薬草辞典-た行

ダイオウ

大黄だいおう

だいおう

[基原]タデ科ダイオウ類の根茎および根。

[別名]将軍しょうぐん川軍せんぐん錦紋大黄きんもんだいおう

[性・味]寒・苦

[帰経]脾・胃・大腸・肝・心包

[用法]5~10g。粉末は0.5~2g/回。外用も可。重症で急ぎ下す場合には15~20gを使用する。長時間の煎じで瀉下作用は弱まる。瀉下作用を期待するときには,後下するか粉末を服用する。生大黄は瀉下作用,炭大黄は止血作用が強まる。制大黄は瀉下力が弱まり活血作用が強まる。酒大黄は火邪上炎に使用される。

滞積たいせき実火じっか熱毒ねつどく瘀血おけつを除去し止血する瀉下薬しゃげやく芒硝ぼうしょうとよく配合される。

瀉下攻積

大腸に滞積した便を洗滌除去し,鬱熱を冷ます。
(1)腹部脹満感(痛)・腹痛拒按などの実証便秘に多用される。実証で熱性の便秘 (熱結便秘)によく適する。
①温熱病の高熱・意識障害,熱性気滞の便秘には, 芒硝・厚朴・枳実などと用いる。〔代表方剤:大承気湯〕。
②気血両虚証の熱性便秘には,人参・当帰などと用いる。〔代表方剤:黄竜湯〕。
③陰虚の熱性便秘には,生地黄・玄参・麦門冬などと用いる。〔代表方剤:増液承気湯〕。
④腸燥の便秘には,麻子仁・杏仁・厚朴などと用いる。〔代表方剤:麻子仁丸〕。
⑤脾陽虚証の寒性の便秘(冷積便秘)には,附子・乾姜などと用いる。〔代表方剤:大黄附子湯,温脾湯〕。
(2)湿熱の積滞を取り除く。いまだ積滞した便が残存する湿熱の腐臭性で残便感がある下痢・血痢・裏急後重・排便後の腹痛持続などに使用される(通因通用)。単味の服用も可。黄芩・黄連・木香・白芍などと用いる。〔代表方剤:芍薬湯〕。

瀉火解毒

排便することで,裏熱を冷まし降ろしかつ解毒する。便秘を伴うものに適するが,便秘がなくても使用される。
(1)火邪上炎の頭痛・目赤・咽頭痛・ロ内炎・歯齦炎(痛)などに使用される。
①上中焦(肺胃)実熱証の口内炎・咽頭痛などに,芒硝・山梔子・黄芩などと用いる。 〔代表方剤:涼隔散〕。
②肝火上炎の頭痛・易怒・焦燥感・痙攣などには,竜胆草・山梔子・夏枯草などと用いる。
(2)湿熱を冷ます。湿熱黄疸や熱淋に使用される。
①黄疸には,茵蔯蒿・山梔子などと用いる。〔代表方剤:茵蔯蒿湯〕。
②熱淋には,車前子・木通・山梔子・滑石などと用いる。〔代表方剤:八正散〕。
(3)熱毒の皮膚化膿症,火傷などに使用される。粉末の塗布も可。
①実熱証の 皮膚化膿症には,金銀花・連翹・白芷などと用いる。〔代表方剤:宣毒散〕。
②腸癰には,芒硝・牡丹皮・桃仁などと用いる。〔代表方剤:大黄牡丹皮湯〕。
③火傷には,粉末を地楡粉などと配合し塗布。

瀉火止血

血熱を冷まし止血する。活血作用もあり,止血するも血をとどめない。血熱妄行の吐血・鼻出血・瘀血性出血などに使用される。単味粉末の塗布も可。黄芩・黄連・生地黄などと用いる。〔代表方剤:瀉心湯〕。

活血化瘀

優れた活血作用があり,瘀血をよく改善する。熱性瘀血に適する。瘀血性の閉経や月経痛・産後悪露排泄不全・癥瘕・外傷打撲などに使用される。
①水蛭・䗪虫・紅花・桃仁などと用いる。〔代表方剤:桃核承気湯,抵当丸〕。
②長期の服用による正気の損傷を防ぐために,人参・阿膠などを配合する。

[注意点]妊婦・月経期・虚弱者には,禁忌か慎重に使用する。母乳に排泄され,小児の下痢を引き起こすことがあるので注意が必要。胃弱者には禁忌。

タイソウ

大棗たいそう

たいそう

[基原]クロウメモドキ科ナツメなどの果実。

[別名]紅棗 こうそうなつめ

[性・味]温・甘

[帰経]脾・胃

[用法]5~10g。あるいは 2~8個。

甘草かんぞうとよく同時に使用される緩和補気薬かんわほきやく甘草かんぞうに比べ補脾ほひ作用と養血ようけつ作用に優れるが,緩急止痛かんきゅうしつうじゃ弱く瀉火解毒しゃかげどく潤肺じゅんぱい作用はない。

補気補脾

脾胃の機能を補う。薬力は弱く,他の健脾薬の補助として使用される。甘草に比べ脾を温め機能を高める。また養血作用に優れる。脾胃虚証の食欲不振・下痢・倦怠感などに使用される。人参・白朮・茯苓などと用いる。〔代表方剤:参棗丸〕。

養血安神

補気とともに血を補い,心神を安定させ,肝経の急迫を治する。
(1)血虚証の羸痩・顔色不良・頭重・視力低下・霧視・めまい・過少月経・閉経などに使用される。黄耆・白朮・酸棗仁・当帰・阿膠などと用いる。〔代表方剤:帰脾湯〕。
(2) 心気を補い,心神を安定させる。心気虚証や臓躁証,さらには心虚肝鬱証・ 臓躁証などの精神情動失調・精神不安・不眠・焦燥感などに使用される。甘草・小麦・酸棗仁・柏子仁・竜骨・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:甘麦大棗湯〕。

薬性緩和

(1)他薬による脾胃の損傷を防止し保護する。脾胃虚弱者に多用される。
(2)薬性を緩和する。毒性薬や作用の強い薬物の薬性を緩和し,方剤中の諸薬を調和する。 方剤中に配合され,薬物の強い薬性を緩和し脾胃の機能を調べることで,方剤中の薬物を協調させ方剤全体を調整する(諸薬の調和)。
(3)解表薬に配合され,脾胃の機能を調整し止汗による傷陰を防ぐ。生姜などと用いる。〔代表方剤:桂枝湯〕。

[注意点]湿気を増長させるので,湿証・胸腹部・気滞証・嘔吐者には,慎重に使用するか禁忌。潤性と熱性があるので,痰熱や湿熱証には使用しない。

ダイフクヒ

大腹皮だいふくひ

だいふくひ

[基原]ヤシ科ビンロウの成熟果皮。

[別名]檳榔皮びんろうひ

[性・味]微温・辛

[帰経]脾・胃・大腸・小腸

[用法]5~10g。

檳榔子びんろうじに比べ行気力こうきりょく化痰力かたんりょくは弱く,駆虫作用はない。

行気利水

気を巡らせ湿滞を除き利尿する。凝固した痰ではなく,主に気滞湿阻証に使用される。
(1)脾胃気滞による胃部腹部脹満痛(感)や痞塞感・残便感のある下痢や便秘などに使用される。厚朴・陳皮・枳実などと用いる。〔代表方剤:藿香正気散〕。
(2)皮膚や下肢の浮腫・小便不利・脚気などに使用される。
①浮腫には茯苓皮・桑白皮・生姜皮・冬瓜皮などと用いる。〔代表方剤:五皮散〕。
②脚気の腫脹疼痛には,木瓜・檳榔子・蘇葉・莱菔子などと用いる。〔代表方剤:大腹皮散〕。

[注意点]檳榔子と同様に,気を消耗しやすいので気虚証には禁忌。

タクシャ

沢瀉たくしゃ

たくしゃ

[基原]オモダカ科サジオモダカの塊茎。

[性・味]寒・甘・淡

[帰経]腎・膀胱

[用法]5~10g。痰飲のめまいにはやや多量(~15g)を使用する。

寒性かんせいで強力な利湿りしつ薬。下焦湿熱げしょうしつねつに多用される。茯苓ぶくりょう猪苓ちょれい沢瀉たくしゃの三薬中,利尿力は最も強い 。

利水滲湿

強力な利尿作用により,体内の水湿や痰飲を利水により取り除く。だが健脾作用はない。寒性のため湿熱証に適する。めまい・帯下・熱淋に多用される。
(1)水湿停留による小便不利・浮腫・腹水・下肢の重だるさ,中焦の湿による下痢に使用される。
①膀胱気化不利には茯苓・猪苓・桂枝・蒼朮・白朮 などと用いる。〔代表方剤:五苓散 〕。
②湿熱性,または寒性が著明でない浮腫・下痢・帯下な どには,茯苓・猪苓・白朮などと用いる。〔代表方剤:四苓湯 〕。
(2)下焦湿熱による淋病や,下焦内湿による帯下に多用される。湿熱の熱淋による排尿痛・頻尿・排尿困難・尿混濁などには,木通・滑石・車前子などと用いる。〔代表方剤:五淋散 〕。
(3)痰飲の頭部上擾によるめまい・頭重感などに使用される。天麻・白朮・茯苓・半夏・猪苓などと用いる。〔代表方剤:半夏白朮天麻湯 ,沢瀉湯〕。

清腎火

腎陰虚による虚火を冷まし降ろす。腎陰虚の遺精や陰虚火旺などに使用される。山薬・山茱萸・黄柏・生地黄などと用いる。〔代表方剤:六味地黄丸 , 知柏地黄丸〕。

タクラン

沢蘭たくらん

たくらん

[基原]シソ科シロネの全草。

[性・味]微温・苦・辛

[帰経]肝・脾

[用法]10~15g。外用も可。

利水りすい作用を有する活血薬かっけつやく。婦人科の常用薬。温性おんせいであり,益母草やくもうそうに比べ利水りすい力は弱いが,薬性は緩和で正気せいきを傷つけない。また補血ほけつ作用はないが疏肝そかん作用を有する。

活血通経

(1)血を巡らせ,経絡の流通を良好にする(通経)。薬効は強くなく薬性は温和 である。月経痛・閉経・産後の腹痛や悪露排泄不全・浮腫,外傷などに使用される。特に月経諸病や産後の諸症状に多用される。
①当帰・川芎・香附子などと用いる。〔代表方剤:沢蘭湯〕。
②外傷打撲には当帰・䗪虫・乳香・紅花などと用いる。
(2)活血により肝気の巡りを良好にする。胸痛や季肋部痛にも使用される。丹参・鬱金・香附子などと用いる。

利水消腫

活血するとともに水分をも巡らせる。利水力は弱く他の利水薬の補助薬として使用される。気滞瘀血に伴う浮腫に適し,産後や月経時の浮腫・腹水・顔面浮腫などに使用される。
①産後浮腫・頻尿などには,防已などと用いる。
②腹水には, 防已・茯苓・沢瀉などと用いる。

皮膚化膿症に使用される。金銀花・当帰・甘草など。新鮮品の汁を塗布してもよい。

[注意点]非瘀血証や血虚証には慎重に使用する。

タンジン

丹参たんじん

たんじん

[基原]シソ科タンジンの根。

[別名]赤参せきじん紫丹参したんじん

[性・味]微寒・苦

[帰経]心・心包・肝

[用法]6~15g。重度な癥瘕や瘀血性疼痛には多量(~30g)を使用する。粉末も可(2~3g/回)。

安神あんじん作用を有する血熱瘀血証けつねつおけつしょうの常用薬。各種瘀血おけつの病態に多用される。

活血祛瘀

血熱を冷まし血をよく巡らせる。熱性の瘀血に適する。
(1)血熱瘀血証や気滞瘀血証の月経痛・月経失調・閉経・産後の瘀血性腹痛・腫瘍(癥瘕積聚)・胸痺の胸痛・腹痛などに使用される。
①月経痛・月経失調・産後腹痛には,当帰・益母草・川芎・桃仁・紅花などと用いる。
②癥瘕積聚には,三棱・莪朮・沢蘭・鼈甲などと用いる。
③胸痛・腹痛には,檀香・砂仁などと用いる。〔代表方剤:丹参飲,冠心Ⅱ号〕。
④寒証の瘀血には,呉茱萸・肉桂を配合し使用される。
(2)風湿痺証の四肢関節痛や半身マヒなどにも使用される。熱痺証に適する。防風・赤芍薬・桑枝・忍冬藤などと用いる。
(3)外傷打撲にも使用される。川芎・紅花などと用いる。

安神養血

心神を安定させ(安神)煩躁を緩和する。
(1)温熱病の営血分熱証の不眠・煩躁・譫語・動悸・発疹などに使用される。生地黄・黄連・竹葉などと用いる。〔代表方剤:清営湯〕。
(2)軽度の養血作用もあり,心血不足証の不眠・動悸・煩躁などにも使用される。 酸棗仁・生地黄・柏子仁などと用いる。〔代表方剤:天王補心丹〕。

涼血消癰

血熱と瘀熱を冷まし癰腫を除く。ただし涼血作用は弱い。皮膚化膿症・乳癰・湿疹などに使用される。金銀花・連翹などと用いる。

[注意点]伝統的に藜芦とは相反。

 

チクヨウ

竹葉ちくよう

ちくよう

[基原]イネ科のハチクの葉。

[性・味]寒・淡・甘

[帰経]心・肺・胃

[用法]6~15g。

心・胃の熱を尿より排泄し煩躁はんそうを静める。淡竹葉たんちくように比べ除煩じょはん作用に優れ,気陰両虚証きんりょうきょしょうや熱病後期などに多用される。

清熱除煩

心火を冷まし心神を安定させ,胃熱を冷まし津液を潤す(生津)。小児の熱性痙攣にも,釣藤鈎・蟬退などと使用される。
(1)熱病後期や気陰両虚証の煩熱・ロ渇・焦燥感・不眠などに使用される。
①熱病後期や気陰両虚証には,石膏・人参・麦門冬・芦根など用いる。〔代表方剤:竹葉石膏湯〕。
②心火上炎には,木通・生地黄・甘草などと用いる。〔代表方剤:導赤散〕。
(2)上焦気分の熱を冷まし,咽頭の乾燥発赤腫脹を緩和する。風熱表証に使用される。連翹・金銀花・薄荷・牛蒡子などと用いる。〔代表方剤:銀翹散,竹葉柳蒡湯〕。
(3)心火上炎による口内炎・舌炎などに使用される。

清心利尿

利尿作用により心火(熱)を尿より排泄する 。熱淋や血淋による排尿痛・ 頻尿・赤色や黄色尿などに使用される。口内炎や心煩不眠を伴うものに適する。淡竹葉よりは作用が弱い。車前子・木通・生地黄・滑石などと用いる。〔代表方剤:導赤散,小薊飲子〕