薬草辞典-は行

ボウコン

茅根ぼうこん

ぼうこん

[基原]イネ科チガヤの根茎。

[別名]白茅根はくぼうこん

[性・味]寒・甘

[帰経]肺・胃・膀胱

[用法]15~30g。薬効は新鮮品が優れる(30~60g)。

利尿作用と生津せいしん作用を有する涼血止血薬りょうけつしけつやく。利水するも津液しんえきを消耗せず,熱証ねつしょう津液不足しんえきふそくを伴う証に適する 。

涼血止血

血熱妄行による各種の出血証に使用される。
(1)胃と肺の熱をよく冷まし,胃熱の吐血・肺熱の喀血・血便などの肺や胃の出血症に多用される。鼻出血にも使用される。また生津作用もあり虚証の熱性出血証にも用いられる。
(2)清熱利尿作用を有し,血尿や血淋にも多用される。単味使用も可。
①大薊・ 側柏葉・山梔子などと用いる。〔代表方剤:十灰散〕。
②虚熱血尿には,人参・乾地黄・茯苓などと用いる。〔代表方剤:茅根飲子〕。

清熱利尿

熱を冷まし利尿し,熱を尿より排泄する。生津作用もあり,陰液消耗(傷陰)の弊害が少ない。熱淋などの排尿痛・小便不利や浮腫・湿熱黄疸などに使用される。熱淋には,木通・冬葵子・石葦・車前子などと用いる。〔代表方剤:茅根飲子〕。

清肺胃熱
・生津

肺胃の鬱熱を除くとともに津液を蘇らせる。寒性だが胃腸障害は少ない。熱病後期の陰液不足による口渇,胃熱による悪心・嘔吐・吃逆,肺熱の咳嗽・乾咳・呼吸困難などに使用される。
①熱病後期には,芦根・生地黄・知母などと用いる。
②胃熱には葛根などと用いる。
③肺熱には桑白皮・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:如神湯〕。

[注意点]脾胃虚寒証にば慎重に使用する。

ボウフウ

防風ぼうふう

ぼうふう

[基原]セリ科ボウフウの根茎。

[性・味]温・辛・甘

[帰経]膀胱・肝・脾

[用法]13 ~10g。生防風は解表や止痛に,炒防風は腹痛や止瀉に優れる。

全身を巡り,風邪による緒証を緩和する。祛風きょふうの重要薬。

祛風

強い祛風作用を有し,風邪による広範囲の疾患に使用される。祛風薬の多くは温性・燥性であるのに対し,微温でかつ燥性は弱い。これより“風薬中の潤薬”とも呼ばれる。寒熱両証に使用可能。

(1)祛風解表:風邪を発散し解表する。発汗力は弱い。
①風寒表証で特に頭痛や身体痛が強いときによく使用される。荊芥・羗活 ・白正・紫蘇葉などと用いる。〔代表方剤:荊防敗毒散〕。
②温性が弱く薬性が穏やかなところより,風熱表証にも使用される。荊芥・黄芩・連翹・薄荷など用いる。
③表虚証による易感冒症・自汗などに使用され る。黄者・白朮などと用いる。〔玉屏風散〕。
(2)祛風止痛:
①風寒湿痺証の筋肉関節痛・しびれなどに使用される。特に風邪が強い証に用いられる。羗活・独活・桂枝・蒼朮・威霊仙などと用いる。〔代表方剤:蠲痺湯,防風通聖散,疏経活血湯〕。
②局所の熱感・発赤などがある寒熱錯雑証や熱証の痺証にも使用される。石膏・知母などと用いる。〔代表方剤:桂芍知母湯,当帰拈痛湯〕。
③風寒証の頭痛や止痛に使用される。川芎・白芷 ・差活など。〔川芎茶調散,立効散 〕。
(3)祛風止痙:祛風により,筋を緩め痙攣を緩和する。止痙力は弱く,補助薬として使用される。破傷風などの牙関緊張・痙攣・角弓反張などに使用される。天南星・白附子・白僵蚕 ・天麻などと用いる。〔代表方剤:玉真散〕。
(4)祛風止痒:祛風により瘙痒感を緩和する。風熱の発疹や皮膚瘙痒症に使用 される。荊芥・薄荷・連翹・山梔子などと用いる。〔代表方剤:消風散,治頭字蒼一方,清上防風湯〕。

止瀉

肝牌不和の下痢や腹痛に使用される。白芍・白朮・陳皮などと用いる。〔痛瀉要方〕。

[注意点]陰虚火旺,血虚には使用しない。日本で使用されている浜防風とは,作用が異なるので注意が必要。

ホオウ

蒲黄ほおう

ほおう

[基原]ガマ科ヒメガマなどの成熟花粉。

[性・味]平・甘

[帰経]肝・心包

[用法]5 ~10g。包煎。冲服・外用も可。炒蒲黄は止血に,生蒲黄は化瘀止血に優れる。

活血止痛かっけつしつう・利尿作用を有する収斂しゅうれん止血薬。

化瘀止血

よく収斂止血し,よく血を巡らせる。そのため,止血しても血を停滞させない。
(1)寒熱,瘀血証の有無にかかわらず各種の出血症に使用可能。喀血・鼻出血・吐血・血尿・血便・性器出血(崩漏)・外傷性出血などに使用される。単味の冲服も可。
①血熱性出血には,生地黄・大薊・小薊などと用いる。
②虚寒性出血には,炮姜・艾葉・鹿茸・当帰などと用いる。〔代表方剤:蒲黄散〕
(2)利尿通淋作用があり,排尿痛がある血淋などに使用される。小薊・生地黄・冬葵子・欝金などと用いる。〔代表方剤:蒲黄散〕

化瘀止痛

瘀血を除き止痛する。寒熱両証に使用可能。瘀血証による胸痛・腹痛・月経痛・産後の疼痛などに使用される。
①五霊脂などと用いる。〔代表方剤:失笑散〕
②寒性瘀血には,肉桂・炮姜・熟地黄・当帰などと用いる。〔代表方剤:黒神散〕
③熱性瘀血には,牡丹皮・延胡索・生地黄などと用いる。〔代表方剤:蒲黄散〕

[注意点]子宮収縮作用があり妊婦には禁忌。

ホコウエイ

蒲公英ほこうえい

ほこうえい

[基原]キク科モウコタンポポなどの全草。

[性・味]寒・苦・甘

[帰経]肝・胃

[用法]10~30g。外用も可。

瘡瘍の重要薬。紫花地丁とともに配合される。紫花地丁しかじちょうに比べようの治療に優れ,をよく巡らせて散結さんけつする。また清熱利尿せねつりにょう作用を有す。

清熱解毒・
消癰散結

瘡瘍の熱毒を冷まし取り除き,化膿を治癒させ(消癰),腫脹硬結を散じる(散結)。皮膚化膿症・乳癰(乳腺炎)・腸癰(虫垂炎など)・丹毒などに使用される。
①乳癰には,栝楼仁・天花粉・青皮・金銀花・穿山甲・牛蒡子などと用いる。〔代表方剤:栝楼牛蒡湯〕。
②皮膚化膿症には,金銀花・野菊花などと用いる。〔代表方剤:五味消毒飲〕。
③肺癰には,魚腥草・芦根・冬瓜仁などと用いる。

特に癰の治療に優れ,乳癰の腫脹・疼痛・乳汁分泌不利などに多用される。乳癰には外用も可。そのほか,咽頭発赤腫脹などにも使用される。咽頭発赤腫脹には,板藍根・玄参などと用いる。

清肝明目

肝火を冷まし(清肝),視力を明瞭にする(明目)。肝火上炎による眼球結膜充血・眼痛などに使用される。菊花・夏枯草・黄芩などと用いる。〔代表方剤:蒲公英湯〕。

清熱利尿

湿熱を冷まし利尿する。熱淋の排尿痛・排尿困難,湿熱黄疸,下痢,下血などに使用される。
①黄疸には菌蔯蒿・柴胡・山梔子などと用いる。
②熱淋には,金銭草・茅根・車前子などと用いる。

清胃止痛

食積化熱の胃痛に使用される。

[注意点]多量の使用で下痢となることもある。

ボタンピ

牡丹皮ぼたんぴ

ぼたんぴ

[基原]ボタン科ボタンの根皮。

[別名]丹皮たんぴ

[性・味]寒・苦・辛

[帰経]心・肝・腎

[用法]5~10g。生牡丹皮は清熱涼血,炒炭牡丹皮は止血,酒炒牡丹皮は活血にそれぞれ優れる。

活血かっけつ作用も兼ねる清熱涼血薬せいねつりょうけつやく血熱瘀血証けつねつおけつしょうの常用薬。赤芍薬せきしゃくやくとよく同時に配合される。赤芍薬せきしゃくやくに比べ清熱涼血せいねつりょうけつ作用に優れる。清虚熱せいきょねつ作用もあり,虚証実証きょしょうじつしょうともに使用可。

清熱涼血

1)血熱を冷まし,よく活血し,血熱の妄行を防ぐ。赤芍薬に比べ血熱をよく冷ます。以下の温病や雑病の血熱証に使用される。
(1)温熱病の営分血分証で,夜間の高熱・発疹発斑・絳色舌などに使用される。赤芍薬・生地黄・玄参・連翹などと用いる。
(2)血熱妄行による吐血・鼻出血などに使用される。犀角・生地黄・白芍薬・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:犀角地黄湯〕。
(3)血熱による月経先期・月経前の発熱・倒経などに使用される。白芍・黄芩・柴胡などと用いる。〔代表方剤:宣鬱通経湯〕。
2)虚熱を冷ます作用もあり,陰虚内熱や温熱病後期の陰分伏熱の夜間発熱・無汗の骨蒸潮熱などに使用される。知母・生地黄・鼈甲などと用いる。〔代表方剤:青蒿鼈甲湯,知柏地黄丸,清骨飲〕。

活血化瘀

活血して瘀血を除き血熱を冷ます。以下の熱性瘀血証に使用される。 特に血と熱がより結びついた状態(血熱凝結)に多用される。
(1)瘀血の閉経(無月経)・月経痛・腹部腫瘍(癥・積)などに使用される。桃仁・川芎・当帰・乳香・紅花・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:桂枝茯苓丸,膈下逐瘀湯〕。
(2)外傷打撲や瘀血の腫脹疼痛に使用される。没薬・乳香・赤芍薬・紅花などと用いる。 〔代表方剤:折衝飲〕。
(3)痰熱による腸癰に使用される。大黄・桃仁・冬瓜仁などと用いる。〔代表方剤:大黄牡丹皮湯,腸癰湯〕。
(4)皮膚化膿症に使用される。金銀花・連翹・白芷などと用いる。

清肝瀉火

肝火を冷ます。肝鬱化火や虚実錯雑証の肝陽上亢などの眼球眼瞼充血・眼痛・熱感頭痛・ほてり感などに使用される。山梔子・柴胡・白芍などと用いる。〔代表方剤:加味逍遙散〕。

[注意点]血虚有寒証や過多月経には慎重に使用する。

ボレイ

牡蛎ぼれい

ぼれい

[基原]イタボガキ科マガキの貝殻。

[性・味]微寒・鹹・澁

[帰経]肝・腎

[用法]15~30g。砕いて先煎。生牡蛎は平肝潜陽安神作用に,煅牡蛎は収斂固澁と制酸作用に優れる。

安神あんじん散結さんけつ固澁こじゅう作用をも有する平肝潜陽薬へいかんせんようやく平肝潜陽へいかんせんよう石決明せっけつめいに次いで強い。

平肝潜陽・
安神


平肝潜陽とともに心神を安定させる作用を有する。動悸・不眠・煩躁不安などの心神不安を伴う肝陽上亢証に多用される。
①肝血虚や肝腸上亢による頭痛・めまい・動悸・不眠などには,竜骨・白芍・酸棗仁などと用いる。〔代表方剤:桂枝加竜骨牡蛎湯,柴胡桂枝乾姜湯〕。
②肝陰虚による肝風内動の痙攣・めまいなどには,亀板・鼈甲・白芍・代赭石・牛膝などと用いる。〔代表方剤:三甲復脈湯,鎮肝熄風湯〕。
③心神不安による煩躁不安・動悸・狂などには,竜骨・磁石・柴胡などと用いる。〔代表方剤:柴胡加竜骨牡蛎湯〕。

軟堅散結

結実を軟らかくし散じる。痰核・腫瘍・瘰癧・癭瘤などに使用される。微寒性のため痰火鬱結の病態に適する。
①瘰癧には玄参・浙貝母などと用いる。〔代表方剤:消痺丸〕。
②肝肥大には,鼈甲・丹参・沢蘭・乳香・没薬などと用いる。

収斂固澁

固澁作用があり,自汗・盗汗・遺精・帯下・性器出血(崩漏)・慢性下痢などに使用される。
①自汗・盗汗には,黄耆・麻黄根・小麦などと用いる。 〔代表方剤:牡蛎散〕。
②腎虚の遺精・失禁・腰痛・下半身の倦怠感などには,芡実・蓮須・ 沙苑疾藜などと用いる。〔代表方剤:金鎖固精丸〕。
③帯下・性器出血などには,竜骨・烏賊骨・山薬などと用いる。

制酸

制酸作用や止痛止血作用があり,胃酸過多の胃痛・胸やけ・呑酸・吐血 などに使用される。煅牡蛎がよく使用される。〔代表方剤:安中散〕。

[注意点]収斂作用があるため,湿熱の実証には禁忌。また脾虚証に使用すると下痢や胃痛などを起こすことがある。