薬草辞典-さ行

シンイ

辛夷しんい

しんい

[基原]モクレン科モクレンやハクモクレン望春花などの花蕾。

[性・味]温・辛

[帰経]肺・胃

[用法]3~10g。外用も可。包煎。

鼻渊びえんの常用薬。解表薬げひょうやくとしてはあまり使用されない。蒼耳子そうじしに比べ,通鼻作用は強いが解表力げひょうりょくは弱い。

通鼻・
散風寒

鼻腔の通気を良好にする(通鼻)。鼻渊・鼻閉・粘性鼻汁・無臭,さらに風寒性の頭痛に多用される。寒熱両証に使用可能だが,特に風寒証の病態に適する。

①寒証鼻渊や頭痛には,細辛・防風・白芷・藁本などと用いる。〔代表方剤:葛根湯加川芎辛夷〕。
②熱証鼻渊には,薄荷・黄芩・連翹・石膏などと用いる。〔代表方剤:辛夷清肺湯〕。

[注意点]陰虚火旺には禁忌。

シンキク

神麴しんきく

しんきく

[基原]小麦粉や米の(ふすまに赤小豆粉,杏仁泥,蒼茸,青蒿などと混合し発酵させたもの。

[別名]六麴ろくきく

[性・味]温・甘・辛

[帰経]脾・胃

[用法]6~12g。丸・散剤も可。炒焦神麴は消食和胃作用に優れる。

消食しょうしょく作用とともに健脾和胃けんぴわいを有する優れた消食薬しょうしょくやく

消食和胃

消化を促進するとともに脾胃機能を補助調整(健脾和胃)し,下痢を止める。特に澱粉類の消化作用に優れる 。
(1)食積証や脾胃虚証の食欲不振・もたれ・胃部脹満痛(感)・下痢・噯気,酒積にも使用される。特に食積による下痢に多用される。山楂子・麦芽・莱菔子・香附子などと用いる。〔代表方剤:保和丸,越麴丸〕 。
(2)消化不良などの胃腸障害を起こしやすい丸剤(磁朱丸など)の賦形剤としても用いられる。

 

セキシャク

赤芍せきしゃく

せきしゃく

[基原]ボタン科ヤマシャクヤクの根。

[性・味]微寒・苦

[帰経]肝・脾

[用法]5~10g。

活血かっけつ作用も兼ねる清熱涼血薬せいねつりょうけつやく血熱瘀血証けつねつおけつしょうの常用薬。牡丹皮ぼたんぴとよく同時に配合される。牡丹皮ぼたんぴに比べ活血かっけつ作用に優れ,かつ止痛作用を有する。涼血りょうけつ作用は牡丹皮ぼたんぴに比べやや劣る。

清熱涼血

血熱を冷まし,よく活血し,血熱の妄行を防ぐ。涼血作用は牡丹皮に比べやや劣る。以下の温病や雑病に使用される。
(1)温熱病の営分血分証で,夜間の高熱・発疹発斑・絳色舌などに使用される。牡丹皮・生地黄・玄参・連翹などと用いる。
(2)血熱妄行による吐血・鼻出血などに使用される。牡丹皮・犀角・白芍薬などと用いる。〔代表方剤:犀角地黄湯〕。
(3)血淋や熱淋の小便不利にも使用される。小薊・茜草・茅根などと用いる。

活血止痛

血熱を冷まし瘀血を除き止痛する。疼痛を有する熱性瘀血によく適する。
(1)瘀血の閉経(無月経)・月経痛・腹部腫瘍(癥・積)などに使用される。桃仁・川芎・当帰・乳香・紅花・牡丹皮などと用いる。〔代表方剤:桂枝茯苓丸,隔下逐瘀湯, 血府逐瘀湯,通竅活血湯,少腹逐瘀湯,大黄䗪虫丸〕。
(2)外傷打撲や瘀血の腫脹疼痛に使用される。没薬・乳香・牡丹皮・紅花などと用いる。〔代表方剤:折衝飲〕。
(3)皮膚化膿症・腸癰などにも使用される。皮膚化膿症や腸癰には,金銀花・乳香・皂角刺・山梔子などと用いる。〔代表方剤:仙方活命飲〕。
(4)中風の後遺症に使用される。黄者・地竜などと用いる。〔代表方剤:補陽還五湯) 。
(5) 熱毒による腹痛・膿血便・下痢などに使用される。黄柏・地楡などと用いる。〔代表方剤:芍薬湯〕。

清肝瀉火

肝火を冷ます。
(1)肝火による眼球眼瞼充血・眼痛・熱感頭痛・ほてり感などに使用される。菊花・夏枯草・木賊・決明子などと用いる。〔代表方剤:決明子散〕。
(2)肝鬱化火による季肋部痛に使用される。柴胡・香附子・鬱金などと用いる。

[注意点]虚寒証には禁忌。藜芦とは配合禁忌。

セキショウコン

石菖根せきしょうこん

せきしょうこん

[基原]サトイモ科セキショウの根茎。

[別名]菖蒲しょうぶ石菖蒲せきしょうぶ九節菖蒲きゅうせつしょうぶ

[性・味]温・辛

[帰経]心・胃

[用法]煎剤として使用される。 5~10g。粉末も使用可能。

和中わちゅう作用も有する化痰開竅薬かたんかいきょうやく寒閉かんへい熱閉ねつへい両証に使用可能。

化痰開竅

芳香性が強く,よく痰を除き経絡を通じさせ開竅する。温性であるが,寒閉・熱閉両証に使用可能。化湿作用は蘇合香より弱い。
(1)湿痰が心竅を塞いだ(蒙閉)ための意識障害・精神撹乱・中風・癲癇などに使用される。
①湿熱の意識障害には,鬱金・竹葉や連翹・天竺黄・天南星などと用いる。〔代表方剤:菖蒲鬱金湯〕。
②痰濁による癲狂には,天南星・遠志・茯神・半夏・生鉄落などと使用する。〔代表方剤:生鉄落飲〕。③癲癇には鬱金・朱砂・白矾などと用いる。
(2)痰湿が経絡を塞ぎ(壅阻経絡),清陽が阻止されたための耳鳴・聴力低下・知力低下・健忘などに使用される。遠志・茯苓・天南星・竜歯・磁石などと用いる。〔代表方剤:安神定志丸〕。

化湿和中

芳香性により脾胃の湿濁を除く。食欲増進作用もある。中焦湿濁による胸腹部脹満痞塞感や疼痛・もたれ・食欲不振・下痢などに使用される。寒熱両証に使用可能。
①蒼朮・厚朴・白豆蔲・陳皮・茯苓・藿香などと用いる。
②湿熱証の腹痛下痢・噤口痢・嘔吐・食欲不振などには,黄連・陳皮・石蓮子などと用いる。〔代表方剤:開噤散〕。
③脾虚証を兼ねるものには,人参・白朮・茯苓などと用いる。

[注意点]陰虚血虚証・多汗には慎重に使用する。

センキュウ

川芎せんきゅう

せんきゅう

[基原]セリ科センキ ュウなどの根茎。

[別名]芎藭きゅうきゅう

[性・味]温・辛

[帰経]肝・胆・心包

[用法]3~10g。丸・散剤も可。

血中の気薬けっちゅうのきやく本草網目ほんぞうこうもく≫”といわれ行気こうき作用が強い活血薬かっけつやく活血かっけつを巡らせ止痛調経しつうちょうけいする。

活血行気

血を温めよく気血を巡らせる。以下の瘀血気滞証に多用される。
(1) 血海(子宮)に作用し,月経痛・月経障害・難産・産後腹痛・閉経などに使用される。また外傷打撲の瘀血腫脹にも用いられる。
①月経痛・月経障害には,当帰・芍薬・紅花・香附子・益母草などと用いる。〔代表方剤:四物湯,芎帰調血飲,当紅四物湯〕。
②虚寒性には,桂枝・呉茱萸・牡丹皮・当帰などと用いる。〔代表方剤:温経湯〕。
③虚寒瘀血の産後排泄不全・腹痛には,当帰・桃仁・炮姜などと用いる。〔代表方剤:生化湯〕。
④外傷には,三七・ 没薬・乳香・紅花などと用いる。〔代表方剤:治打撲一方 ,托裏消毒散〕。
(2)気の鬱滞を除き(疏肝),胃の働きを調整する(和胃)。肝鬱気滞や瘀血による季肋部痛・腹痛・胸痛・痞塞感などに使用される。
①気滞証には,柴胡・白芍薬・香附子・枳殻などと用いる。〔代表方剤:柴胡疏肝散〕。
②瘀血気滞証には,桃仁・紅花・当帰・柴胡などと用いる。〔代表方剤:血府逐瘀湯〕。
(3)瘀血性の癥瘕(腫瘍)に使用される。五霊脂・紅花・延胡索などと用いる。
(4)皮膚化膿症や近年では狭心痛や脳血管障害にも使用される。狭心症には,鬱金・丹参などと用いる。

祛風止痛

昇散性があり,頭部や皮膚・関節に作用し,経絡の気血をよく巡らせる。
(1)“頭痛の重要薬”といわれ,風寒・風熱・風湿などの各種の頭痛に多用される。特に少陽部(頬部より耳部)頭痛に適するが,他部も可。
①風寒頭痛には,羗活・細辛・白芷などと用いる。〔代表方剤:川芎茶調散〕。
②風熱頭痛には,菊花・石膏・白僵蚕など。〔代表方剤:川芎散〕。
③風湿頭痛には,羗活・独活・防風などと用いる。〔代表方剤:羗活勝湿湯〕。
④血虚頭痛には,当帰・白芍薬などと用いる。
(2) 風湿痺証の筋関節痛やしびれ・半身マヒなどに使用される。黄耆・当帰・桂枝・独活・細辛などと用いる。〔代表方剤:大防風湯,補陽還五湯,蠲痺湯〕

[注意点]陰虚火旺・月経過多・出血症には禁忌。

センギョクキン

川玉金せんぎょくきん

せんぎょくきん

[基原]ショウガ科ウコンやハルウコン,ガジュツの塊根。

[別名]中国ではショウガ科のウコンやハルウコン,ガジュツの乾燥した塊根を鬱金と呼び,ウコンやハルウコンの乾燥した根茎を姜黄と呼ぶ。これに対し,わが国の生薬名である鬱金は,ウコンの乾燥した根茎,つまり中国でいう姜黄のことである。また中国の鬱金は,わが国では川玉金せんぎょくきん玉金ぎょくきんと通称される。このように,中国とわが国ではその呼び方が逆となるので注意が必要である。

[性・味]寒・辛・苦

[帰経]心・肝・胆

[用法]3~9g。粉末も可 (1~3g/回)。

気中きちゅう血薬けつやく”といわれ,活血かっけつしよく止痛する。寒性であり,姜黄きょうおうに比べ,行気力こうきりょくに優れ体内臓腑に作用し止血する。

行気活血

活血作用とともに良好な行気力を有し,気血を巡らせ止痛する。疏肝解鬱作用に優れ肝鬱気滞に多用される。肝気鬱結や瘀血による胸部腹部季肋部痛・月経痛・閉経に使用される。さらに月経不順・腫瘍などにも用いられる。
①胸痛・季肋部痛・焦燥感には,木香などと用いる。気滞と瘀血の割合で配合を変えるとよい。〔代表方剤:顚倒木金散〕。他に丹参・柴胡・香附子などと用いる。〔代表方剤:疏肝解鬱湯〕。
②月経痛・月経前乳房脹満感などには,香附子・当帰・白芍薬・柴胡など。〔宣鬱通経湯〕。

化痰解鬱

鬱滞した痰を除き心竅を開き(開心竅),痰による心への阻害を改善する。寒性であり熱証に適する。痰気鬱阻による意識障害・胸胃部痞悶・癲狂などに使用される。
①意識障害には,山梔子・菖蒲・竹瀝などと用いる。〔代表方剤:菖蒲鬱金湯〕。
②癲癇や癲狂には,白矾などと用いる。〔代表方剤:白金丸〕。

利胆退黄

湿熱黄疸を緩和する。湿熱の黄疸などに使用される。
①黄疸には山梔子・菌蔯蒿・大黄などと用いる。
②湿熱の胆石症には,菌蔯蒿・金銭草などと用いる。

涼血止血

血熱を冷まし降気して止血する。肝火上炎の吐血や鼻出血,血熱瘀血証や血熱妄行による倒経・血淋などに使用される。他の止血薬との配合が望ましい。
①吐血・鼻出血・倒経には,牡丹皮・山梔子・生地黄などと用いる。
②血淋には小薊・生地黄・滑石などと用いる。

[注意点]妊婦には慎重に使用する。丁香とは相畏。

ゼンコ

前胡ぜんこ

ぜんこ

[基原]セリ科ノダケなどの根。

[性・味]微寒・苦・辛

[帰経]肺

[用法]5~10g。蜜炙前胡は寒性が弱まり潤性が増加し,肺陰虚の乾咳に適する。

外感風熱咳嗽がいかんふうねつがいそうに多用される止咳薬。桔梗ききょうとともによく配合される。桔梗ききょうに比べ降気こうき作用に優れ,降気こうきによって痰を除去する。主に熱証ねつしょうに使用される。

宣肺降気
・化痰

肺の宣発作用を高めて,肺気を良好にして流暢に流し,痰を除去して止咳する。またよく肺の風熱を発散する。寒熱両証,ともに使用可能だが, 熱証により適する。
(1)肺内の痰や熱痰の停滞,肺鬱熱証などの咳嗽・粘性多痰・軽度呼吸困難(気喘)・胸部痞塞感など使用される。熱痰には,貝母・桑白皮・杏仁などと用いる。 〔代表方剤:前胡散〕。
(2)外感風熱の表証や外感肺の鬱熱証の咳嗽・頭痛・咽頭痛などに使用される。桔梗・牛蒡子・薄荷などと用いる。

[注意点]陰虚火旺や寒飲の咳嗽には使用しない。