薬草辞典-ま行

マオウ

麻黄まおう

まおう

[基原]マオウ科シナマオウなどの地上茎。

[性・味]温・辛・微苦

[帰経]肺・膀胱

[用法]1.5~10g。発汗解表には少量,平喘利水には多量を用いる。生麻黄は発汗力が強い。炙麻黄は発汗力は弱まり平喘止咳作用が強まる。蜜炙麻黄は発汗力は弱まり,潤肺平喘作用に優れる。

肺経はいけいの専薬(専門薬)”といわれ,肺に働きかけることで,解表発汗げひょうはっかん宣肺利水せんぱいりいすいの各作用を行う。

発汗解表

腠理を開き発汗させ,風寒の邪を強力に散らして,表証を治癒させる(解表)。無汗・悪寒・頭痛・身体痛・脈浮緊などの外感の表寒実証に用いられる。麻黄・杏仁・葛根・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:麻黄湯,葛根湯〕。

宣肺平喘

寒飲や熱邪のために閉塞され詰まった肺気を,宣肺作用を高めることで流暢にさせる。咳嗽・喘息などの呼吸困難(気喘)に用いられる。
(1)風寒による咳嗽や気喘・白色痰には,杏仁・甘草などと用いる。〔代表方剤:三拗湯〕。
(2)寒飲による咳嗽・透明多量の痰・気喘などには,細辛・五味子・乾姜・半夏などと用いる。〔代表方剤:小青竜湯〕。
(3)外感陽虚証の強い悪寒や冷感・倦怠感・脈沈遅・咽頭痛などには,附子・細辛などと用いる。〔代表方剤:麻黄細辛附子湯〕。
(4)肺に熱が鬱した(熱邪壅肺証)ための,発熱・ロ渇・気喘・黄色痰・黄苔などには,石膏・黄芩・杏仁などと用いる。〔代表方剤:麻杏甘石湯,五虎湯,大青竜湯〕。

利水消腫

肺の通調水道を強めることで,利水作用を起こさせる。悪風・脈浮など表症を伴う浮腫・風水・上半身の浮腫などに用いられる。
(1)白朮・生姜・甘草などと用いる。
(2)鬱熱時には石膏を配合。〔代表方剤:越脾湯,越脾加朮湯〕。
(3)寒飲の浮腫には,附子・細辛など用いる。〔代表方剤:麻黄附子細辛湯〕。

(1)透疹:麻疹の初期や湿疹に使用される。他の透疹薬の補助として用いられる。薄荷・蟬退・葛根などと用いる。
(2)祛風湿:寒邪を散じ利水するところより,風寒湿痺証に使用される。桂枝・杏仁・白朮などと用いる。〔代表方剤:麻黄加朮湯,麻杏薏甘湯〕。

[注意点]発汗力が強いため,表虚証の自汗や陰虚の盗汗,腎虚の咳嗽(腎不納気証) には禁忌。

マシニン

麻子仁ましにん

ましにん

[基原]クワ科のアサの種子。

[別名]火麻仁ひまにん

[性・味]平・甘

[帰経]脾・胃・大腸

[用法]10~15g。砕いて使用する。外用も可。

通便力つうべんりょく郁李仁いくりにんより弱い。

潤腸通便

大腸を潤し便を軟化させて排便を促進する。津液不足・虚証の便秘(虚秘)・熱病回復期・老人など腸燥便秘に使用される。
①郁李仁・栝楼仁・杏仁・柏子仁・桃仁などと用いる。
②排便力増強として大黄・枳実・厚朴などと用いる。〔代表方剤:麻子仁丸〕。
③血虚証には,当帰・熟地黄・白芍薬などと用いる。
④陰虚証に麦門冬・生地黄・桃仁などと用いる。〔代表方剤:潤腸湯〕。
⑤気虚証には,党参・黄耆などと用いる。

養血・
生津潤燥

熱病回復期などの陰虚や気陰両虚証などに使用される。他の補血補陰薬の補助薬として用いられる。地黄・阿膠・白芍薬・麦門冬・鼈甲など。〔代表方剤:灸甘草湯,加減復脈湯〕。

[注意点]多量の服用で,悪心・嘔吐・下痢・しびれ・痙攣などの中毒が出現することがる。

マンケイシ

蔓荊子まんけいし

まんけいし

[基原]クマツヅラ科ハヌゴウやミツバハヌゴウの成熟果実。

[性・味]微寒・苦・辛

[帰経]肝・膀胱

[用法]5~10g。丸・散・酒剤も可。

頭部顔面の風熱ふうねつを散じ,よく止痛する。

散風止痛・
清頭目

風熱を散じ,軽く浮き上がり頭部や顔面に作用し,頭部と視力を明瞭にする(清頭目)。
(1)風熱による頭痛・頭帽感・眼痛に多用される。前額部や鼻稜の疼痛に適する。微寒であり,風寒の頭痛にも使用される。
①風熱頭痛には,桑葉・薄荷・菊花・黄芩などと用いる。[代表方剤:清上蠲痛湯〕。
②風寒頭痛には,荊芥・防風・羗活・白芷などと用いる。
(2) 風熱の眼瞼結膜充血・眼部腫脹・流涙などに使用される。菊花・決明子・蝉退などと用いる。
(3)歯齦腫脹疼痛にも使用される。石膏・黄芩・薄荷などと用いる。

祛風止痛

祛風止痛作用と除湿作用もあり,風湿痺証の関節痛・筋拘縮・しび れなどに使用される。防風・木瓜・秦艽・羗活・防風などと用いる。〔代表方剤:羗活勝湿湯〕。

[注意点]血虚頭痛や陰虚火旺証には使用しない。

 

モクツウ

木通もくつう

もくつう

[基原]アケビ科アケビなどの蔓性茎

[性・味]大寒・大苦

[帰経]心・小腸・膀胱

[用法]3~6g。

強力な降火利尿こうかりにょう作用とともに心火しんかを冷まし,かつ経絡を通じる。

清熱利湿通淋

強い利尿力を有し,利尿によりよく湿熱を去る 。
(1)膀胱湿熱の熱淋の小便不利・排尿痛・頻尿・排尿困難・残尿感などに多用される。そのほか,種々の淋病にも多用される。
①熱淋には車前子・滑石・ 大黄・山梔子などと用いる。〔代表方剤:五淋散,八正散〕。
②石淋には金銭草・海金沙などと用いる。
③血淋には蒲黄・藕節などと用いる。
(2)浮腫(下肢など)・腹水にも使用される。猪苓・茯苓・檳榔子などと用いる。〔代表方剤:木通散〕。

瀉心火

心火や小腸の熱を利尿することで冷まし降ろす(心火下泄)。心火上炎 の口内炎・舌炎・煩躁・ほてり・ロ渇・不眠・濃縮尿などに使用される。生地黄・竹葉・甘草などと用いる。〔代表方剤:導赤散〕。

清熱通絡

熱を冷ますことにより経絡を通じさせる 。熱湿痺証の関節発赤腫脹疼痛・関節運動障害などに使用される。防已・秦艽・絡石藤・忍冬藤などと用いる。

下乳

乳汁排泄を促進する。産後の乳汁分泌不全・乳房脹満感などに使用される。通草・王不留行・穿山甲などと用いる。

通経

血をよく巡らせる 。
(1)瘀血による閉経・月経不順などに使用される。牛膝・丹参・桃仁・紅花などと用いる。〔代表方剤:通導散〕。
(2)四肢の冷感・凍傷などに使用される。当帰・桂枝・白芍薬・紅花などと用いる。〔代表方剤:当帰四逆加呉茱萸生姜湯〕。

[注意点]“大に心腎之気を泄す”といわれ,毒性があり多量の服用で中毒を起こす可能性がある。そのため少量を使用する。妊婦・(西洋医学の)心や腎の機能不全者には禁忌。

モッコウ

木香もっこう

もっこう

[基原]キク科モッコウの根。

[性・味]温・辛・苦

[帰経]脾・胃・大腸

[用法]3~10g。丸・散剤にも可。長時間は煎じない。生木香は行気止痛に,煨木香は止瀉作用に優れる。

脾胃ひいを巡らせ,止痛止瀉しつうししゃする。中焦ちゅうしょうの調整作用に優れる辛温理気薬しんおんりきやく

行気止痛・
調中

強い芳香性を有し温性であり,気をよく巡らせ止痛し,脾胃の作用を整える。特に脾胃・大腸の胃腹部脹満痛などの気滞証に多用される。
(1) 脾胃気滞証の胃部腹部脹満感(痛)・食欲不振・もたれなどに使用される。
①陳皮・枳殻・川楝子などと用いる。
②寒性の気滞には,乾姜・高良姜・烏薬などと用いる。〔代表方剤:天台烏薬散〕。
③湿邪を伴う気滞には,蒼朮・厚朴などと用いる。
④食積気滞証には,山楂子・莱菔子などと用いる。食積下痢には,黄連・枳殻・檳榔子などと用いる。〔代表方剤:木香檳榔丸〕。
(2)湿熱下痢証の腹痛下痢・裏急後重・ロ苦・黄膩苔などに使用される。黄連などと用いる。〔代表方剤:香連丸〕。
(3) 湿熱黄疸に使用される。茵蔯蒿・金銭草・柴胡・鬱金などと用いる。
(4) 脾胃虚証の食後胃腹部脹満・下痢・食欲不振・悪心・嘔吐・白膩苔などに使用される。人参・白朮・砂仁などと用いる。〔代表方剤:香砂六君子湯〕。
(5)少量を,補益薬の胃腸障害防止や脾作用促進のために使用する。

[注意点]燥性が強く,陰虚火旺には慎重に使用する 。

モツヤク

没薬もつやく

もつやく

[基原]カンラン科ミルラノキの樹脂。

[性・味]平・辛・苦

[帰経]心・肝・脾

[用法]3~10g。煎じると混濁し独特の臭気がある。外用も可。

強い止痛力を有する温性の活血薬かっけつやく。薬効は乳香にゅうこうとほぼ同等で,ともによく配合される。乳香にゅうこうに比べ活血作用に優れる。

活血止痛

走散性が強く,血とともに気をもよく巡らせ瘀血を去り止痛する。各種の瘀血性疼痛,特に瘀血気滞の疼痛に多用される。また風湿痺証にも用いられる。
①瘀血胃痛には,五霊脂・香附子・川楝子などと用いる。
②胸痛・心痛には,丹参・川芎などと用いる。
③月経痛・産後瘀血の腹痛・閉経には,当帰・丹参・桃仁・紅花などと用いる。〔代表方剤:活絡効霊丹〕。
④外傷打撲の瘀血の腫脹疼痛には,紅花・血竭・麝香などと用いる。外用の使用も可。〔代表方剤:七厘散〕。

祛腐生肌

血を巡らせ腫脹や結節・化膿症を緩和し,化膿巣や傷口の修復を早め(祛腐生肌),かつ止痛する。外科の常用薬。皮膚化膿症・皮膚潰瘍・外傷・腸癰などに使用される。特に傷口の修復不全に多用される。
①皮膚化膿症の初期で発赤・腫脹・疼痛のものには,金銀花・連翹・天花粉などと用いる。〔代表方剤:仙方活命飲〕。
②瘰癧・痰核(皮下結節)などには, 麝香・雄黄などと用いる。〔代表方剤:醒消丸〕。
③傷口修復不全には,両薬の粉末を塗布してもよい。〔海浮散〕。

[注意点]多量の服用で悪心・嘔吐を引き起こすことがあるので,胃弱者には慎重に使用する。非瘀血証や妊婦には使用しない。