薬草辞典-さ行

ジュクジオウ

熟地黄じゅくじおう

じゅくじおう

[基原]ゴマノハグサ科ジオウやカイケイジオウの根を酒で蒸したもの。

[性・味]微温・甘

[帰経]肝・腎

[用法]10~30g。丸・散・膏剤にも使用可能。

補血滋陰ほけつじいんの重要薬。阿膠あきょうに比べ,滋陰じいんに優れる。

補血

よく心肝の血虚を補い,一切の血虚証に使用される。血虚によるめまい・ 動悸・顔色不良・不眠・羸痩・月経後期・過少月経・閉経などに使用される。また不正性器出血(崩漏)などにも使用される。当帰・白芍薬・阿膠・川芎などと用いる。〔代表方剤:四物湯,芎帰調血飲 〕

滋陰補精

腎陰を潤し補い腎精を生じさせる。滋補肝腎の代表薬。
(1)腎陰虚や肝腎陰虚のめまい・耳鳴・腰部の疼痛や倦怠感・盗汗・遺精などに使用される。
①腎陰虚証には,山茱萸・山薬・牡丹皮・何首烏・山茱萸などと用いる。〔代表方剤:六味丸 ,左帰丸〕
②陰虚火旺の骨蒸潮熱・盗汗・ほてりなどには,亀板・ 知母・黄柏などと用いる。〔代表方剤:大補陰丸〕
③心腎陰虚証の不眠・多夢・動悸などには,酸棗仁・柏子仁・遠志などと用いる。〔代表方剤:養心湯,天王補心丹〕
(2)精血虚損による発育遅延・白髪・不妊症・インポテンツ・早衰 ・健忘などに使用される。拘杞子・菟絲子・鹿角膠・何首烏などと用いる。
(3)腎虚による咳嗽・息切れなどにも使用される。
①肝腎両虚証の息切れ・喘息などには,五味子・麦門冬・山薬・茯苓・山茱萸などと用いる。〔代表方剤:都気丸〕
②腎虚の咳嗽・多痰には,茯苓・白朮・半夏 ・当帰などと用いる。〔代表方剤:金水六君煎〕

潤腸通便作用があり,腸燥便秘に使用される。通便力は弱く,他薬の補助薬として用いられる。麻子仁・杏仁・桃仁・阿膠・当帰などと用いる。〔代表方剤:潤腸湯〕

[注意点]粘膩性が強く,生地黄より消化を妨害しやすい。脾胃虚弱・湿証・気滞などの腹部脹満痛・食欲不振・下痢などには禁忌。胃障害の防止には,縮砂・陳皮・木香などを配合する。

シュクシャ

縮砂しゅくしゃ

しゅくしゃ

[基原]ショウガ科シュクシャミツの種子。

[別名]砂仁しゃじん・しゃにん陽春砂ようしゅんしゃ

[性・味]温・辛

[帰経]脾・胃

[用法]2~5g。砕いて煎じる。後下。多量には使用しない。

理気りき作用に優れ,湿困脾胃気滞証しつこんひいきたいしょうに多用される化湿薬かしつやく安胎あんたい作用のある温性化湿薬おんせいかしつやく。白豆蔲に比べ,行気こうき作用が強く止痛力・止痢力に優れる。

化湿行気
・止痢


気を巡らせよく湿を除くことで,脾機能を活発にし胃機能を整える(醒脾和胃)。芳香性が強く,優れた化湿・行気作用を有し,温燥性・行気止痛カ・止痢力に優れる。中焦・下焦に作用し,湿困脾胃証や湿阻気滞証の胃部脹満(痛)・食欲不振・腹痛下痢(特に寒湿下痢)などに多用される。そのほか,食積証のもたれ・食欲不振・下痢,脾虚痰湿証の嘔吐・下痢などにも用いられる。また補益薬の胃腸障害防止にも使用される。
①湿困脾胃の胃部脹満・もたれ・嘔吐・食欲不振などには,白豆蔲・木香・蒼朮・厚朴・陳皮などと用いる。〔代表方剤:香砂二陳湯〕。
②脾胃気滞証のもたれ・胃部脹満感などは,木香・枳実・白朮など。〔代表方剤:香砂枳朮丸〕。
③食積証の腐臭性噯気・呑酸などには,山楂子・莱菔子・枳実・神麴などと用いる。
④脾虚証と湿邪気滞を伴う脾虚証には,党参・白朮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:香砂六君子湯〕。
⑤寒性が強い腹痛下痢は,乾姜・附子・肉豆蔲などと用いる。〔代表方剤:縮砂丸〕。

行気安胎

行気和胃することで止嘔し,流産を防止する(安胎)。妊娠悪阻・胎動不安・流産防止に使用される。
①妊娠悪阻には半夏などと用いる。
②胎動不安には白朮・蘇梗などと用いる。
③腎虚の胎動不安には杜仲・桑寄生・続断などと用いる。

[注意点]陰虚内熱証には禁忌。

ショウキョウ

生姜しょうきょう

しょうきょう

[基原]ショウガ科ショウガの新鮮な根茎。

[性・味]微温・辛

[帰経]肺・脾・胃

[用法]3~10g。外用も可。絞り汁を服用してもよい。

解表げひょうして中焦ちゅうしょうを和す。解表げひょう作用とともに脾胃ひいを温め整えて除湿し,よく止嘔する。

発汗解表

風寒表証で悪寒発熱・頭痛・鼻閉などに使用される。解表作用は弱く,主に他の辛温解表薬の補助薬として用いられる。〔代表方剤:桂枝湯〕。

温中・止嘔

(1)胃を温め胃気を降ろし湿を除くことで,悪心・嘔吐を止める。そのため“嘔家の聖薬”といわれる。寒熱両証に使用可能。
①胃寒証の口渇がない悪心・嘔吐・腹痛・滑苔などには,半夏・陳皮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:小半夏加茯苓湯〕。
②胃熱証の口苦・胸やけ・黄苔を伴う悪心・嘔吐には,黄連・竹茹・枇杷葉などと用いる。〔代表方剤:橘皮竹茹湯〕。
(2)生姜汁で炮製することで他薬の止嘔作用を増強させる。姜竹茄・姜半夏など。

解毒

(1)半夏・天南星・附子・烏頭などの毒性や刺激性を緩和する。またこれらの薬物中毒に用いられる。また半夏・天南星などは,一般に生姜とともに炮製して毒性を中和後に使用されることが多い。
(2)魚や蟹の中毒による嘔吐・下痢などを緩和する。紫蘇などと用いる。

[注意点]温燥性があるため,陰虚内熱証・表虚自汗・胃陰虚の嘔吐には禁忌。

ショウジオウ

生地黄しょうじおう

しょうじおう

[基原]ゴマノハグサ科カイケイジオウの根。

[性・味]寒・甘・苦

[帰経]心・肝・腎

[用法]10~30g。炒炭地黄は止血に優れる。

清熱滋陰せいねつじいんの重要薬。玄参げんじんに比べ,涼血 りょうけつ滋陰養血じいんようけつ作用に優れ,止血作用を有する。陰血いんけつ不足と虚火きょかがある病態に広く使用される。

清熱涼血

温熱病営血証の高熱・意識障害・口渇・発疹・発班・絳色舌などに使用される。玄参・犀角・黄連・牡丹皮・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:清営湯〕。

涼血止血

(1)清熱涼血することで止血する。血熱妄行のための吐血・尿血・鼻出血・血便・不正性器出血(崩漏)などに使用される。
①吐血や鼻出血などには,側柏葉・艾葉・荷草などと用いる。〔代表方剤:四生丸〕。
②血便には,地楡・槐花などと用いる。
③血尿には,茅根・小薊・蒲黄・山梔子などと用いる。〔代表方剤:小薊飲子〕。
④崩漏には阿膠・牡丹皮などと用いる。
(2)血熱による発斑・湿疹・蕁麻疹・出血斑や紫斑などに使用される。
①出血斑・紫斑には,犀角・赤芍薬・牡丹皮などと用いる。〔代表方剤:犀角地黄湯〕。
②湿疹などには,蟬退・防風・当帰・石膏などと用いる。〔代表方剤:消風散〕。

滋陰生津

陰分を滋養し,軽度ながら津液を潤す。
(1)温熱邪により津液や陰分が消耗したための,便秘・ロ渇・舌乾燥などに使用される。玄参・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:増液湯〕。
(2)温病後期で余熱が退かず津液が消耗したための,夜間発熱・ほてり感・ロ燥・紅舌乾燥・少苔や無苔などに使用される。
(3)雑病陰虚内熱証の骨蒸潮熱・五心煩熱・便秘・ロ渇・腰部下肢の疼痛や脱力感・遺精・舌質紅などに使用される。玄参・麦門冬・知母・地骨皮・鼈甲・青蒿などと用いる。〔代表方剤:青蒿鼈甲湯〕。
(4)陰虚火旺証の咽頭痛に使用される。玄参・甘草・薄荷・山豆根などと用いる。
(5)熱による陰液消耗のための,口渇・口燥・紅色舌・五心煩熱などに使用される。麦門冬・沙参・玉竹などと用いる。〔代表方剤:益胃湯〕。
(6)消渇病の多飲・ロ渇などに使用される。黄者・山薬・葛根・天花粉などと用いる。〔代表方剤:滋膵飲〕。

[注意点]脾虚証による湿証や下痢には禁忌。

ショウバク

小麦しょうばく

しょうばく

[基原]イネ科コムギの種子。

[性・味]微寒・甘

[帰経]心

[用法]30~60g。

益気えき退熱たいねつ除煩じょはん作用を有する斂汗薬れんかんやく。浮小麦に比べ,養心除煩ようしんじょはん作用に優れる。

養心除煩

心神を養い安定させる。心神不安による煩躁・焦燥・不安・不眠・臓躁証などに使用される。甘草・大棗などと用いる。〔代表方剤:甘麦大棗湯 〕。

斂汗

心陰を滋養し熱を除き,糯稲根などと同様に皮膚を引き締め汗を止める。心の気陰不足による自汗・盗汗や陰虚による骨蒸潮熱などに使用される。
①気虚の自汗には,麻黄根・黄耆・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:牡蛎散〕。
②陰虚内熱の骨蒸潮熱や盗汗には,麦門冬・地骨皮・生地黄・玄参などと用いる。

 

ショウマ

升麻しょうま

しょうま

[基原]キンポウゲ科サラシナショウマやオオミツバショウなどの根茎。

[性・味]微寒・甘・辛

[帰経]脾・胃・肺

[用法]3~10g。炙升麻は昇提中気に優れる。

清熱解毒せいねつげどく作用を有する昇陽しょうよう薬。

発表透疹

風熱を発散し,さらに透疹する。だが,発表発散作用は弱く,主に麻疹の初期に使用される。生升麻を使用。葛根・芍薬・甘草などと用いる。〔代表方剤:升麻葛根湯〕。

昇提中気

脾胃の陽気を引き上げる。
(1) 脾虚の中気下陥証による脱肛・子宮脱・慢性の下痢・めまい・立ちくらみ・下垂感・ 倦怠感・息切れ・頻尿・ほてり感などに使用される。柴胡・黄者・人参・白朮・芍薬などと用いる。〔代表方剤:補中益気湯,昇陥湯,乙字湯〕。
(2) 気虚が下陥し血が保持不能(気不摂血)となったための不正性器出血・過多月経などに使用される。黄者・人参・白朮などと用いる。〔代表方剤:挙元煎〕。

清熱解毒

肺胃の熱を冷まし解毒する。
(1)胃火亢進による歯痛・歯齦炎・ロ内炎などに使用される。黄連・生地黄・牡丹皮・石膏などと用いる。〔代表方剤:清胃散,立効散〕。
(2)風熱による咽頭の発赤腫脹疼痛に使用される。桔梗・玄参・牛蒡子などと用いる。 〔代表方剤:普済消毒飲〕。
(3)温病の発斑や皮膚化膿症に使用される。
①発斑には石膏・犀角・生地黄などと用いる。
②皮膚化膿症には金銀花・連翹などと用いる。
(4)陽明経(前額部)の頭痛に使用される。

[注意点]昇散の性質があり,陰虚火旺や咳嗽・喘息などの気逆証には禁忌。また麻疹後期には使用しない。

ジョテイシ

女貞子じょていし

じょていし

[基原]モクセイ科トウネズミモチの成熟果実。

[性・味]涼・甘・苦

[帰経]肝・腎

[用法]10~15g。丸・膏剤,外用も可。

薬性が温和な補肝腎薬ほかんじんやく熟地黄じゅくじおう山茱萸さんしゅゆ枸杞子くこしより補陰ほいん作用は劣る。旱蓮草とともによく配合される〔二至丸〕。墨旱蓮ぼくかんれんより補肝腎ほかんじん作用に優れるが,止血作用はない。

補肝腎陰

肝腎の陰を補う。膩性が少なく作用は比較的温和。特に陰虚内熱のものに適する。
(1)肝腎陰虚による頭重・めまい・耳鳴・腰下肢倦怠感・遺精・白髪などに使用される。旱蓮草・熟地黄・黄精・菟絲子・枸杞子・何首烏などと用いる。
(2)明目作用もあり肝腎陰虚による視力低下・霧視・眼花などに使用される。熟地黄・枸杞子・黄精・菟絲子・覆盆子などと用いる。
(3)補陰により虚熱を冷ます。陰虚内熱による心煩・骨蒸潮熱・ほてり・紅舌・少苔などに使用される。地骨皮・牡丹皮・生地黄・白薇などと用いる。〔代表方剤:女貞湯〕。

[注意点]寒性であり脾胃虚寒証の下痢,陽虚証には禁忌。