薬草辞典-か行

ケイヒ

桂皮けいひ

けいひ

[基原]クスノキ科ケイの樹皮。

[別名]肉桂にっけい官桂かんけい

[性・味]熱・辛・甘

[帰経]腎・脾・心

[用法]2~5g。多量には使用しない。後下または短時間煎じる。粉末の服用も可 (沖服)(1~2g/回) 。赤石脂を畏れる。

陽気ようきを温め鼓舞する。温裏おんりの重要薬。烏頭うず附子ぶしとよく同時に使用される。下焦虚冷げしょうきょれいの重要薬。よく腎脾の陽を温補おんぽする。附子ぶしより温脾おんぴ作用に優れる。

温補腎陽

腎陽(命門の火)を温め補う作用に優れ,腎陽虚治療の重要薬。
(1) 腎陽虚の下肢や四肢冷感・腰部下肢の脱力感や疼痛・頻尿・夜間尿・陽萎・遺精・淡白苔・脈細遅などに多用される。また,浮腫・小便不利・下痢などに使用される。附子・山茱萸・熟地黄・拘杞子などと用いる。〔代表方剤:八味丸 ,牛車気丸 ,右帰丸,右帰飲〕。
(2) 腎陽が衰え,浮き上がった陽気(虚陽上浮)を腎に引き下ろす(引火帰原)。 虚陽上浮による上熱下寒状態,すなわち眩暈・顔色紅潮・咽頭腫脹疼痛・不眠・動悸・舌淡紫色(上熱),下肢冷感(下寒)などに使用される。不眠に,黄連などと用いる。〔代表方剤:交泰丸〕。
(3) 腎不納気証による呼吸困難・咳嗽・白痰などに使用される。蘇子・前胡・厚朴などと用いる。〔代表方剤:蘇子降気湯,黒錫丹〕。

温経散寒
・止痛

よく寒邪を散じ血脈を通じて止痛する。虚寒性,寒凝気滞,寒性瘀血などの疼痛に使用されるが,特に脾胃の温補止痛作用に優れる。下焦虚寒性腹痛の常用薬。
(1) 脾胃虚寒証や脾腎両虚証の胃部腹部の冷痛・食欲不振・嘔吐・下痢などに使用される 。乾姜・附子・肉豆蒄・白朮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:五積散,安中散〕。
(2) 寒疝腹痛や寒性の季肋部痛に使用される。呉茱萸・茴香などと用いる。
(3) 月経痛や産後腹痛・閉経などに使用される。当帰・川芎・熟地黄などと用いる。 〔代表方剤:理陰煎,殿胞煎,女金丹〕。
(4) 寒湿痺証の疼痛・腰痛などに使用される。桑寄生・杜仲・独活などと用いる。

温経通脈

気血を温め,血をよく通じさせる(温通)。また本作用により,他薬の作用をよく発揮させる(宣導百薬)。
(1)温通作用により気血の生長を鼓舞する 。この目的のため少量を補気補血薬に配合する。〔代表方剤:十全大補湯,人参養栄湯〕。
(2)膀胱気化を促進する目的で,利尿薬に配合される。
(3)托裏補虚作用を促進する目的で,癰瘍薬に配合される。虚寒性や気血両虚の陰疽・陳旧性や難治性化膿症などに使用される。
①陰疽には,熟地黄・鹿角膠・麻黄・白芥子などと用いる。〔代表方剤:陽和湯〕。
②気血両虚証には黄者・当帰などと用いる。〔代表方剤:托裏黄蓍湯,托裏散〕。

[注意点]陰虚火旺・実熱裏証・血熱妄行性出血には禁忌。

ケツメイシ

決明子けつめいし

けつめいし

[基原]マメ科コエビスグサやエビスグサの成熟種子。

[別名]草決明そう けつめい馬蹄決明ばていけつめい

[性・味]微寒・甘・苦

[帰経]肝・大腸

[用法]10~15g。粉末を服用してもよい (3~6g/回)。生決明子は寒性が強く,清肝明目・発散風熱作用に優れ,実証に多用される。炒決明子はこれらの作用は弱くなる。

熄風そくふう明目めいもくする眼科の重要薬。通便つうべん明目めいもく作用を兼ねる平肝熄風薬へいかんそくふうやく。眼病の重要薬。蒺藜子しつりしに比べ,明目めいもく作用に優れ潤腸通便じゅんちょうつうべん作用を有する。

清肝明目

肝火を冷まし降ろし風熱を散じ,視力を明瞭にする。肝熱や風熱による眼瞼眼球充血・眼瞼の発赤腫脹(目赤)や疼痛・流涙・羞明・夜盲症などに使用される。
①風熱には,菊花・蔓荊子・木賊・桑葉などと用いる。〔代表方剤:決明子散〕。
②肝火証には,竜胆草・黄芩・夏枯草・山梔子などと用いる。
③肝腎両虚証による夜盲症・ 立ちくらみ・視力低下などには,菊花・山薬・生地黄・玄参・拘杞子などと用いる。〔代表方剤:決明丸〕。

平肝熄風

よく肝陽を抑え風を静める 。釣藤鈎や天麻より薬力は弱い。肝陽上亢や肝熱によるめまい・頭痛・痙攣・眼花などに使用される。特に眼部症状が伴う病症に多用される。また近年では降圧作用もあるとされる。蒺藜子・菊花・釣藤鈎・牡蛎・白芍薬・牛膝などと用いる。

潤腸通便

潤腸通便作用がある。寒性のため熱結や腸燥便秘症に使用される。 麻子仁・当帰・生地黄などと用いる。

[注意点]寒性で潤腸通便作用があるため,脾虚証の下痢には禁忌。

ゲンジン

玄参げんじん

げんじん

[基原]ゴマノハグサ科ゲンジンの根。

[別名]黒参こくじん元参げんじん

[性・味]寒・甘・苦・鹹

[帰経]肺・胃・腎

[用法]10~15g。時に多量(~30g) に使用される。

清熱滋陰せいねつじいんしよく瀉火しゃかする。陰虚火旺証いんきょかおうしょうによく適する。生地黄しょうじおうに比べ,瀉火しゃか作用に優れかつ解毒げどく散結さんけつ利咽りいん作用を有するが止血作用はない。

清熱滋陰
・涼血


1) 血熱を冷まし,陰分を滋養し,軽度ながら津液を潤す。
(1)温熱病営血証の高熱・意識障害・口渇・発疹・発班・絳色舌などに使用される。犀角・黄連・牡丹皮・赤芍薬・生地黄などと用いる。〔代表方剤:清営湯〕。
2)温熱邪により津液や陰分が消耗したための,便秘・ロ渇・舌乾燥などに使用 される。生地黄・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:増液湯〕。
(3)温病後期で余熱が退かず津液が消耗したための,夜間発熱・ほてり感・口燥・ 紅舌乾燥・少苔や無苔などに使用される。
(4)雑病陰虚内熱証の骨蒸潮熱・五心煩熱・便秘・ロ渇・腰部下肢の疼痛や脱力感・遺精・舌質紅などに使用される。生地黄・麦門冬・知母・地骨皮・鼈甲・青蒿などと用いる。〔代表方剤:青蒿鼈甲湯〕。
(5)陰虚火旺証の咽頭痛に使用される。生地黄・甘草・薄荷・山豆根などと用いる。


2)肺を潤し肺熱を冷ます(滋陰清肺)。
(1)肺陰虚による燥咳や喀出困難な少量黄色痰・乾咳・ロ渇・喀血・紅舌乾燥苔・少苔などに使用される。百合・生地黄・熟地黄・貝母・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:百合固金湯,養陰清肺湯〕。
(2)肺実熱証にも使用される。射干・山豆根などと用いる。

瀉火解毒
・利咽

滋陰するとともに上炎の火をよく冷まし降ろす。またよく解毒し利咽する。咽頭腫脹の常用薬。
(1)外感風熱や陰虚火旺による咽頭の発赤腫脹疼痛や乾燥痛・扁桃腺化膿などに多用される。特に陰虚火旺証に適する。
①陰虚火旺には麦門冬・生地黄・地骨皮などと用いる。〔代表方剤:玄麦甘桔湯,養陰清肺湯〕。
②風熱証には,牛蒡子・薄荷・連翹・黄芩・黄連・板藍根などと用いる。〔代表方剤:普済消毒飲〕。

解毒散結

清熱解毒滋陰するとともに痰熱による結実を除く。
(1)痰核の瘰癧に使用される。貝母・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:消瘰丸〕。
(2)慢性化した脱疸(血栓閉塞性血管炎)に使用される。金銀花・当帰・甘草 などと用いる。〔代表方剤:四妙勇安湯〕。
(3)皮膚化膿症に使用される。金銀花・連翹などと用いる。

潤腸通便作用もあり,陰虚の便秘証にも使用される。生地黄・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:増液湯〕。

[注意点]脾虚証で寒湿がある証には禁忌。藜芦とは配合禁忌。

 

コウカ

紅花こうか

こうか

[基原]キク科ベニバナの管状花。

[性・味]温・辛

[帰経]心・肝

[用法]3~10g。活血通経として使用時,酒を加えて煎じてもよい。

広範囲に使用される活血祛瘀かっけつきょおの重要常用薬。桃仁とうにんとともによく配合される。養血ようけつ作用も有し通絡つうらく作用に優れる活血薬かっけつやく桃仁とうにんに比べ,通絡つうらく作用に優れ外傷打撲・風湿痺証ふうしつひしょう・皮膚湿疹など外表がいひょう四肢の疾患に多用される。温性であり寒性瘀血証おけつしょうにより適する。

活血通経

活血すると同時に経絡の流通を良好にし,月経調整作用(調経)を有する。また軽度の補血作用もある。瘀血証の常用薬。
(1)月経痛・閉経・産後腹痛・瘀血腹痛・外傷打撲・腫瘍(癥瘕積聚)・風湿痺証 などの関節痛など各種の瘀血証に使用される。特に月経痛・閉経など婦人科疾患 に多用される。
①月経痛・閉経などには,桃仁・当帰・川芎・紅花などと用いる。〔代表方剤:通導散 ,桃紅四物湯,血府逐瘀湯〕。
②産後瘀血腹痛には,蒲黄・当帰・牡丹皮などと用いる。〔代表方剤:紅花散〕。
③癥瘕積聚には,桃仁・三稜・莪朮・枳殻などと用いる。〔代表方剤:隔下逐瘀湯〕。
④難産や胎児死亡の排泄不全には,川芎・当帰・牛膝などと用いる。〔代表方剤:脱紅煎〕。
⑤外傷打撲には,桃仁・当帰・穿山甲・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:復元活血湯〕。
⑥慢性の風湿痺証には,桃仁・秦艽・川芎・羗活などと用いる。〔代表方剤:身痛逐瘀湯〕。
(2) 血熱瘀血による赤褐色などの湿疹や皮膚斑・皮膚化膿症に使用される。当帰・紫草・大青草などと用いる。〔代表方剤:治頭瘡一方 ,当帰紅花飲〕。

祛瘀止痛

活血することで止痛する。瘀血による外傷打撲・胸痛(狭心症など)・風湿痺証の関節痛など各種疼痛に使用される。
①外傷打撲には類似点以外に, 蘇木・乳香などと用いる。紅花油を塗布してもよい。〔代表方剤:七厘散〕。
②胸痛には,桂枝・栝楼仁・丹参などと用いる。〔代表方剤:冠心Ⅱ号〕。

[注意点]妊婦や過多月経には禁忌。

コウブシ

香附子こうぶし

こうぶし

[基原]カヤツリグサ科ハマスゲの根茎。

[別名]香附米こうぶべい

[性・味]平・辛・微苦

[帰経]肝

[用法]5~10g。丸・散剤も可。

寒熱両証かんねつりょうしょうに使用可能な,偏りのない気血調整通利薬きけつちょうせいつうりやく。よく肝気かんきを巡らせ調経止痛ちょうけいしつうする。

疏肝理気

よく肝気を巡らせ,気の流れを調整し止痛する。平性(やや温に偏る)であり,寒熱両証に使用可能。
(1) 肝気鬱結の季肋部や乳房の脹満感(痛)・寒疝腹痛・不安感・焦燥感などに使用される。
①肝気鬱結証には,柴胡・青皮・白芍薬・枳殻などと用いる。〔代表方剤:柴胡疏肝散〕。
②寒疝腹痛には,烏薬・小茴香などと用いる。
(2) 肝と脾胃の不和に使用されるが,特に肝気犯胃の季肋部胃部の疼痛や不快感・胸部痞塞感・曖気などに多用される。
①木香・仏手・川芎・蒼朮などと用いる。〔代表方剤:越麴丸〕。
②寒性には高良姜・呉茱萸などと用いる。〔代表方剤:良附丸〕。
③熱性には山梔子・黄連などと用いる。

調経止痛

気を巡らせることで血滞を除き,月経を調整して止痛する。“血中の気薬《湯液本草》”,“気病の総司,女科の主帥《本草綱目》”などといわれ,婦人疾患の常用薬。肝気鬱結による月経不調(特に不定期月経)や月経痛(特に月経開始時痛)に多用される。そのほか,月経前の乳房脹満感(痛)・曖気・胸部痞塞感など。四物湯(川芎・当帰・白芍薬・熟地黄)とよく配合される。そのほか, 柴胡・艾葉・蘇梗などと用いる。〔代表方剤:芎帰調血飲〕。

[注意点]気虚や陰虚血熱には禁忌。

コウボク

厚朴こうぼく

こうぼく

[基原]モクレン科カラホウなどの樹皮。日本産(和厚朴)はホウノキの樹皮。

[別名]烈朴れつぼく川朴せんぼく

[性・味]温・苦・辛

[帰経]脾・胃・肺・大腸

[用法]3~10g。虚証の脹満には少量とする。姜厚朴は温中散寒作用に優れる。

湿阻中焦しつそちゅうしょう治療の重要薬。を下げ巡らせ,湿滞しったいをよく除く。蒼朮そうじゅつに比べ行気こうき作用に優れる。

行気燥湿・
導滞


燥性が強く,またよく気を巡らせて(行気),よく脾胃の湿や食積を除く(導滞)。寒湿や食積による脹満感(痛)治療の重要薬。苦寒燥湿薬を加え湿熱証にも使用可能。
(1)湿困脾胃証の下痢・胃もたれ・腹部脹満感・悪心・嘔吐・身体の重だるさなどに使用される。湿困脾胃には蒼朮・陳皮・白朮・枳穀などと用いる。〔代表方剤:平胃散, 胃苓湯〕。
(2)脾胃などの気滞による胃部脹満感・腹胸部痞塞感など使用される。寒湿証に適 し,寒性の気滞証にも用いられる。
①寒には桂枝・附子・乾姜・木香などと用いる。〔代表方剤:厚朴温中湯〕。
②湿熱には黄連などと用いる。
③梅核気には半夏・紫蘇などと用いる。〔代表方剤:半夏厚朴湯〕。
(3)食積による腹部脹満・もたれ・腐臭性噯気・下痢・便秘・嘔吐・食欲不振などに使用される。
①食積には山楂子・麦芽・神麴などと用いる。
②ひどい食積の停滞による便秘・腹部脹満痛には,大黄・枳実などと用いる。〔代表方剤:大承気湯,小承気湯,厚朴三物湯〕。

下気平喘

肺の痰湿を除き,呼吸を流暢にする。湿痰阻肺や肺気上逆の白色粘性多痰・咳嗽・呼吸困難・厚膩苔などに使用される。
①蘇子・杏仁・麻黄・半夏などと用いる。〔代表方剤:厚朴麻黄湯,蘇子降気湯〕。
②痰熱証には,柴胡・黄芩などと用いる。〔代表方剤:柴朴湯〕

[注意点]温燥性が強いため,湿滞証を確かめて使用する。陰虚証には禁忌。妊婦には慎重に使用する。

コクズイ

黒豆衣こくずい

こくずい

[基原]マメ科ダイズの黒色種子品種(クロマメ)の種皮

[別名]料豆衣りょうずい穭豆衣りょずい

[性・味]平・甘

[帰経]肝・腎

[用法]3~9g。煎服。

腎陰じんいんを補い,養血平肝ようけつへいかんし,益腎平肝えきじんへいかんの効能をもつ。肝腎陰虚かんじんいんきょ血虚肝旺けっきょかんおうによる眩暈めまい・頭痛などに適し,除虚熱じょきょねつ止盗汗しとうかんにも働くので陰虚盗汗いんきょとうかんに有効である。

益腎平肝

肝腎陰虚・血虚肝旺による頭痛・眩暈に,天麻・女貞子・枸杞子・菊花などと用いる。

清虚熱・
止盗汗

陰虚の盗汗に、牡蛎・五味子・地骨皮・浮小麦・黄耆などと使用する。