薬草辞典-か行

ガイヨウ

艾葉がいよう

がいよう

[基原]キク科ヨモギなどの若い全草や葉。

[性・味]温・苦・辛

[帰経]肝・脾・腎

[用法]3~10g。外用も可。生艾葉は温経止痛,炒炭文葉は温経止血に優れる。咳嗽に使用するときは後下がよい。

下焦虚寒証げしょうきょかんしょうによる出血や疼痛を除く重要薬。

温経止血・
調経安胎


経絡を温めるとともに止血する 。また月経調整作用,安胎作用もある。特に下焦をよく温め下焦の虚寒症に多用される。
(1) 性器出血(崩漏)・過多月経・妊娠時不正出血などに多用される。熟地黄・阿膠・当帰などと用いる。〔代表方剤:芎帰膠艾湯〕。
(2)中焦虚寒の吐血などに使用される 。乾姜・側柏葉などと用いる。 〔代表方剤:柏葉湯〕 。
(3) 血熱妄行の吐血・鼻出血などに,反佐薬として使用される。鮮文葉・鮮地黄・鮮側柏葉などと用いる。〔代表方剤:四生丸〕。

散寒止痛

経絡・子宮を温め寒湿を除き止痛する。下焦虚寒性の腹痛 ・月経痛・白色や透明の帯下・月経不順・不妊などに多用される。単味の服用や熱した艾葉で局所を温めてもよい。
①下焦の虚寒には,香附子・肉桂・当帰・黄耆・続断 などと用いる。〔代表方剤:艾附暖宮丸)。
②脾胃虚寒の腹痛・下痢には,生姜・陳皮・呉茱萸・香附子などと用いる。〔代表方剤:艾姜丸〕。

除湿止痒・
平喘

温燥性であり,寒湿を除く。
(1)皮膚湿疹や瘙痒に使用される。煎薬で外洗する。地膚子・白癬皮などと用いる。
(2)肺中の寒痰を除く。寒性の透明多痰・咳嗽・呼吸困難などに使用される。

[注意点]温燥性であり,陰虚血熱証には慎重に使用する 。

カゴソウ

夏枯草かごそう

かごそう

[基原]シソ科ウツボグサの花穂

[性・味]寒・苦・辛

[帰経]肝・胆

[用法]10~15g。膏剤,外用も可。

肝火かんかを冷まし明目めいもくし,結実けつじつを散じる。山梔子や竜胆の二薬に比べ,清肝火作用は弱いが肝陰不足にも使用可能。さらに消痰散結しょうたんさんけつ作用を有する。

清肝火・明目

肝火を冷まし,引き降ろす。また頭部や眼部をすっきりと明瞭にさせる(清頭目)。

(1) 肝火上炎や肝陰虚による肝陽上亢の頭痛・眼球結膜充血・眼痛・めまいなどに使用される。
①菊花・決明子・黄芩・石決明・柴胡などと用いる。〔代表方剤:竜胆瀉肝湯〕。
②肝陰虚証には当帰・生地黄・白芍薬などと用いる。
(2) 肝火による眼球結膜充血・羞明・流涙,肝陰虚による夜間や苦寒薬で増悪する眼球(目珠)の疼痛に使用される。菊花・枸杞子・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:補血散〕。

消痰散結

痰火が鬱して生じた瘰癧・癭瘤・乳腺炎や乳腺腫・結実した皮膚化膿症・耳下腺腫〔痄腮〈ささい〉〕などに使用される。昆布・海藻・貝母・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:夏枯草膏〕。

カシュウ

何首烏かしゅう

かしゅう

[基原]タデ科ツルドクダミの塊根。

[性・味]微温・甘・苦・澁

[帰経]肝・腎

[用法]10~20g。飲用・軟膏・酒剤・丸・散剤にも使用可。製何首烏は養血滋陰作用に,生何首烏は潤腸通便・截瘧解毒作用に優れる。

燥性そうせい粘膩性ねんじせいが弱い温和な補血薬ほけつやく

養血滋陰

陰血をよく補う。温性と燥性は弱く,熟地黄のような粘膩性も少なく,薬性の温和な補血薬。
(1)血虚証によるめまい・動悸・不眠などに使用される。当帰・白芍薬・熟地黄・川芎などと用いる。
(2)肝腎陰虚証による腰痛・腰下肢脱力感・耳鳴・遺精・月経不調などに使用さる。特に白髪に有効とされる。熟地黄・女貞子・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:首烏延寿丹〕。

潤腸通便

腸を潤し気を降ろして排便を促進する。血虚や腸燥の便秘に使用される。当帰・麻子仁などと用いる。

截瘧・解毒・
止痒

(1)気血両虚証や陰虚証の慢性の瘧疾に使用される。人参・当帰・生姜・青蒿などと用いる。〔代表方剤:何人飲〕。
(2) 慢性化した陰虚証の皮膚化賑症・瘰癧などに使用される。
(3) 補血することで風湿邪を去り止痒する。血虚証の皮膚瘙痒症・湿疹などに使用される。荊芥・防風・苦参・金銀花・蒺藜子などと用いる。〔代表方剤:当帰飲子,何首烏散〕。

近年では,高脂血症・動脈硬化症・高血圧などにも応用されている。

[注意点]下痢や強い痰湿証には使用しない。

ガジュツ

莪朮がじゅつ

がじゅつ

[基原]ショウガ科ガジュツの根茎。

[別名]蓬莪朮ほうがじゅつ

[性・味]温・辛・苦

[帰経]肝・脾

[用法]3~10g。醋炒莪朮は破血作用に,生莪朮は行気止痛作用に優れる。作用が強く,正気の損傷を防ぐために益気補血薬を配合すべきである。

破血行気止痛はけつこうきしつう作用と消腫作用を有する活血薬かっけつやく三稜さんりょうと薬効が類似し,よくともに配合される。温性で,“気中きちゅうけつを治す《本草網目ほんぞうこうもく》”といわれ,三稜さんりょうに比べ行気力こうきりょくに優れ良好な止痛消積しつうしょうせき作用を有する。

破血行気

気血を巡らせ瘀血を除き,腫塊や結実を散じ,止痛する。強い活血作用(破血)を有し,同時に良好な行気作用を有する。気滞瘀血による腹部腫瘍(癥瘕・積聚)・肝腫大・季肋部痛・腹痛・閉経などに使用される。特に有形で実体のある腫瘍(癥・積)に多用される。近年では子宮外妊娠の血腫にも使用される。
①癥瘕積聚・閉経には,牛膝・延胡索・川芎・鬱金などと用いる。〔代表方剤:三稜丸,三楂煎丸〕。
②虚証の瘀血には,人参・黄者・当帰などと用いる。
③子宮外妊娠に,丹参・乳香・没薬・当帰などと用いる。〔代表方剤:宮外孕方〕。

行気消積

気を巡らせ鬱滞を除き止痛する。気をよく巡らせ食積をよく緩和する。気滞が強い食積などによる腹部脹満痛 (感)・腹部痞塞悶絶感・曖気・呑酸・厚苔などに使用される。
①食積気滞には,青皮・麦芽・檳榔子・山楂子などと用いる。〔代表方剤:三稜煎,木香檳榔丸〕。
②脾胃虚証の食積には,人参・白朮などと用いる。

[注意点]月経過多・妊婦には禁忌。

カッセキ

滑石かっせき

かっせき

[基原]正品は天然の含水ケイ酸アルミニウムおよび二酸化ケイ素からなる粘土物質(加水ハロサイト・軟滑石)とされる 。中国では天然の含水ケイ酸マグネシウムである鉱物学上の滑石(タルク)を正品とする。

[性・味]寒・甘

[帰経]胃・膀胱

[用法]10~15g。包煎。外用も可。

寒性かんせい利水滲湿薬りすいしんしつやく車前子しゃぜんしに比べ,清熱せいねつ作用に優れ,解暑げしょ作用と収湿しゅうしつ作用を有する。

清熱利湿

清熱作用に優れ,寒性であり下焦の湿熱を尿より排泄し除く。湿熱による熱淋の排尿痛・褐色尿・頻尿・排尿困難・小便不利や浮腫などに使用さ れる。また石淋にも用いられる。
①熱淋には,車前子・木通・山梔子・沢瀉・瞿麦・茯苓などと用いる。〔代表方剤:五淋散,八正散〕。
②石淋には,海金沙・金銭草・石葦などと用いる。

清熱解暑

暑邪を冷まし湿邪を除く。
(1)暑湿証の口渇・煩躁・ほてり・小便不利・下痢などに使用される。甘草・白扁豆・佩蘭などと用いる。〔代表方剤:六一散〕。
(2) 湿温気分証の小便不利・濃縮尿・身体の重だるさ・午後の熱感などに使用される。黄芩・通草・薏苡仁・杏仁などと用いる。〔代表方剤:三仁湯,黄芩滑石湯〕。

収澁収湿

清熱すると同時に湿疹などの滲出液を抑制する。湿疹・汗庖(あせも) などに使用される。主に単味か煅石膏と炉甘石の混合粉末を塗布する。

カッコウ

藿香かっこう

かっこう

[基原]シソ科パチョリの全草。

[性・味]微温・辛

[帰経]脾・胃・肺

[用法]5~10g。長時間煎じない。後下が望ましい。藿香葉は解表,藿香梗は和中,鮮藿香は解暑の各作用にそれぞれ優れる。

代表的な芳香化湿薬ほうこうかしつやく化湿和中解暑かしつわちゅうげしょの重要薬。佩蘭はいらんに比べ,温燥性おんそうせいが強く止嘔・止痢作用に優れる。

化湿・
解表解暑


外感や内傷による脾胃の湿を除き,暑邪を散じる。また解表作用を有する。
(1)湿困脾胃の胃腹部脹満・悪心・嘔吐・下痢・食欲不振・身体の重だるさ・ 膩苔などに使用される。蒼朮・陳皮・厚朴などと用いる。〔代表方剤:不換金正気散〕。
(2)暑湿証に使用される。夏季の外感風寒や寒湿による悪寒発熱・頭痛頭重・胸苦しさ・腹痛・嘔吐・下痢・膩苔などの症状。紫蘇・厚朴・陳皮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:藿香正気散〕。
(3)湿温証初期の悪寒発熱・頭重・身体の重だるさ・胸腹部痞悶感・腹部脹満・ 下痢・膩苔などに使用される。
①湿が熱より盛んで,身体の重だるさ・ロ内粘り感・無口渇などの症状には,半夏・厚朴・杏仁・茯苓などと用いる。〔代表方剤:藿朴夏苓湯)。同病態で腹部脹満・悪心・嘔吐などが強いときには,佩蘭・陳皮・半夏・大腹皮などと用いる。〔代表方剤:雷氏芳香化濁方〕。
②湿熱がともに盛んで熱感・濃縮尿などの症状には,菌蔯蒿・黄芩・滑石などと用いる。〔代表方剤:甘露消毒丹〕。

和中止嘔

湿を除き冑機能を整え止嘔する。湿邪による胃部痞塞・悪心・嘔吐・吃逆・膩苔などに使用される。寒熱証ともに使用可能だが,寒湿に適する。妊娠性嘔吐や小児の嘔吐下痢にも用いられる。
①寒湿嘔吐には,半夏・丁香・陳皮などと用いる。〔代表方剤:藿香半夏湯〕。
②湿熱性には,黄連・竹筎などと用いる。
③妊娠性嘔吐には,砂仁・半夏などと用いる。

鼻渊にも使用される。また煎液の含嗽で口臭を除く。

[注意点]暑温証や陰虚火旺には禁忌。

カッコン

葛根かっこん

かっこん

[基原]マメ科クズの周皮を除いた根。

[性・味]平(やや涼)・甘・辛

[帰経]脾・胃

[用法]10~15g。煨葛根は昇陽止瀉作用に,生葛根は生津・透疹・解表に優れる。

浮性があり,外表がいひょうでは退熱たいねつ透疹とうしんにより表邪ひょうじゃを去り,内では昇陽しょうよう生津せいしんによりかつを止める。

解表退熱

軽度の発汗作用があり,鬱熱を発散させる。生津により筋を緩める作用があるため,項背の強ばり・ロ渇を伴う外感表証に多用される。そのほか,発熱悪寒・鼻腔乾燥・頭痛・四肢倦怠などにも用いられる。風寒・風熱の表証に使用可能。
①風寒表証には,桂枝・麻黄・白芍などと用いる。(代表方剤:葛根湯 )。
②風熱表証で鬱熱を帯びたための頭痛・熱感・微悪寒・眼痛などには,柴胡・黄芩・石膏 などと用いる。〔代表方剤:柴葛解肌湯〕

透疹

発散作用により鬱した毒を皮膚の表面に出したり,肌腠の熱邪を取り除く。発熱・ロ渇や下痢などを伴う麻疹の初期に多用される。升麻・芍薬・甘草などと用いる。〔代表方剤:升麻葛根湯 〕。

昇陽止潟

脾胃の気を上昇させることで下痢を止める。湿熱や脾虚の下痢に多用される。
①湿熱の腹痛・テネスムス・黄苔・ロ渇を伴う下痢には,黄芩・黄連などと用いる。〔代表方剤:葛根黄芩黄連湯)。
②脾虚の下痢には,人参・白朮・茯苓・黄者・木香 などと用いる。〔代表方剤:七味白朮散)

生津止渇

津液を潤し(生津)口渇を止める。口渇を伴う外感表証や消渇などに多用される 。麦門冬・天花粉・五味子などと用いる。〔代表方剤:麦門冬飲子〕。

[注意点]表虚の多汗には禁忌。