代表方剤:竹筎温胆湯〕。

降逆止嘔

化痰と同時に胃気を降ろし(胃気降逆),悪心・嘔吐を止める。止嘔の重要薬。痰飲による嘔吐,特に顔面蒼白・腹部喜温・淡白舌などの寒性痰飲による嘔吐に適する。また他薬との配合で,各種病態の悪心・嘔吐に使用される。
①生姜と配合し止嘔力を強める。〔代表方剤:小半夏加茯苓湯〕。
②胃寒性の嘔吐には,乾姜・呉茱萸などと用いる。
③胃熱性の嘔吐で黄色吐物・黄膩苔・ロ苦などには,黄連・竹筎などと用いる。〔代表方剤:黄連温胆湯〕。
④胃気虚弱の嘔吐には,人参・白朮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:大半夏湯,六君子湯〕。
⑤胃陰不足の嘔吐で乾嘔・ロ燥感・嘈雑感・舌乾燥紅色・少苔無苔などには,麦門冬・石斛・太子参などと用いる。〔代表方剤:麦門冬湯〕。
⑥痰飲による嘔吐で清水を伴う嘔吐・腹鳴・白滑膩苔などには,茯苓・陳皮・白朮などと用いる。〔代表方剤:二陳湯,小半夏加茯苓湯〕。
⑦妊娠の嘔吐には,蘇梗・砂仁や人参・乾姜などと用いる。〔代表方剤:乾姜人参半夏丸〕。
⑧痰飲が頭部に上昇した(上擾)ための嘔吐・頭痛・めまいなどには,白朮・天麻・茯苓などと用いる。〔代表方剤:半夏白朮天麻湯〕。

消痞散結

化痰と同時に気も巡らせ,痞を除き痰結を散じる。痰と気が結び停滞した胸部胃部の痞塞感・梅核気・癭瘤・痰核などに使用される。厚朴・蘇梗・薄荷などと用いる。〔代表方剤:半夏厚朴湯〕。

消腫止痛

腫脹や腫瘍をやわらげ止痛する。皮膚化膿症・毒蛇の咬傷などに使用される。生半夏や新鮮な半夏の粉末を塗布する。毒性があり主に炮製して使用される。

[注意点]温燥の性質があり,陰虚の乾咳・津液不足による口渇,熱証には禁忌あるいは慎重に使用する。伝統的に烏頭とは相反。

バンランコン

板藍根ばんらんこん

ばんらんこん

[基原]アブラナ科ホソバタイセイなどの根。

[性・味]寒・苦

[帰経]心・胃

[用法]10~15g。散剤も可。

解毒の重要薬。大青葉と同様の薬効だが,解毒力にやや優れ頭部疾患に多用される。

清熱解毒
・涼血利咽

強力な清熱解毒作用を有する 。寒性が強く,よく気血の熱を冷まし斑を消失させる。燥性は弱い。特に熱邪が強い温病気分証,熱邪が営・血分に深入したときに多用される。衛分証にも用いられる。皮膚化膿症・ウイルス性肺炎などもに使用される。大頭痙(顔面丹毒)・耳下腺炎・咽頭炎・扁桃腺炎などの咽頭頭部疾患に多用される。そのほか,温病の気・血・営分証の高熱・煩躁・譫言・発斑・皮下出血などに使用される。
①大頭痙には連随・牛蒡子・玄参・薄荷などと用いる。〔代表方剤:普済消毒飲〕。
②外感風熱証や温病気分証の高熱には,荊芥・金銀花・牛蒡子などと用いる。

 

ビャクジュツ

白朮びゃくじゅつ

びゃくじゅつ

[基原]キク科オオバナオケラの根茎。

[性・味]温・甘・苦

[帰経]脾・胃

[用法]5~15g。通便には多量(~60g)を使用。生白朮は燥湿利水に,炒白朮は補気健脾に,炒焦白朮は健脾止瀉にそれぞれ優れる。

最も一般的かつ重要な補気健脾薬ほきけんぴやく山薬さんやく白扁豆はくへんずとともによく配合される。良好な補気健脾ほきけんぴ作用を有する。補気健脾ほきけんぴの重要薬。白朮びゃくじゅつ山薬さんやく白扁豆はくへんずの三薬中,最も燥湿健脾そうしつけんぴ作用に優れる。

補気健脾

脾胃の気をよく補いその機能を高めてよく補気し,またよく燥湿する。補気健牌の基本的かつ重要薬で,一般的な脾虚証に多用される。
(1)脾虚証の食欲不振・もたれ・胃部脹満感・下痢・倦怠感・顔色不良などに使用される。
①脾虚証には,人参・茯苓・炙甘草などと用いる。[代表方剤:四君子湯,補中益気湯,啓脾湯〕。
②慢性の下痢には,山薬・白扁豆・人参・茯苓・陳皮・薏苡仁・砂仁などと用いる。〔代表方剤:啓脾湯,参苓白朮散〕。
③脾陽虚証で,腹部冷痛・下痢などには,人参・乾姜などと用いる。〔代表方剤:人参湯 〕。
④脾虚食積証のもたれ・心下痞塞脹満感(痛)・食欲不振などには,枳実・焦三仙などと用いる。〔代表方剤:枳朮丸〕。
(2)脾気虚による便秘(虚秘)にも使用される。単味の多量の服用も可。麻子仁・升麻・生地黄・柏子仁などと用いる。

健脾・
燥湿利水

燥性があり,健脾作用により体内停滞の湿・痰飲を除く。
(1)浮腫やめまい・動悸・身体の重だるさ・白色透明痰などの痰飲症に使用される。
①一般的痰飲証には,茯苓・沢瀉・猪苓・車前子などと用いる。〔代表方剤:五苓散,四苓散〕。
②痰飲のめまい・動悸などには,桂枝・茯苓・甘草などと用いる。〔代表方剤:苓桂朮甘湯〕。
③脾腎陽虚による下肢浮腫・重だるさ・下痢・めまいなどには,乾姜・茯苓・甘草・附子などと用いる。〔代表方剤:苓姜朮甘湯,真武湯〕。
④脾虚生痰によるめまい・頭痛などには, 半夏・天麻・茯苓・陳皮などと用いる。〔代表方剤:半夏白朮天麻湯〕。
(2)脾虚証に合併した白色や透明帯下・混濁尿・頻尿などに使用される。脾虚による帯下には,山薬・蒼朮・車前子などと用いる。〔代表方剤:完帯湯〕。
(3)祛風湿薬を配合し寒湿痺証にも使用される。附子・桂枝・羗活・独活・黄耆などと用いる。〔代表方剤:防已黄耆湯〕。

補気止汗

補気健脾作用により固表止汗する。気虚の自汗や陰虚の盗汗などに使用される。単味を服用してもよい。黄耆・浮小麦・防風・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:玉屏風散〕。

補気安胎

補気することで流産を防止する(安胎)。脾虚証や気虚証などの胎動不安に使用される。
①脾腎両虚証には,杜仲・桑寄生・阿膠・続断などと用いる。
②気虚有熱には,黄芩などと用いる。〔代表方剤:安胎丸〕。

[注意点]燥湿作用があり傷陰しやすい。そのため,陰虚内熱証や陰虚証には使用しない。

ビャクゴウ

百合びゃくごう

びゃくごう

[基原]ユリ科ユリなどの鱗茎の鱗片。

[性・味]微寒・甘・微苦

[帰経]心・肺

[用法]10~30g。食用も可。

安神あんじん作用を有する滋陰潤肺止咳薬じいんじゅんぱいしがいやく

養陰潤肺・
止咳

肺陰を滋養し肺気を降ろし,肺熱を冷まして止咳する 。肺陰虚証や陰虚内熱による慢性咳嗽(肺癆咳嗽)に多用される。乾咳・粘性少痰や無痰・喀血,乾燥舌・少苔無苔などの症状に用いられる。
①肺癆咳嗽には,生地黄・玄参・貝母・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:百合固金湯〕。
②慢性肺熱証には,款冬花・貝母・天花粉などと用いる。〔代表方剤:辛夷清肺湯,百花膏〕。

清心安神

心を潤し熱を除き,心神を安定させる 。熱病後期の余熱や心陰虚内熱などによる心神不安証の,不眠多夢・動悸・虚熱煩躁・焦燥不安感・異常行動・精神不安などに使用される。知母・生地黄・酸棗仁などと用いる。〔代表方剤:百合地黄湯,百合知母湯〕。

[注意点]寒証の下痢には禁忌。