薬草辞典-か行

カロコン

栝楼根かろこん

かろこん

[基原]ウリ科シナカラスウリなどの肥大根。

[別名]天花粉てんかふん・瓜蔞根・瓜呂根ともにかろこん・かろうこん花粉かふん

[性・味]寒・甘・微苦・酸

[帰経]肺・胃

[用法]10~15g。

胃熱いねつを冷まし,肺燥はいそうをよく潤す。清熱せいねつ作用は芦根ろこんより劣るが,生津作用に優れ,熱が盛んでかつ津液不足しんえきふそくの病証や消渇病しょうかちびょうに多用される 。

清熱生津・
潤燥


肺や胃の熱を冷まし,よく津液を潤し(生津)口渇を止める 。 生津作用はより優れる。〔代表方剤:柴胡桂枝乾姜湯〕
(1) 熱病や熱病後期の津液不足に使用される。
①熱盛時には,知母・石膏などと用いる。
②熱病後期には,麦門冬・生地黄・石斛・沙参などと用いる。
(2)温病気分証などの風熱表証で津液不足のため口渇を伴う病態に使用される。 芦根・菊花・薄荷・金銀花などと用いる。
(3) 消渇病にも使用される。知母・葛根・五味子などと用いる。〔代表方剤:玉液湯〕。

潤肺化痰

肺熱を冷ます(清肺)とともに肺燥を潤し,化痰して咳嗽を止める。肺熱の陰液不足による粘稠燥痰・乾咳・喀出困難な痰・血痰などに使用される。天門冬・麦門冬・生地黄・貝母・桑白皮などと用いる。〔代表方剤:沙参麦門冬湯,貝母栝楼散〕。

消腫排膿

清熱瀉火とともに膿を排泄し腫瘍を縮小させる。皮膚化膿症(排膿前,排膿後ともに可)・乳腺炎・外傷などに使用される。外用も可。連翹・金銀花・ 浙貝母・蒲公英などと用いる。〔代表方剤:仙方活命飲,復元活血湯〕。

[注意点]潤腸通便傾向にあるので,脾胃虚寒証や下痢には禁忌。

カンゾウ

甘草かんぞう

かんぞう

[基原]マメ科のウラルカンゾウなどの根およびストロン。

[別名]国老こくろう

[性・味]平・甘

[帰経]脾・肺・心

[用法]2~6g。諸薬の調和には少量 (2~3g),心気虚証などの君薬としては中量 (5~10g),急性中毒の緩和には多量 (15~30g)を使用する。丸・散剤・外用も可。甘遂かんすい大戟たいげき芫花げんかとは相反そうはん

補気力ほきりょくは弱いが,広範囲に使用される潤性じゅんせい補気薬ほきやく大棗たいそうとよく同時に使用される緩和補気薬かんわほきやく

補気心脾

脾胃や心気の機能を補い,脾虚や心気不足を改善する。補気力は弱く,他の補気薬の補助として使用される。
(1) 脾胃気虚証の食欲不振 ・下痢・倦怠感などに使用される。人参 ・白朮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:四君子湯〕。
(2) 心気虚の動悸・脈結代などに使用される。桂枝・麦門冬・五味子・阿膠などと用いる。 〔代表方剤:炙甘草湯〕。
(3) 心気を補い,心神を安定させる(養心安神)。心気虚証や臓躁証による精神情動失調に使用される。大棗・小麦・酸棗仁・柏子仁・竜骨・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:甘麦大棗湯〕。

潤肺止咳

潤性があり,肺を潤し止咳する。薬性は緩和で平性のため,寒熱虚実・有痰無痰を問わず使用可能だが,特に燥痰・熱痰に適する。
①外感風寒の咳嗽には,麻黄・杏仁・生姜などと用いる。〔代表方剤:三拗湯〕。
②外感風熱の咳嗽には,桑葉・菊花・桔梗などと用いる。〔代表方剤:桑菊飲〕。
③肺熱の咳嗽には,麻黄・杏仁・石膏などと用いる。〔代表方剤:麻杏甘石湯〕。
④肺燥の咳嗽には,桑葉・貝母・沙参・杏仁・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:桑杏湯〕。
⑤肺の寒飲停滞による咳嗽・透明多痰などには,乾姜・細辛などと用いる。〔代表方剤:小青竜湯,甘草乾姜湯〕。

緩急止痛

急迫症状を緩め(緩急)止痛する。
(1)胃部 ・腹部・季肋部などの痙攣性疼痛に使用される。
①腹部虚寒の腹痛には,桂枝・生姜・大棗などと用いる。〔代表方剤:小建中湯〕。
②気滞の季肋部痛には,柴胡・白芍・当帰・白朮などと用いる。〔代表方剤:加味逍遙散 ,四逆散〕。
(2)血虚による筋肉の痙攣や疼痛(転筋)を緩和する。芍薬・木瓜・鶏血藤などと用いる。〔代表方剤:芍薬甘草湯〕。

瀉火解毒

良好な解毒作用や薬性の緩和作用を有する。
(1)熱毒による咽頭の発赤腫脹疼痛に使用される。桔梗・玄参・牛蒡子・山豆根などと用いる。〔代表方剤:甘草湯,桔梗湯,甘桔湯〕。
(2)皮膚化膿症に使用される。熱証の外寒証の化膿症にも用いられる。
①熱証には,金銀花・連翹・蒲公英などと用いる。
②寒証には,熟地黄・肉桂・白芥子などと用いる。〔代表方剤:陽和湯〕。

調和

(1)他薬による脾胃の損傷を防止し保護する。脾胃虚弱者に多用される。
(2)薬性を緩和する。毒性薬や作用の強い薬物の薬性を緩和し,方剤中の諸薬を調和する。特に附子や乾姜の熱性や傷陰の緩和に適する。方剤中に配合され,薬物の強い薬性を緩和し脾胃の機能を調べることで,方剤中の薬物を協調させ方剤全体を調整する(諸薬の調和)。
(3)食中毒を緩和する

近年では消化性潰瘍に有効とされる。烏賊骨・瓦楞子・陳皮などと用いる。

[注意点]長期や多量の服用などで,低カリウム血症による浮腫・痙攣・四肢脱力無力感・しびれ・頭痛などが出現することがある。そのおそれがあるときや出現時には,沢瀉・茯苓などの利水薬や利水剤(五苓散など),あるいは西洋薬のカリウム補給剤を使用する。

カンレンソウ

旱蓮草かんれんそう

かんれんそう

[基原]キク科タカサブロウの全草。

[別名]墨旱蓮ぼくかんれん

[性・味]寒・甘・酸

[帰経]肝・腎

[用法]10~15g。丸 ・散・膏剤,外用も可。

薬性が温和な補肝腎薬ほかんじんやく熟地黄じゅくじおう山茱萸さんしゅゆ枸杞子くこしより補陰ほいん作用は劣る。よくともに配合される。女貞子じょていしより補肝腎ほかんじん作用は劣るが,涼血止血りょうけつしけつ作用を有する。

補肝腎陰

肝腎の陰を補う 。膩性が少なく作用は比較的温和。肝腎陰虚によ る頭重・めまい・耳鳴・腰下肢倦怠感・遺精・白髪などに使用される。特に陰虚内熱のものに適する。女貞子・熟地黄・黄精・菟絲子・枸杞子・何首烏などと用いる。

涼血止血

養陰すると同時に血熱を冷まし止血する。陰虚血熱による喀血・鼻出血・血尿・便血・崩漏・皮下出血などの各種出血症に多用される。生地黄・阿膠・蒲黄・車前草・茜草根などと用いる。〔代表方剤:二草丹〕。外傷出血や咽頭炎にも使用される。つぶして塗布する。

[注意点]寒性であり,脾胃虚寒証の下痢,腎陽虚証には使用しない。

 

キキョウ

桔梗ききょう

ききょう

[基原]キキョウ科キキョウの根。

[性・味]微温・苦・辛

[帰経]肺

[用法]3~6g。肺癰治療には多量(~10g)に使用する。

外感風熱咳嗽がいかんふうねつがいそうに多用される止咳薬。宣肺せんぱい作用に優れ昇散性が強い肺経気分はいけいきぶんの重要薬。排膿作用を有す。前胡ぜんごに比べ化痰かたん作用に優れ寒熱両証に使用される。

宣発化痰・
利咽


肺の宣発作用を高めて,咽頭を利し開音し,よく痰を除去し止咳する。また風熱を発散する。肺寒・肺熱両証の咳嗽多痰・胸部痞塞感,外感風寒の咳嗽や外感風熱の咳嗽.咽頭痛・嗄声などに使用される。
①外感風寒咳嗽には紫蘇葉・杏仁・陳皮などと用いる。〔代表方剤:杏蘇散〕。
②外感風熱咳嗽には,桑葉・菊花・牛蒡子などと用いる。〔代表方剤:桑菊飲〕。
③肺の気痰交結による胸部痞塞感には,枳殻・瓜萎などと用いる。
④咽頭痛と嗄声には,黄芩・甘草・蟬退などと用いる。〔代表方剤:清音丸〕。

排膿

良好な排膿作用があり,肺癰・咽頭炎・扁桃の化膿・皮膚化膿症などに使用される。
①咽頭炎には,薄荷・甘草・射干・板藍根・石膏・魚腥草などと用いる。〔代表方剤:桔梗湯 《金匱要略》,三物白散〕。
②肺癰には,甘草・敗醬草・桑白皮・薏苡仁などと用いる。 〔代表方剤:桔梗湯《外台秘要》〕。
③皮膚化膿症には,金銀花・連翹・枳実・柴胡などと用いる。〔代表方剤:排膿散及湯 ,十味敗毒湯 ,清上防風湯〕

開提肺気

(1)肺気の鬱滞を除くことで,表裏関係の大腸や胃の気を降ろしその機能を整える。 胃腸の気滞による下痢・裏急後重などに使用される 。
(2)肺気鬱滞を除き順調に巡らして通調水道作用を高めて利尿を促進する。排尿困難(癃閉)などに使用される。

“舟楫之剤”,“載諸薬上浮”といわれ,上昇する性質があり,諸薬をもち上げ上焦の病症に導く(引経薬)。また陽気の下降を防ぎ上昇させる。慢性下痢や呼吸困難などに使用される。〔代表方剤:参苓白朮散,昇陥湯〕。

[注意点]陰虚の慢性咳嗽や喀血には禁忌。多量の服用で悪心嘔吐を引き起こすことがある。

キクカ

菊花きくか

きくか

[基原]キク科キクの頭花。

[性・味]微寒・甘・苦

[帰経]肝・肺

[用法]5~10g。丸剤も可。生菊花を擦り潰し患部に塗布してもよい。

風熱ふうねつを軽く散じるとともに清肝明目せいかんめいもく作用を有する。桑葉そうように比べ清肝せいかん作用に優れ,かつ清熱解毒せいねつげどく作用を有する。潤性じゅんせい桑葉そうようより強く、陰虚証いんきょしょうにも使用可能。肝火上炎かんかじょうえん肝陰不足証かんいんふそくしょうに多用される。

疎散風熱

発散力は弱く,風熱を軽く散らす(疏散)。風熱表証に用いられるが,作用を強化するため,他の疎散風熱薬と配合される。甘性であり潤す性質(潤性)があり,燥性の病態によく使用される。上焦の風熱を除き頭部を明瞭にする(清頭)。頭痛を伴う風熱表証や風熱に多用される。薄荷・連翹・芦根・桔梗などと用いられる。〔代表方剤:桑菊飲〕

清肝明目

肝経の熱を冷まして降ろし(清肝瀉火),視力を明瞭にする(明目)が,より清肝作用に優れる。
(1)肝火や風熱による頭痛・めまい・眼痛・結膜充血・眼花・羞明などに多用される。
①肝火上炎による結膜充血・眼部の腫脹疼痛には,桑葉・夏枯草・決明子・木賊・蒺藜子などと用いる。〔代表方剤:菊花散,菊花茶調散〕。
②肝陰不足による肝陽上亢証のめまい・頭痛・眼花には,桑葉・釣藤鈎・牡蛎・石決明・白芍薬など。〔代表方剤:釣藤散 〕。
③風熱による眼球結膜の充血・目の腫脹・頭痛・羞明などには,桑葉・ 決明子・車前子・薄荷・連翹 などと用いる。〔代表方剤:桑菊飲〕。
(2)甘性で陰を損傷しないため,肝腎陰虚証のめまい・眼花・羞明・霞目などに使用される。枸杞子・生地黄・女貞子・山茱萸・黒胡麻などと用いる。〔代表方剤:杞菊地黄丸〕。

清熱解毒

清熱解毒作用もあり,皮膚化膿症に使用される。本作用は野菊花がより強い。

 

キジツ

枳実きじつ

きじつ

[基原]ミカン科酸橙などの幼果。

[性・味]寒・苦・辛

[帰経]脾・胃・大腸

[用法]3~10g。中気下陥の内蔵下垂などには 15g程度使用する。外用も可。

強力な行気こうき力を有し,凝縮停滞したたん食積しょくせきを取り除く寒性の理気薬りきやく熱証ねつしょうをはじめ,各種の気滞きたいにも多用される。枳殻きこくに比べ行気こうき力が強く,中下焦ちゅうげしょう(胃腹部) に主に作用する。

破気消積

強力に気を巡らせ脹満・停滞を除く 。気滞や食積に多用される。
(1) 気滞による胸部・心下部・季肋部・乳房の痞塞感や脹満痛・食欲不振・焦燥感・曖気・四肢冷感・月経痛などに使用される 。柴胡・芍薬・甘草・香附子などと用いる。〔代表方剤:四逆散〕。
(2) 食積気滞の腹部脹満感(痛)・腐臭性曖気などに使用される。食積には山楂子・神麴・麦芽などと用いる。
(3) 腹痛脹満を伴う気秘・熱秘などの便秘に使用される。大黄・厚朴などと用いる。 [代表方剤:大承気湯,小承気湯〕。
(4) 脾胃虚証の食積や気滞にも使用される。食後脹満感(痛)や心下痞塞感・曖気・食欲不振・倦怠感など。白朮・厚朴・半夏などと用いる。〔代表方剤:枳朮丸,枳実消痞丸〕。
(5) 熱性の気滞による心下痞塞感・熱感や寒熱往来・季肋部脹満痛(感)・嘔吐などに使用される。山楂子・豆鼓・柴胡・黄芩などと用いる。〔代表方剤:大柴胡湯,枳実梔子鼓湯〕。
(6) 瘀血気滞の腹部脹満感(痛)などにも使用される。桃仁・紅花・当帰・川芎などと用いる。〔代表方剤:通導散〕。

化痰除痞

行気作用により痰を除く。気と痰の鬱滞(気痰交結)に使用される。
(1) 痰熱の肺の停滞(痰熱結胸)による胸部や胃部痞塞感(痛)・黄色粘性痰・黄膩苔などに使用される。栝楼仁・黄連・半夏などと用いる。〔代表方剤:清気化痰丸〕。
(2)寒痰の肺の停滞(痰阻胸陽)による胸部痞塞感(痛)・呼吸困難・白膩苔などに使用される。薤白・栝楼仁・桂枝・厚朴などと用いる。〔代表方剤:枳実薤白桂枝湯〕。
(3) 痰熱や痰によるめまい・不眠・悪心・嘔吐・焦燥感・膩苔などに使用される。 半夏・竹筎・茯苓などと用いる。〔代表方剤:竹筎温胆湯,茯苓飲〕。
(4) 大腸湿熱の腹痛下痢・裏急後重などに使用される。大黄・黄連・黄芩などと用いる。〔代表方剤:枳実導滞丸〕。

中気下陥証にも使用される 。黄耆・柴胡や補中益気湯にも配合される。

[注意点]脾胃虚証・妊婦には慎重に使用する。

キバン

亀板きばん

きばん

[基原]イシガメ科クサガメなどの腹甲 。

[性・味]寒・甘・鹹

[帰経]肝・腎・心

[用法]10~30g。砕いて煎じる。先煎。

鼈甲べっこうに比べ滋陰力じいんりょくに優れ,また補腎健骨ほじんけんこつ滋陰止血じいんしけつ作用を有する。

滋陰潜陽

肝腎の陰を滋養し,肝腎陰虚のために上昇(上浮)した陽気を抑え(潜陽),また内風を静める。滋陰力に優れ,重度の陰虚や津液不足の病態に使用される。
①骨蒸潮熱には,知母・黄柏・生地・地黄などと用いる。〔代表方剤:大補陰丸〕。
②めまい・頭重・顔色紅潮などには,生地黄・石決明・菊花・牛膝・玄参・代諸石などと用いる。〔代表方剤:鎮肝熄風湯〕。
③陰虚内動には,鼈甲・牡蛎・白芍・阿膠・麦門冬・地黄などと用いる。〔代表方剤:三甲復脈湯,大定風珠〕。
(1) 肝腎陰虚・陰虚内熱・温熱病などの津液消耗による骨蒸潮熱・盗汗・夜間のほてり・微熱・羸痩,紅色乾燥舌・無苔などに使用される。
(2)陰虚内風による,四肢痙攣・ふるえ・めまいなどに使用される 。

益腎健骨

精血を補い,筋骨を強くする。
(1) 腎陰虚による腰部下肢の筋萎縮・筋倦怠無力,小児の大・小泉門閉鎖遅延・筋骨発育不全・成長不全などに使用される 。熟地黄・知母・白芍・虎骨・鎖陽などと用いる。〔代表方剤:虎潜丸〕。
(2) 腎陰陽両虚の遺精・視力低下・腰部下肢萎縮などに使用される。拘杞子・人参・鹿茸などと用いる。〔代表方剤:亀鹿二仙膠〕。

滋陰養血止血

滋陰養血し経絡からの血の漏れを防ぎ(固経)止血する。陰虚血熱による崩漏・過多月経などに使用される。黄柏・阿膠・茜草などと用いる。〔代表方剤:固経丸〕。

養血補心

血を補い心神を安定させる。血虚による心神不安の動悸・不眠・健忘などに使用される。竜骨・遠志・菖蒲などと用いる。〔代表方剤:孔聖枕中丹〕。

[注意点]脾虚寒による下痢・食欲不振・もたれなどには使用しない。