薬草辞典-か行

キバンキョウ

亀板膠きばんきょう

きばんきょう

[基原]イシガメ科クサガメなどの腹甲を煮詰めて膠にしたもの。

[性・味]寒・甘・鹹

[帰経]肝・腎・心

[用法]3~9g。溶解(烊化)。

亀板きばんに比べ滋陰じいん養血ようけつ止血しけつ作用に優れる。

滋陰潜陽

肝腎の陰を滋養し,肝腎陰虚のために上昇(上浮)した陽気を抑え(潜陽),また内風を静める。滋陰力に優れ,重度の陰虚や津液不足の病態に使用される。
①骨蒸潮熱には,知母・黄柏・生地・地黄などと用いる。〔代表方剤:大補陰丸〕。
②めまい・頭重・顔色紅潮などには,生地黄・石決明・菊花・牛膝・玄参・代諸石などと用いる。〔代表方剤:鎮肝熄風湯〕。
③陰虚内動には,鼈甲・牡蛎・白芍・阿膠・麦門冬・地黄などと用いる。〔代表方剤:三甲復脈湯,大定風珠〕。
(1) 肝腎陰虚・陰虚内熱・温熱病などの津液消耗による骨蒸潮熱・盗汗・夜間のほてり・微熱・羸痩,紅色乾燥舌・無苔などに使用される。
(2)陰虚内風による,四肢痙攣・ふるえ・めまいなどに使用される 。

益腎健骨

精血を補い,筋骨を強くする。
(1) 腎陰虚による腰部下肢の筋萎縮・筋倦怠無力,小児の大・小泉門閉鎖遅延・筋骨発育不全・成長不全などに使用される 。熟地黄・知母・白芍・虎骨・鎖陽などと用いる。〔代表方剤:虎潜丸〕。
(2) 腎陰陽両虚の遺精・視力低下・腰部下肢萎縮などに使用される。拘杞子・人参・鹿茸などと用いる。〔代表方剤:亀鹿二仙膠〕。

滋陰養血止血

滋陰養血し経絡からの血の漏れを防ぎ(固経)止血する。陰虚血熱による崩漏・過多月経などに使用される 。黄柏・阿膠・茜草などと用いる。〔代表方剤:固経丸〕。

養血補心

血を補い心神を安定させる。血虚による心神不安の動悸・不眠・健忘などに使用される。竜骨・遠志・菖蒲などと用いる。〔代表方剤:孔聖枕中丹〕。

[注意点]脾虚寒による下痢・食欲不振・もたれなどには使用しない。

キョウニン

杏仁きょうにん

きょうにん

[基原]バラ科ホンアンズやアンズなどの種子。

[性・味]温・苦・甘

[帰経]肺・大腸

[用法]3~10g。後下するほうがよい。砕いて煎じる。

温性の止咳薬。止咳平喘しがいへいぜんの需要薬。

止咳平喘

肺気を降ろし痰を巡らせて止咳し呼吸困難を緩和する(平喘)。各種の邪による肺気鬱滞のための咳嗽・呼吸困難・白色痰などに使用される。配合薬により寒・熱・虚・実証や肺燥など各種の病態に使用可能。
①風寒咳嗽には, 麻黄・甘草・蘇葉などと用いる。〔代表方剤:三拗湯,杏蘇散〕。
②風熱咳嗽には,桑葉・菊名・薄荷などと用いる。〔代表方剤:桑菊飲〕。
③肺熱の喘息には,麻黄・石膏・甘草などと用いる。〔代表方剤:麻杏甘石湯 ,五虎湯,神秘湯〕。
④燥熱の咳嗽には,桑葉・貝母・沙参などと用いる。〔代表方剤:桑杏湯〕。

潤腸通便

大腸の気を降ろし,同時に腸を潤して通便する。腸燥の便秘に使用される。麻子仁・郁李仁・当帰・桃仁 ・枳実などと用いる。〔代表方剤:麻子仁丸,潤腸湯,五仁丸〕。

肺気を流暢にすることで,水道通調作用を高め,軽度に利水する。湿証の 浮腫・重だるさ,湿温病初期の重だるさ・頭重・悪寒・胸部痞塞感 ・午後の発熱などに使用される。湿温病初期には,滑石 ・厚朴・薏苡仁などと用いる。〔三仁湯〕。

[注意点]軽度の毒性があり ,多量の服用で嘔吐・下痢 ・痙攣・呼吸困難などの副作用が出現することがある。

キンギンカ

金銀花きんぎんか

きんぎんか

[基原]スイカズラ科スイカズラなどの花蕾。

[別名]忍冬花にんどうか双花そうか二宝花にほうか

[性・味]寒・甘

[帰経]肺・胃

[用法]10~15g。解表には少量 (5~10g),熱毒が強いときには多量 (~60g) を使用する。炒炭金銀花は涼血止痢作用に優れる。

風熱ふうねつを散じ,熱を冷まし,下痢を止める。連翹れんぎょうに比べ,表熱ひょうねつの発散に優れ甘性だが胃を荒らさない。

清熱解毒

軽く浮き上がる性質があり,外表部の風熱を発散する。また裏熱を冷ます作用もある。温病初期(衛分)や気分,營分の各証に使用されるが,特に気分の治療に優れる。
(1)温病の初期や肺衛分証の発熱・咽頭痛・ロ渇・咳嗽などに使用される。連翹・荊芥・薄荷・牛蒡子などと用いる。〔代表方剤:銀翹散〕
(2)温病気分証の壮熱・煩渇・脈洪大などに使用される。連翹・石膏・知母などと用いる。〔代表方剤:銀翹石膏湯〕。
(3)温病營分や血分証で,熱邪の発散にも使用される。牡丹皮・生地黄・玄参・丹参などと用いる。〔代表方剤:清営湯〕。

散癰消腫

清熱解毒作用があり,皮膚化膿症に使用される。外科(皮膚科)の常用薬。熱毒による皮膚化膿症や腸癰(虫垂炎)・肺癰などに使用される。外用も可。蒲公英・野菊花・紫花地丁・黄芩などと用いる。〔代表方剤:五味消毒飲,仙方活命飲〕。

涼血止痢

血熱を冷まし下痢を止める 。熱性の下痢や膿血便に使用される 。葛根・黄連・白頭翁などと用いる。

清熱解暑作用もあり,暑熱証にも用いられる。

 

クコシ

枸杞子くこし

くこし

[基原]ナス科クコやナガバクコの成熟果実。

[性・味]平・甘

[帰経]肝・腎

[用法]5~10g。丸 ・膏・酒剤,外用も可能。

補肝腎ほかんじんの代表薬。山茱萸さんしゅゆとよく同時に配合される。明目めいもく作用を有する。

補肝腎陰

山茱萸と同様に,肝血と腎精を滋養する。特に補肝陰作用に優れる。膩性は比較的弱く,作用は比較的温和である。また平性であり,腎陽虚証や血虚証にも使用される。
(1) 肝腎陰虚のめまい・頭重・腰下肢倦怠感・耳鳴や腎陰陽両虚証の尿失禁・陽萎・遺精などに使用される。さらに視力低下などにも用いられる。山茱萸・山薬・熟地黄・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:左帰丸〕。
(2) 腎陰陽両虚証の羸痩・視力低下・遺精・陽萎などに使用される。熟地黄・山茱萸・肉桂・附子などと用いる。 〔代表方剤:右帰丸,右帰飲〕。
(3)血虚証の不眠多夢・白髪・顔色不良など使用される。当帰・何首烏・菟絲子・黄精などと用いる。〔代表方剤:七宝美髯丹〕。
(4)補肝を通して生津止渇する。そのため,消渇・温熱病の津液消耗などに使用される。山薬・天花粉・黄耆・生地黄などと用いる。

養肝明目

良好な明目作用を有する。肝腎陰虚や陰虚内熱上浮などによる霧視・視力低下・眼球乾燥・流涙・飛蚊症などに使用される。菊花・山茱萸・熟地黄などと用いる。〔代表方剤:杞菊地黄丸〕。

肺を潤し止咳する 。肺陰虚による慢性咳嗽(肺癆)などに使用される 。 麦門冬・知母・貝母・百部などと用いる。

[注意点]脾虚の下痢には使用しない。

クジン

苦参くじん

くじん

[基原]マメ科クララの根。

[性・味]寒・苦

[帰経]大腸・肝・腎

[用法]3~10g。丸・散剤,外用も可。

祛湿きょしつし利尿し,風熱ふうねつを除く。下焦湿熱げしょうしつねつ証や皮膚瘙痒症の多用薬。

清熱燥湿

清熱燥湿作用に優れ,湿熱の下痢や血便・黄疸に使用される。
①下痢には,木香・黄芩・甘草などと用いる。〔代表方剤:香参丸〕 。
②黄疸には,山梔子・竜胆草・茵蔯蒿などと用いる。

清熱利尿

清熱とともに比較的強い利尿作用を有する 。膀胱湿熱による小便不利・排尿困難 ・排尿痛や浮腫などに使用される 。蒲公英・沢瀉・車前子・貝母などと用いる。〔代表方剤:当帰貝母苦参丸〕 。

殺虫止痒

祛風清熱することで瘙痒感を抑え,疥癬やトリコモナスの活動を抑制する(殺虫)。外用も使用可。
(1)風湿熱の皮膚瘙痒症や湿疹・疥癬 ・皮膚化膿症などに使用される。防風・荊芥・蟬退・白蘚皮などと用いる。〔代表方剤:消風散 〕。
(2)下焦湿熱の黄色帯下・陰部瘙痒症(トリコモナスなど)に使用される。蛇床子・黄芩・黄柏などと用いる。[代表方剤:苦参散〕。

[注意点]苦寒性が比較的強く,胃を損傷しやすい。そのため多量や長期の服用は避ける。脾胃虚寒証には禁忌。伝統的に藜芦とは相反。

 

ケイケットウ

鶏血藤けいけっとう

けいけっとう

[基原]マメ科ムラサキナッフジなどのつる性の茎。

[性・味]温・苦・微甘

[帰経]肝

[用法]10~30g。

舒筋活絡じょきんかつらくを有する活血薬かっけつやく補血ほけつ作用も有し血虚証けっきょしょうにも使用される。

行血補血・
舒筋活絡


活血と同時に補血作用を有し,筋を緩め経絡の流通を良好にする。瘀血・血虚証ともに使用可能。
(1)月経痛・月経不順(過少月経など)・閉経などに使用される。
①瘀血証には, 川芎・桃仁・香附子・益母草などと用いる。
②血虚証には熟地黄・当帰・川芎・続断などと用いる。
(2)血虚証や血虚を伴う瘀血証の風湿痺証や中風後遺症の関節痛・しびれ・筋肉マヒなどに使用される。
①風湿痺証には,防風・牛膝・威霊仙・海風藤などと用いる。〔代表方剤:鶏血藤湯〕。
②気血両虚証の片マヒには,黄耆・当帰・桂枝などと用いる。
(3) 皮膚瘙痒症や虚寒性の胃痛(鈍痛・喜温喜按など)にも使用される。

[注意点]過多月経には使用しない。

ケイシ

桂枝けいし

けいし

[基原]クスノキ科ケイの若枝(嫩枝)。

[性・味]温・辛・甘

[帰経]心・ 肺・ 膀胱

[用法]3~10g。風湿痺証の疼痛には多量使用も可。丸・散剤も可。

表裏ひょうり陽気ようきを温め,表邪ひょうじゃを除き,気血きけつを巡らせる。

発汗解表

体表部に作用し,よく温めて軽度に発汗させ表証を取り除く(解肌)。 風寒の外感表証に使用されるが,表実・表虚証,有汗・無汗にかかわらずともに使用可能。

(1)外感表虚証の自汗・悪風・脈浮緩や易感冒症などに使用される。白芍・生姜・大棗・甘草などと用いる。〔代表方剤:桂枝湯〕。
(2)無汗・悪寒・頭痛・身体痛・脈浮緊などの外感の表寒実証に用いられる。 麻黄・杏仁・葛根・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:麻黄湯,葛根湯〕。

温経

経絡を温めて血行を促進し(通経),風寒湿の邪を散じ,疼痛を緩和する。

(1)上肢肩関節など上部の風寒湿痺証に多用されるが,熱痺や寒熱錯雑の痺証にも使用される。
①風寒湿痺証には,羗活・防風・附子などと用いる。〔代表方剤:桂枝加附子湯〕。
②熱痺・寒熱錯雑痺証には,石膏・知母などと用いる。〔代表方剤:白虎加桂枝湯,桂芍知母湯 〕。
(2)寒による血の停滞(寒凝血滞)のための,月経痛・無月経(閉経)・腫瘍・胃痛などに使用される。
①月経痛や無月経には,川芎・当帰・白芍・呉茱萸などと用いる。〔温経湯〕。
②四肢の冷感には,細辛・木通・当帰などと用いる。〔当帰四逆加呉茱萸生姜湯〕。
③脾胃虚寒証の胃痛には,白芍・飴糖などと用いる。〔代表方剤:小建中湯〕。
④温経活血するために,牡丹皮・桃仁・紅花などを配合する。〔代表方剤:桂枝茯苓丸 〕。

通陽化気

陽気を温め活発にしてよく巡らせ(通陽),さらに痰湿を吸収し除く(化気)。以下の病態に使用される。

(1)肺や脾胃に痰飲が停滞し陽気が通りにくくなった病態。
①肺の寒飲停滞による咳嗽・水様透明痰・悪寒・発熱・無汗・顔面の浮腫などには,麻黄・細辛・乾姜などと用いる。〔代表方剤:小青竜湯〕。
②脾胃の水飲停滞によるめまい・動悸・嘔吐などには,茯苓・白朮・甘草などと用いる。〔苓桂朮甘湯〕。
(2)膀胱の気化不全による小便不利・浮腫など。猪苓・沢瀉・白朮などと用いる。〔代表方剤:五苓散〕。
(3)心陽不振により陽気が巡らず,胸痛・痞満・動悸が出現した病態。
①胸痛や胸部痞塞感・胸悶などには,薤白・瓜萎・枳実・厚朴などと用いる。〔代表方剤:枳実薤白桂枝湯〕。
②動悸・脈結代があるときには,炎甘草・人参などと用いる。〔代表方剤:炙甘草湯〕。

[注意点]温性が強いため,陰虚証・温熱性の疼痛・出血症には禁忌。妊婦・月経過多症には慎重に用いる。