薬草辞典-か行

ゴシツ

牛膝ごしつ

ごしつ

[基原]ヒユ科ヒナタノイノコズチなどの根。

[性・味]平・苦・酸

[帰経]肝・腎

[用法]6~15g。生牛膝は活血・利尿・引火下行に,酒炒牛膝は補肝腎強筋骨に優 れる。

性は善く下行すといわれ①下部疾患に多用,②上炎じょうえん火熱かねつの下降,③諸薬を下部に導く,④下降症状には使用せず,などの特徴を有する。

活血祛瘀

月経痛・月経不調・閉経・産後腹痛・難産・外傷打撲(特に下半身)などに使用される。
①紅花・桃仁・当帰・延胡索・枳実などと用いる。〔代表方剤:血府逐瘀湯〕。
②外傷には当帰・川芎・続断・乳香・没薬などと用いる。

.補肝腎・
強腰膝

肝腎を補い血を巡らせて,筋骨を強め関節運動を伸びやかにする。平性であり寒熱両証に使用可能。
(1) 肝腎両虚証や痺証などの腰部膝関節の疼痛や脱力倦怠感,下部関節運動不利・軽度の浮腫などに使用される。
①肝腎両虚証には,杜仲・熟地黄・亀板などと用いる。〔代表方剤:虎潜丸〕。
②肝腎両虚証を伴う慢性痺証には,桑寄生・杜仲・亀板・続断などと用いる。〔代表方剤:大防風湯,牛車腎気丸,独活寄生湯〕。
③寒性痺証には,独活・羗活・防風・ 細辛などと用いる。〔代表方剤:疎経活血湯〕
(2) 湿熱を下に導き,下肢関節運動を流暢にする効能を利用し,湿熱下注による下肢倦怠無力感・発赤腫脹疼痛・浮腫などに使用される。蒼朮・黄柏・薏苡仁などと用いる。〔代表方剤:三妙丸,四妙散〕。

利尿通淋

尿を下に導きよく利尿させる。熱淋・血淋・石淋などの淋病や排尿痛・血尿・小便不利などに使用される。瞿麦・滑石・冬葵子などと用いる。〔代表方剤:牛膝湯〕。

引血引火下行

血を下降させたり,上昇した熱(火)を下に導き降ろす。
(1) 止血清熱薬として,上部の血熱による鼻出血・吐血・歯痛・ロ内炎などに用いる。陰虚内熱証にも使用される。
①胃火上炎の口内炎・舌炎・歯齦腫脹疼痛などには,生地黄・石膏・知母・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:玉女煎,清胃散〕。
②気火上逆による吐血・鼻出血などには,茅根・代赫石・山梔子などと用いる。
(2) 清熱下降薬として,肝陽上亢・肝火上炎・肝風などの頭痛・めまい・頭部熱感・冷えのぼせなどに使用される。
①肝陽上亢には,代赫石・石決明・牡蛎・竜骨・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:鎮肝熄風湯,天麻鈎藤飲〕。

[注意点]下行する性質のため,遺尿・脾虚の下痢・妊婦・過多月経には禁忌。

ゴシュユ

呉茱萸ごしゅゆ

ごしゅゆ

[基原]ミカン科ゴシュユやホンゴシュユの未成熟果実。

[性・味]熱・辛・苦

[帰経]肝・脾・胃

[用法]1.5~5g。外用も可。漫然と多量に使用すべきでない。

温燥性おんそうせいが強く肝経かんけいに作用し,理気りきとともに寒湿かんしつの邪を温散する。肝経かんけい治療の重要薬。

温中散寒・
止痛


散寒・理気止痛・燥湿の各作用に優れる。特に肝経の寒邪をよく温め散ずる。寒邪や寒湿停滞による腹痛・寒性の仙痛・月経痛・下肢寒湿の疼痛(脚気など),転筋などに使用される。
①脾胃の寒性痛には桂枝・乾姜などと用いる。
②四肢冷感や寒疝腹痛には烏薬・小茴香・木香などと用いる。〔代表方剤:当帰四逆加呉茱萸生姜湯〕。
③月経痛には,当帰・川芎・艾葉・香附子などと用いる。〔代表方剤:温経湯,艾附暖宮丸〕。
④脚気には木瓜・檳榔子・木香などと用いる。

温中止瀉

脾胃を温め下痢をよく止める。脾虚寒証や脾腎両虚証の寒湿性の下痢・五更瀉(夜明けの下痢)・嘔吐などに使用される。補骨脂・肉豆蔲・五味子などと用いる。〔代表方剤:四神丸〕。

疏肝降気

肝気の疏泄を良好にし気逆を治する。
(1) 降気しよく止嘔する。肝胃不和などの嘔吐・呑酸・曖気・季肋部脹満痛などに使用される。寒熱証ともに使用可能。
①寒証には乾姜などと用いる。
②肝気鬱結化火には黄連などと用いる。〔代表方剤:左金丸)。
(2) 寒飲上逆の頭痛〔特に頭頂部や眼部(痰厥頭痛)〕・嘔吐などに使用される。 人参・生姜などと用いる。〔代表方剤:呉茱萸湯〕。
(3)粉末を酢で練り足底に貼付すると,上部の火を下降させる。また口内炎に使用される。近年では高血圧にも有効とされる。

[注意点]辛熱性が強いため,気を損傷し熱を生じやすい。陰虚火旺証には禁忌。

ゴボウシ

牛蒡子ごぼうし

ごぼうし

[基原]キク科ゴボウの成熟果実。

[性・味]寒・辛・苦

[帰経]肺・胃・大腸

[用法]3~10g。丸・散剤も可。炒牛蒡子は寒性を弱め,中焦の陽気を損なわず, 虚弱者に使用される。

風熱ふうねつを散ずるとともによく解毒げどくする。薄荷はっかに比べ発汗力は弱いが,優れた清熱解毒せいねつげどく作用を有す。

発散風熱
・清利咽頭


風熱を散じる。一般的な辛涼解表薬。
(1)風熱表証の熱感・軽度悪寒・咽頭痛・微発汗などに使用される。
(2)咽頭の熱を冷まし流暢に呼吸させる。また解毒作用もあり,風熱による咽頭の発赤腫脹・疼痛などに多用される。また嗄声などにも使用される。金銀花・連翹・薄荷・桔梗などと用いる。〔代表方剤:銀翹散,牛蒡湯〕。

清肺熱

肺熱を除き,肺気をよく流通させ(宣肺),痰の喀出を容易にし(祛痰),よく止咳する。風熱咳嗽のほか陰虚の咳嗽にも使用される。
①喀出困難な痰を伴う風熱の咳嗽には,麻黄・石膏・杏仁・黄芩などと用いる。
②陰虚や肺陰火旺による咳嗽・喀血痰・喀出困難な痰には,阿膠・杏仁などと用いる。〔代表方剤:補肺阿膠湯〕

清熱解毒

優れた清熱解毒作用を有し,風熱や熱毒による咽頭腫脹(扁桃腺炎)や皮膚化膿症などに使用される。
①咽頭の腫脹疼痛には連翹・金銀花・桔梗・薄荷などと用いる。〔代表方剤:銀翹馬勃散,牛蒡湯,普済消毒飲〕 。
②皮膚化膿症には,黄連・ 黄芩・玄参などと用いる。〔代表方剤:普済消毒飲〕。

解毒透疹

薄荷・蟬退と同様に,風熱を散じるとともに熱毒を排出することにより,透疹させる。薄荷より解毒作用に優れる。麻疹の初期や湿疹が出切らないもの,風熱の発疹などに使用される。止痒作用もある。蟬退・薄荷・荊芥・葛根などと用いる。〔代表方剤:透疹湯,竹葉柳蒡湯〕。

潤腸通便

便通を促進する 。便秘傾向のある風熱表証に用いるとよい。

[注意点]通便作用があるため,脾虚の下痢には禁忌。

ゴミシ

五味子ごみし

ごみし

[基原]マツブツ科チョウセンゴミシの成熟果実。

[性・味]温・酸

[帰経]肺・腎・心

[用法]2~6g。粉末も可 (1~3g/回)。砕いて使用。

補益ほえき作用と潤性じゅんせいを有する広範囲に使用可能な重要収斂薬。特に肺腎両虚証はいじんりょうきょしょうに使用され,かつ虚脱証きょだつしょうにも使用可能。

収斂固澁

良好な収斂作用を有し,下記の広範囲な病態に使用される。
(1)斂肺止嗽 ・・・上逆した肺気を収めることで,咳嗽を止め,呼吸困難や促迫を改善する(平喘)。また補陰し滋養する作用もあり,肺気虚や肺腎両虚の咳嗽に使用される 。
①肺虚証や肺腎両虚には人参・麦門冬・熟地黄・山茱萸などと用いる。〔代表方剤:都気丸〕。
②宣肺散寒薬による肺気の消耗を防ぐ作用もあり,寒飲や外感風寒の咳嗽・水様性痰・呼吸困難・喘息などに使用される。麻黄・細辛・乾姜などと用いる。〔代表方剤:小青竜湯 〕。
(2) 澁精縮尿・・・ 遺精や頻尿.尿失禁などに使用される。竜骨・桑螵蛸・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:桑螵蛸丸〕。
(3) 澁腸止瀉 ・・・ 大腸よりの便の漏れを防ぎ(澁腸),下痢を止める。脾腎陽虚の慢性下痢・冷えで増悪する下痢・五更瀉などに使用される。補骨脂・呉茱萸・肉豆蔲などと用いる。〔代表方剤:四神丸〕 。
(4) 斂汗・・・皮膚を引き締めることで汗を止める。陰陽両虚のいずれの自汗や盗汗にも使用可能。牡蛎・麻黄根・浮小麦などと用いる。〔代表方剤:柏子仁丸〕。

益気生津

益気するとともに津液を潤し口渇を止める 。
(1) 温熱病や暑邪による気陰両虚証や陽気虚脱(亡陽)の多汗・ロ渇・脈微・倦怠感などに使用される 。人参・麦門冬・黄耆・白朮などと用いる。〔代表方剤:生脈散,清暑益気湯〕。
(2) 気陰両虚の消渇病にも使用される。知母・天門冬・黄耆・生地黄などと用いる。〔代表方剤:玉液湯〕。

寧心安神

心陰を滋養し心神を安定させる。また補腎作用もある。心腎陰虚 による心神不安の動悸・不眠多夢・健忘などに使用される 人参・麦門冬・生 地黄・酸棗仁などと用いる。〔代表方剤:天王補心丹〕。

[注意点]表証を伴う病症・実熱証・初期の咳嗽などには使用しない。