薬草辞典-さ行

サイコ

柴胡さいこ

さいこ

[基原]セリ科ミシマサイコなどの根。

[性・味]微寒・苦・辛

[帰経]肝・胆

[用法]3~10g。退熱には多量(10~15g)を,疏泄や升陽には少量(3~5g)を使用する。醋炒柴胡は疏肝解鬱に,生柴胡は退熱作用に優れる。

陽気ようきを引き上げ,を巡らせ,鬱熱うつねつを去る。葛根かっこんより昇陽しょうよう作用に優れる。

解表退熱

気を巡らせて(疏泄),鬱熱を発散し取り除く(退熱)。軽度の発汗作用もある。
(1)傷寒少陽証治療の重要薬。半表半裏の邪による往来寒熱・胸脇苦満・ロ苦・咽頭乾燥・めまいなどに多用される。黄芩・半夏などと用いる。〔代表方剤:小柴胡湯〕。
(2)表証の外邪が除かれず鬱熱となったための強い身熱・軽度悪寒・頭痛・無汗・心煩・眼痛などに使用される。葛根・黄芩・石膏・桔梗などと用いる。〔代表方剤:柴葛解肌湯〕。
(3)瘧疾ぎゃくしつに使用される。生柴胡を多量に用いる。草果・青皮などと用いる。〔代表方剤:柴胡達原飲〕。

疏肝解鬱

肝気をよく伸びやかに巡らせ,気滞を除く。肝気鬱結のための胸腹部痞満・季肋部脹満痛・乳房のしこり・経前乳房脹満・抑鬱気分・焦燥感・月経不調・月経痛などに使用される。
①肝血虚証や脾虚証との合併による食欲不振・もたれ・月経失調・顔色不良などには,白朮・当帰・熟地黄・白芍・薄荷などと用いる〔代表方剤:加味逍遙散,逍遙散〕。
②胸腹季肋部の脹満痛(感)には,枳殻・川芎・香附子・鬱金・白芍などと用いる。〔代表方剤:四逆散,柴胡疏肝散〕。
③肝気鬱結で熱を生じたため(肝鬱化火)の焦燥感・眼球結膜充血・頭痛・ロ苦・黄色苔などには,竜胆草・黄連・黄芩・山梔子などと用いる。〔竜胆瀉肝湯,大柴胡湯〕。

昇堤陽気

清陽の気を上らせることで,下に墜ちた気(下陥の気)を引き上げる。 脾虚中気下陥証による脱肛・子宮脱・慢性の下痢・めまい・立ちくらみ・下垂感・ 倦怠感・息切れ・頻尿・ほてり感などに使用される。升麻・黄者・人参・白朮・芍薬などと用いる。〔代表方剤:補中益気湯,昇陥湯,乙字湯〕。

[注意点]昇散の性質が強く,陰や気を消耗しやすい。そのため過度の陰虚証や陰虚火旺証,肝陽上充証,気逆証には禁忌。また,適時滋陰補血薬や柔肝薬(白芍・ 当帰など)を配合すべきである。

サイシン

細辛さいしん

さいしん

[基原]〕ウマノスズクサ科ウスバサイシンの全草(中国),または根および根茎(日本)

[性・味]温・辛

[帰経]肺・腎・心

[用法]1~3g。“辛は銭(3g)を過ぎず”といわれ多量には使用しない。散剤・外用も可。藜芦と相反。

よく寒飲かんいんを温め去る。辛性しんせいで走性が強く,祛風きょふう散寒さんかん止痛し水飲すいいんを去る。乾姜かんきょうと比べ止痛作用に優れる。

祛風散寒・止痛

よく風寒を温め散じ止痛する。寒性疼痛の常用薬。
(1)風寒湿邪による頭痛・風寒湿痺証の関節痛・腹痛・胸痛・風寒歯痛などに使用される。
①頭痛には川芎・防風・荊芥などと用いる。〔代表方剤:川芎茶調散〕。
②風寒湿痺証には,独活・羗活・防風・秦艽・杜仲などと用いる。〔代表方剤:独活寄生湯〕。
③歯痛には,乳香・白芷などと用いる。含嗽も可。
④寒邪による下腹痛・四肢冷感などには,附子・桂枝・肉桂・当帰・呉茱萸などと用いる。〔代表方剤:当帰四逆加呉茱萸生姜湯〕。
⑤寒証の胸痺には,薤白・桂枝・丹参などと用いる。
(2) 寒邪が強い外感表証の,悪寒・頭痛・四肢関節痛・鼻閉・咽痒などに使用される。風寒表証には羗活などと用いる。〔代表方剤:九味羗活湯〕。 
(3)陽虚証を伴う外感表寒証の悪寒・冷感・倦怠感・横臥を欲する・淡白舌・脈沈などに使用される。麻黄・附子などと用いる。〔代表方剤:麻黄附子細辛湯〕。

温肺化飲

肺中の寒飲(寒飲伏肺)を温めて除去する。乾姜と同様だが,薬カはより優れる。寒飲伏肺の呼吸困難・水様性多痰・咳嗽・背部や四肢の冷感・白滑苔などに使用される。乾姜・麻黄・五味子・杏仁などと用いる。〔代表方剤:小青竜湯,苓甘姜味辛夏仁湯,苓甘五味姜辛湯〕。

宣通鼻窮

辛性で走竄性があり鼻腔(鼻窮)に入り,温めて湿邪を除き閉塞した鼻腔を通じさせる(宣通)。
(1) 鼻閉・鼻渊・水様性鼻汁などに使用される。辛夷・白芷・薄荷・麻黄などと用いる。
(2) 中風の意識障害の覚醒のため,粉末を鼻腔に吹きかけくしゃみをさせる。

風火歯痛

清熱瀉火薬を配合して,熱証の歯痛・舌炎・ロ内炎などにも使用さ れる。
①歯痛には石膏・黄芩などと用いる。
②舌炎や口内炎には,粉末を黄連末とともに塗布する。

浮熱を散じる作用もあり,外感風寒・外寒内熱・裏熱証・陰虚などの熱による咽頭痛に使用される。

[注意点]辛性が強く,気や陰液を消耗しやすい。気血両虚証・陰虚証には禁忌。

サンザシ

山楂子さんざし

さんざし

[基原]バラ科オウミサンザシやサンザシの成熟果実。

[別名]酸楂さんざ

[性・味]微温・酸・甘

[帰経]脾・胃・肝

[用法]5~10g。炒山楂子は消食,生山楂子は活血作用にそれぞれ優れる。

肉類の消化作用に優れ,活血かっけつ作用 を有する消食薬しょうしょくやく

消食化積

消化を促進し,下痢を止める。特に肉類や脂肪,母乳の消化作用に優れる。肉・脂肪類などの食積によるもたれ・胃部や腹部脹満感(痛)・下痢,母乳の消化不良(乳積)による下痢,慢性下痢などに使用される。単味の服用も 可。
①食積には神麴・麦芽 ・莱菔子などと用いる。〔代表方剤:保和丸〕。
②腹部脹満痛には木香・ 枳実などと用いる。
③脾胃虚証を伴う食積には,白朮・陳皮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:健脾丸〕。

活血化瘀

血分に作用し活血して瘀血を散じる。新血の産生を妨げないとされる。産後の瘀血腹痛や悪露停滞 ・瘀血の月経失調や月経痛,さらには肝などの腫瘍に使用される。当帰・川芎・益母草・紅花・烏薬などと用いる。〔代表方剤:帰芎山楂湯,通瘀煎〕。

(1)仙気痛・陰嚢腫大などに使用される。小茴香・橘核などと用いる。
(2)近年では,高血圧・狭心症・高脂血症などにも使用されている。

[注意点]多食で歯を痛めるので,齲歯には多量に使用しない。

サンシシ

山梔子さんしし

さんしし

[基原]アカネ科クチナシなどの成熟果実。

[性・味]寒・苦

[帰経]心・肺・肝・胃・三焦

[用法]5~10g。外用も可。生山梔子は清熱瀉火作用に,焦炭山梔子は涼血止血作用に優れる。焦山栖子は苦寒の性質が弱まる。

瀉火除煩しゃかじょはん作用があり,特に清心肝火せいしんかんか作用に優れる。夏枯草かごそう竜胆りゅうたんの二薬に比べ,広範囲な実熱証じつねつしょうに使用され,利湿りしつ涼血止血りょうけつしけつ作用を有する。

清熱瀉火
・除煩


鬱熱を冷まし取り去り,煩躁を除き,解毒する。“三焦の熱を冷ます”といわれ,広範囲の実熱証に使用されるが,特に心・肝の火をよく冷 ます。
(1)温病気分証などの熱邪による熱感・煩躁・胸悶・不眠・不安・焦燥感などに使用される。
①豆鼓・柴胡・香附子・川芎などと用いる。〔代表方剤:越鞠丸,梔子鼓湯〕。
②強い熱邪による高熱・煩躁譫語(うわ言)・意識障害などには,黄連・黄芩・大黄・連翹などと用いる。〔代表方剤:清瘟敗毒飲,黄連解毒湯〕。
(2)肝火上炎や肝鬱化火による頭痛・眼球結膜充血・眼痛・めまいや煩躁・熱感・胸部痞塞感などに使用される。菊花・柴胡・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:竜胆瀉肝湯 ,加味逍遙散〕。
(3)清熱解毒作用を有し,皮膚化膿症や打撲・捻挫・火傷などに使用される 。後者には粉末を使用。化膿症には黄連・黄芩・連翹などと用いる。〔代表方剤:清上防風湯〕。 

清熱利湿

利尿作用があり熱を小便より排泄する 。燥性はあまり強くない。湿熱の黄疸や膀胱湿熱の熱淋に使用される。
①黄疸には,大黄・黄柏・苦参などと用いる。〔代表方剤:茵蔯蒿湯,梔子柏皮湯 〕。
②熱淋には,木通・滑石・車前子などと用いる。〔代表方剤:五淋散,八正散〕。

涼血止血

止血作用があり,血熱による吐血・鼻出血・血尿や温病血分証の皮下出血などに使用される。生地黄・牡丹皮・大薊・小薊・茅根などと用いる。〔代表方剤:十灰散〕。

[注意点]潤腸通便傾向があり,脾胃虚寒証や脾虚証の下痢・食欲不振などには禁忌。

サンシュユ

山茱萸さんしゅゆ

さんしゅゆ

[基原]ミズキ科サンシュユの成熟果肉。

[別名]棗皮そうひ

[性・味]微温・酸・澁

[帰経]肝・腎

[用法]5~10g。亡陽などの重症には多量(~30g) に使用してもよい。

補肝腎ほかんじんの代表薬。枸杞子くこしとよく同時に配合される。収斂作用を有する。

補肝腎陰

肝血と腎精を滋養する。補肝陰作用に優れるが,微温性であり腎精の補充を通して腎陽をも補う。肝腎陰虚のめまい・頭重・腰下肢倦怠感・耳鳴や陰陽両虚証の尿失禁・陽萎・遣精などに使用される。また肝腎陰虚の骨蒸潮熱などにも用いられる。
①山薬・熟地黄・牡丹皮・枸杞子・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:六味丸,八味丸 ,左帰飲,左帰丸〕。
②腎陽不足の陽萎・遺精・尿失禁などは当帰・補骨脂・麝香・菟絲子などと用いる。〔代表方剤:草還丹〕。

収斂固澁

良好な収斂固澁作用を有する。主に下焦の滑脱症に使用される。
(1) 気虚や亡陽による盗汗・発汗過多・遺精・尿失禁・頻尿などに使用される。五味子・牡蛎・竜骨・黄耆・人参などと用いる。〔代表方剤:来復湯〕。
(2)肝腎陰虚に伴う過多月経・崩漏などに使用される 。阿膠・益母草・川芎・烏賊骨などと用いる。〔代表方剤:固衝湯〕。
(3)微温性であり,腎虚による五更瀉などにも使用される。補骨脂・五味子・肉豆蔲などと用いる。

[注意点]収斂作用があり湿熱証や小便不利,実証には慎重に使用する。

サンヤク

山薬さんやく

さんやく

[基原]ヤマイモ科ナガイモの根茎。

[別名]薯蕷しょよ

[性・味]平・甘

[帰経]脾・肺・腎

[用法]10~30g。粉末の服用(6~10g/回)や多量(60~200g)も可。生山薬は補陰に,炒山薬は健脾止瀉作用に優れる。

補気ほき作用のほか,潤燥じゅんそう作用と澁性じゅうせいを有し,肺・腎のいんも補う補気健脾薬ほきけんぴやく白朮びゃくじゅつに比べ,甘平性で潤性じゅんせいがあり肺腎陰虚はいじんいんきょにも使用される。

補気健脾・
養陰


脾胃の気を補いその機能を高めて補気する。潤性があり,脾気とともに脾陰も補い,また澁性がありよく止瀉・止帯する。 一般的な脾胃虚証に使用されるが,特に脾虚証の慢性下痢や配合薬により種々の帯下,小児の栄養不良などに使用される。
(1)脾虚証の食欲不振・もたれ・胃部脹満感・下痢・倦怠感・顔色不良などに使用される。
①慢性の下痢には,白朮・白扁豆・人参・茯苓・陳皮・薏苡仁・砂仁などと用いる。〔代表方剤:啓脾湯,参苓白朮散〕 。
②胃陰虚証には,麦門冬・玉竹・ 石斛などと用いる。
(2) 脾虚証を伴う白色帯下・混濁尿・頻尿などに使用される。
①白帯下には, 竜骨・海螵蛸・牡蛎・茜草などと用いる。〔代表方剤:清帯湯〕。
②脾虚の帯下には,白朮・人参・蒼朮・柴胡・白芍などと用いる。〔代表方剤:易黄湯〕。

補益肺陰

肺気を補うとともに肺陰をも補う。肺虚証,特に肺陰虚の慢性咳嗽・息切れ・軽度呼吸困難・少痰・無痰・粘性痰・少苔などに使用される。麦門冬・五味子・玄参・鶏内金などと用いる。〔代表方剤:資生湯〕。

補腎陰

腎陰を補う。腎虚による遺精・頻尿・腰下肢倦怠無カ・めまい・ほてり・盗汗や白色帯下,消渇などに使用される。薬力は弱く他の補腎薬を配合する。
①腎虚証には,熟地黄・山茱萸・菟絲子・枸杞子などと用いる。〔代表方剤:六味丸,八味丸〕。
②消渇病には,知母・天花粉・地黄・葛根・石膏などと用いる。単品の服用も可。〔代表方剤:玉液湯〕 。
③腎虚の頻尿・遺精などには,芡実・益智仁・烏薬・蓮子肉などと用いる。〔代表方剤:金鎖玉関丸,縮泉丸〕。

[注意点]養陰作用があり湿を助長しやすい。そのため脾胃湿証や食積には単独使用しない。実熱証には禁忌。

サンリョウ

三棱さんりょう

さんりょう

[基原]ミクリ科ミクリの塊根。

[性・味]平・苦・辛

[帰経]肝・脾

[用法]3~10g。醋炒三棱は止痛作用に優れる。作用が強く,正気の損傷を防ぐために益気補血薬を配合すべきである。

破血行気止痛はけつこうきしつう作用と消腫しょうしゅ作用を有する活血薬かっけつやく莪朮がじゅつと薬効が類似し,よくともに配合される。平性へいせいであり,莪朮がじゅつに比べ活血力かっけつりょくに優れる。

破血行気

気血を巡らせ瘀血を除き,腫塊や結実を散じ,止痛する。強い活血作用(破血)を有し,同時に良好な行気作用を有する。気滞瘀血による腹部腫瘍(癥瘕・積聚)・ 肝腫大・季肋部痛・腹痛・閉経・外傷打撲などに使用される。特に有形で実体のある腫瘍(癥・積) に多用される。近年では子宮外妊娠の血腫にも使用される。
①癥瘕積聚・閉経には,牛膝・延胡索・川芎・鬱金などと用いる。〔代表方剤:三棱丸,三楂煎丸〕。
②虚証の瘀血には,人参・黄耆・当帰などと用いる。
③子宮外妊娠に,丹参・乳香・没薬・当帰などと用いる。〔代表方剤:宮外孕方〕。

行気消積

気を巡らせ鬱滞を除き止痛する。気滞が強い食積などによる腹部脹満痛 (感)・腹部痞塞悶絶感・噯気・呑酸・厚苔などに使用される。
①食積気滞には,青皮・麦芽・檳榔子・山楂子などと用いる。〔代表方剤:三棱煎,木香檳榔丸〕。
②脾胃虚証の食積には,人参・白朮などと用いる。

[注意点]月経過多・妊婦には禁忌。