薬草辞典-は行

ビワヨウ

枇杷葉びわよう

びわよう

[基原]バラ科ビワの葉。

[性・味]微寒・苦・辛

[帰経]肺・胃

[用法]5~10g。蜜炙枇杷葉は止咳に,生姜汁で炙ると止嘔作用に優れる。

寒性かんせい止咳降気薬しがいこうきやく。肺と胃の熱を冷まし降ろす。桑白皮そうはくひに比べ降気作用に優れ,肺熱はいねつ肺燥はいそうの咳嗽に多用される。

清肺止嗽

降気作用に優れ,肺熱を冷まし肺気を降ろすことで止咳し呼吸困難を静める(平喘)。風熱や燥熱の粘稠黄色痰・黄色少痰,黄膩苔などに多用される。
①肺熱咳嗽には,黄芩・山梔子・桑白皮などと用いる。〔代表方剤:枇杷清肺飲,辛夷清肺湯〕。
②燥熱咳嗽には,桑葉・麦門冬・阿膠・百部などと用いる。〔代表方剤:清燥救肺湯〕。

清胃止嘔

胃熱を冷まし,胃気の上逆を抑える 。
(1) 胃熱の悪心・嘔吐・吃逆・ロ渇などに使用される 。
①嘔吐には,橘皮・竹筎・半夏などと用いる。
②吃逆には橘皮・甘草などと用いる。〔代表方剤:枇杷葉湯〕。
(2)歯齦炎や口内炎に使用される。地黄・石斛・麦門冬・黄芩などと用いる。〔代表方剤:甘露飲〕

[注意点]寒性の咳嗽,胃寒性の嘔吐には使用しない。

ビンロウジ

檳榔子びんろうじ

びんろうじ

[基原]ヤシ科ビンロウの成熟種子。

[別名]大腹子だいふくし海南子かいなんし

[性・味]温・辛・苦

[帰経]胃・大腸

[用法]6~15g。条虫・姜片虫治療には多量(60~90g)を使用する。

行気こうきし凝固した痰湿たんしつ(有形の痰)を除き,優れた消食しょうしょく作用を有する駆虫薬くちゅうやく大腹皮だいふくひに比べ行気力こうきりょく化痰力かたんりょくに優れる。

駆虫

条虫・姜片虫・蛔虫・蟯虫などの広範囲な寄生虫に使用される 。特に条虫・姜片虫に適する。単味粉末の服用も可。
①条虫には南瓜子などと用いる。
②蛔虫には苦戀棟皮など。
③蟯虫には百部とともに煎液を注腸する。

行気消積

よく気を巡らせ消化を促進し,痰湿の停滞を除く。軽度の瀉下作用もある。大腹皮と同様に,気と湿の停滞による病態に使用される。
(1)食積気滞や湿滞などの腹部脹満痛(感)・脹満を伴う便秘・残便感を伴う下痢・裏急後重・噯気・呑酸などに使用される。木香・枳実・青皮・山楂子などと用いる。〔代表方剤:木香檳榔丸〕。
(2)湿熱証の下痢・裏急後重などにも使用される。木香・黄連・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:芍薬湯〕。

利水化湿

凝固した痰湿を除き,利尿を図る。実証の浮腫や寒湿証による脚気・ 下肢浮腫・下肢腫脹疼痛などに使用される。
①寒湿証には木瓜・呉茱萸・桂枝・木香などと用いる。〔代表方剤:九味檳榔湯,鶏鳴散〕。
②実証の浮腫には,商陸・沢瀉・茯苓皮・木通などと用いる。〔代表方剤:疏鑿飲子)。

截瘧作用もあり,瘧疾に使用される。常山・草果などと用いる。〔代表方剤:截瘧七宝飲〕。

[注意点]大腹皮と同様に,気を消耗しやすいので気虚証には禁忌。脾虚証の下痢には使用しない。

 

ブクリョウ

茯苓ぶくりょう

ぶくりょう

[基原]サルノコシカケ科マツホドの菌核。

[性・味]平・甘・淡

[帰経]心・脾・腎

[用法]10~15g。朱茯苓(朱砂で撹拌)は安神作用に優れる。

健脾けんぴ作用を有する薬性温和で広範囲に使用可能な利湿りしつの重要薬 。利尿力は茯苓・猪苓・沢瀉の三薬中で一番弱い 。

利水滲湿

体内の水湿や痰飲を利水により取り除く。利水するも正気を損傷せず,体表・体内を問わず痰・湿・飲のいずれの病態にも使用される。また平性で虚・実・寒・熱各証に使用可能。健脾作用があり,特に脾虚のため湿を生じた病態(脾虚生湿)によく適する。水湿や痰飲停留の実証のほか,虚証にも使用される。
(1)水湿停留による小便不利・浮腫・腹水・下肢の重だるさ,中焦の湿による下痢に使用される。膀胱気化不利には猪苓・沢瀉・桂枝・蒼朮・白朮などと用いる。〔代表方剤:五苓散〕。
(2)痰飲の頭部上擾によるめまい・頭重感などに使用される。天麻・白朮・猪苓・沢瀉・半夏などと用いる。〔代表方剤:半夏白朮天麻湯〕。
(3)気虚証の病症にも使用される。防已・黄者などと用いる。
(4)腎陽虚証の下肢の浮腫 ・重だるさなどに使用される。附子・桂枝・乾姜などと用いる。〔代表方剤:苓姜朮甘湯〕。
(5)胃内痰飲停滞の水様性吐物・嘔吐・上腹部脹満感など。白朮・桂枝・半夏などと用いる。〔代表方剤:小半夏加茯苓湯,茯苓飲〕。
(6)肺内停滞の多痰・咳嗽など。半夏・陳皮・杏仁などと用いる。〔代表方剤:苓甘姜味辛夏仁湯〕。
(7)下焦湿熱による淋病や,下焦内湿による帯下にも使用可能。
(8)清熱利湿薬などの配合で湿熱の黄疸・熱淋・熱性痰にも使用可能となる。

健脾利湿

湿の除去と同時に脾の機能を高める(健脾)。脾虚証に湿が加わった 病態(脾虚湿盛)に多用される。標本兼治薬といえるが,健脾作用はあまり強くなく,他の健脾薬の補助として使用される。下痢・食欲不振・腹鳴・倦怠感などの症状に使用される。人参・白朮・陳皮・半夏・縮砂などと用いる。〔代表方剤:四君子湯,六君子湯,啓脾湯,参苓白朮散〕。

安神

心神を安定させる。脾虚や痰飲による心神不安の動悸・不眠・不安感などに使用される。
①心脾両虚証には,党参・酸棗仁・竜眼肉・当帰などと用いる。〔代表方剤:酸棗仁湯 ,帰牌湯〕。
②痰飲には,菖蒲・遠志・竜骨などと用いる。〔代表方剤:安神定志丸〕

 

ブシ

附子ぶし

ぶし

[基原]キンポウゲ科カラトリカブトの子根。

[性・味]大熱・大辛

[帰経]腎・心・脾

[用法]3~15g。一般には,炮製した附子(炮附子)を使用する。生附子や炮附子を多量に使用するときには,先煎(30~60分)により毒性を軽減する 。

陽気ようきを温め鼓舞する。温裏おんりの重要薬。烏頭うず肉桂にっけいとよく同時に使用される。全身の陽気ようき温補おんぽする。回陽救逆かいようきゅうぎゃくや各種陽虚証ようきょしょう,寒性疼痛の重要治療薬。

回陽救逆

心陽を助けて脈をよく通じ(通脈),腎陽を温め補うこと(益火)で喪失しつつある元陽の力を挽回する。亡陽証の重要薬。四肢厥冷・冷汗・微呼吸・顔面蒼白・脈微などの亡陽証に使用される。
①乾姜・甘草などと用いる。〔代表方剤:四逆湯〕。
②陽虚気脱の微呼吸・出血などには人参などと用いる。〔代表方剤:参附湯〕。
③過度の多汗のため,汗とともに気が流失するときには,黄耆・竜骨・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:耆附湯〕

温陽

よく陽気を温め補い高める。特に腎陽,次いで心陽をよく補う。各種の陽虚証に使用される。また虚喘などにも使用される。
(1)腎陽虚の下肢や四肢冷感・腰部下肢の脱力感や疼痛・頻尿・夜間尿・陽萎・遺精,淡白苔・脈細遅などに多用される。肉桂・山茱萸・熟地黄・枸杞子などと用いる。〔代表方剤:八味丸,牛車腎気丸,右帰丸,右帰飲〕。
(2)心陽虚証の動悸・呼吸困難・胸痺心痛・紫色唇などに使用される。人参・桂枝などと用いる。
(3)脾陽虚証の腹部冷痛・嘔吐・下痢などに使用される。人参・白朮・乾姜などと用いる。〔代表方剤:附子理中丸〕。
(4)腎脾陽虚証の浮腫・下痢などに使用される。肉桂・茯苓・白朮・乾姜などと用いる。〔代表方剤:真武湯,実脾飲〕。
(5)陽虚外感で悪寒・沈脈などに使用される。麻黄・細辛などと用いる。〔代表方剤:麻黄附子細辛湯〕。
(6)陽虚の自汗に使用される。黄耆・桂枝などと用いる。

散寒止痛

経絡を温め寒を除き止痛する。特に寒湿除去作用に優れる。寒湿による痺証に多用される。桂枝・白朮など。〔代表方剤:桂枝加朮附湯,甘草附子湯〕。

[注意点]毒性があり中毒に注意する。陰虚火旺・真熱仮寒などには禁忌。

ブッシュカン

仏手柑ぶっしゅかん

ぶっしゅかん

[基原]ミカン科ブッシュカンの成熟果実。

[別名]仏手ぶしゅ

[性・味]温・辛・苦

[帰経]肝・脾・肺

[用法]5~10g。

香櫞こうえんに比べ行気力こうきりょく化痰力かたんりょくは弱いが,薬性は温和で脾胃ひいをよく調理する。

行気止痛

脾・胃・肝の気(特に脾胃)を巡らせ止痛する。だが止痛力は強くない。 芳香性で薬性は温和,肝胃気滞証の軽症に多用される。肝胃不和による上腹部脹満感(痛)・噯気・悪心・嘔吐・食欲不振などに使用される。そのほか,脾胃気滞証・肝気鬱結証などにも用いられる。蘇梗・陳皮・香附子・木香・枳実などと用いる。

行気化痰

行気により痰を除く。慢性痰湿阻肺の多痰・咳嗽・胸部痞塞感・胸痛・呼吸困難などに使用される。感冒初期にはあまり使用されない。枇杷葉・鬱金などと用いる。

裏急後重を伴う下痢にも使用される。

[注意点]陰虚火旺には慎重に使用する。

 

ベニバナ(コウカ)

紅花べにばな

べにばな

[基原]キク科ベニバナの管状花。

[性・味]温・辛

[帰経]心・肝

[用法]3~10g。活血通経として使用時,酒を加えて煎じてもよい。

広範囲に使用される活血祛瘀かっけつきょおの重要常用薬。桃仁とともによく配合される。養血ようけつ作用も有し通経つうけい作用に優れる活血薬かっけつやく桃仁とうにんに比べ,通絡つうらく作用に優れ外傷打撲・風湿痺証ふうしつひしょう・皮膚湿疹などの外表四肢の疾患に多用される。温性おんせいであり寒性瘀血証かんせいおけつしょうにより適する。

活血通経

活血すると同時に経絡の流通を良好にし,月経調整作用(調経)を有する。また軽度の補血作用もある。瘀血証の常用薬。
(1) 月経痛・閉経・産後腹痛・瘀血腹痛・外傷打撲・腫瘍(癥瘕積聚)・風湿痺証などの関節痛など各種の瘀血証に使用される。特に月経痛・閉経など婦人科疾患に多用される。
①月経痛・閉経などには,桃仁・当帰・川芎・紅花など。 〔代表方剤:通導散,桃紅四物湯,血府逐瘀湯〕。
②産後瘀血腹痛には,蒲黄・当帰・牡丹皮などと用いる。〔代表方剤:紅花散〕。
③癥瘕積聚には,桃仁・三稜・莪朮・枳殻などと用いる。〔代表方剤:隔下逐瘀湯〕。
④難産や胎児死亡の排泄不全には,川芎・当帰・牛膝などと用いる。〔代表方剤:脱紅煎〕。
⑤外傷打撲には,桃仁・当帰 ・穿山甲・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:復元活血湯〕。
⑥慢性の風湿痺証には,桃仁・川芎・秦艽・羗活などと用いる。〔代表方剤:身痛逐瘀湯〕。
(2)血熱瘀血による赤褐色などの湿疹や皮膚斑・皮膚化膿症に使用される。当帰・紫草・大青草などと用いる。〔代表方剤:治頭瘡一方, 当帰紅花飲〕。

祛瘀止痛

活血することで止痛する 。瘀血による外傷打撲・胸痛(狭心症など)・風湿痺証の関節痛など各種疼痛に使用される。
①外傷打撲には当帰・穿山甲・赤芍薬・蘇木・乳香などと用いる。紅花油を塗布してもよい。〔代表方剤:七厘散〕。
②胸痛には,桂枝・栝楼仁・丹参などと用いる。〔代表方剤:冠元Ⅱ号〕。

[注意点]過多月経には禁忌。

 

ボウイ

防已ぼうい

ぼうい

[基原]ツヅラフジ科シマハスノハカズラの根。

[性・味]寒・苦・辛

[帰経]膀胱

[用法]5~10g。

寒性かんせい祛風湿止痛薬きょふうしつしつうやく祛湿きょしつ作用に優れ,浮腫・風湿熱痺証ふうしつねつひしょうの重要薬。よく下部に作用する。豨蘞草きれんそうに比べ祛湿きょしつ作用に優れる。

祛風湿

祛湿作用に優れ,祛風止痛作用を有し,身体下部によく作用する。
(1)寒性であり,湿がより強い風湿熱痺証や下肢の痺証症状に多用される。風湿熱痺証の関節の熱感・発赤・腫脹・疼痛,舌質紅色・黄脈苔などに使用される。そのほか,四肢の重だるさ・運動障害などにも用いられる。滑石・薏苡仁・蚕沙・知母などと用いる。〔代表方剤:宣痺湯〕。
(2)温経止痛薬を配合することで寒湿痺証にも使用される。肉桂・附子・生姜・黄者などと用いる。 〔代表方剤:防巳黄者湯,疎経活血湯,防已湯〕。

利水消腫

下行性があり,水分を除き熱を冷ます。湿熱の浮腫・腹水・肺内水腫・関節水腫などに使用される。特に下肢の浮腫によく適する。虚・実,寒・熱 の各証に使用可能。
①腹水・ニ便不利・ロ渇などには葶藶子・大黄などと用いる。〔代表方剤:已椒藶黄丸〕。
②表虚証を伴う下肢浮腫•関節腫脹疼痛・下肢の重だるさ・自汗・悪風などには,黄者・茯苓・白朮・桂枝などと用いる。〔代表方剤:防已黄蓍湯 ,防已茯苓湯〕。
③肺内水腫の呼吸困難には,茯苓・桂枝などと用いる。〔代表方剤:木防已湯 , 木防已加茯苓芒硝湯〕。
④脚気の下肢浮腫には,呉茱萸・檳榔子・木瓜などと用いる。

[注意点]苦寒性が比較的強く,多量の使用で胃を損傷するおそれがある。そのため,多量には使用しない。また脾胃虚証,無湿熱証,陰虚証には禁忌。