薬草辞典-た行

テンモンドウ

天門冬てんもんどう

てんもんどう

[基原]ユリ科クサスギカズラの塊根。

[性・味]寒・甘・苦

[帰経]肺・腎

[用法]6~15g。丸 ・散・膏剤にも使用可。

よく肺陰はいいんを滋養する。麦門冬ばくもんどうに比べ寒性かんせい滋陰潤燥じいんじゅんそう作用が強く,また腎陰じんいんを滋養する。だが養心清心火ようしんせいしんか作用はなく養胃陰よういいん作用も弱い。

養陰清肺

肺陰を滋養し,肺熱を冷まし降ろす。麦門冬より,より熱性や燥性が強い病態(燥邪化火)に適する。肺陰虚証や肺燥・肺熱・肺癆などによる乾咳・無痰や粘性少痰・血痰・喀出困難な痰,少苔・無苔・乾燥舌・紅色舌などに使用される。
①肺熱肺乾の咳嗽には,桑葉・沙参・杏仁・貝母・知母などと用いる。〔代表方剤:滋陰降火湯,二冬膏,天門冬膏〕
②肺陰虚の肺癆の喀血・咳嗽には,麦門冬・生地黄・沙参・百部・阿膠などと用いる。〔代表方剤:月華丸〕

滋補腎陰

よく腎陰を滋養し熱を冷まし降ろす(降火)。
(1) 腎陰虚火旺による潮熱・消渇・遺精,腎陰虚の咳嗽などに使用される。知母・黄柏・熟地黄・玄参・石斛・人参などと用いる。〔代表方剤:三才封髄丹〕
(2)消渇病の口渇・倦怠感・息切れなどに使用される。上消・中消のほか,下消(腎虚証の消喝)にも用いられる。人参・乾地黄・麦門冬・石斛などと用いる。〔代表方剤:三才湯〕。

腸を潤し排便を促進する(潤腸通便)。だが薬力は弱く,他の補助薬として使用される。熱証を伴う腸燥便秘に使用される。玄参・麦門冬・乾地黄・当帰・白芍薬・何首烏などと用いる。

(1) 清熱作用があり,咽頭発赤・咽頭炎・扁桃腺炎などに使用される。
(2) 清熱作用があり,さらに解毒作用も有する。肺熱による咽頭炎や扁桃腺炎に使用される。桔梗・山豆根・板藍根・生甘草などと用いる。

[注意点]風寒感冒や風寒,湿性の咳嗽,脾胃虚寒証の下痢には禁忌。

 

トウキ

当帰とうき

とうき

[基原]セリ科トウキの根。

[性・味]温・甘・辛・苦

[帰経]肝・心・脾

[用法]5~15g。丸・散剤・軟膏,外用にも使用可。酒炒当帰は活血作用に優れる。

活血かっけつ止痛に優れる補血ほけつの重要薬。婦人病の常用薬。

補血

滋潤性があり,優れた補血作用を有し,特に心と肝の血をよく補う。一切の血虚証に使用されるが,心血虚証や肝血虚証に多用される。めまい・頭重・動悸・健忘・不眠・羸痩・顔色不良などの症状に用いられる。
①心肝血虚症には,熟地黄・白芍薬・川芎などと用いる。〔代表方剤:四物湯〕。
②気血両虚証には,黄耆・人参・ 白朮などと用いる。〔代表方剤:人参養栄湯,芎帰調血飲,当帰補血湯〕。
③心脾両虚証には,人参・白朮・竜眼肉・酸棗仁・黄耆などと用いる。〔代表方剤:帰脾湯〕。
④肝腎両虚で虚火上炎の更年期障害などには,仙茅・知母・黄柏・巴戟天などと用いる。〔代表方剤:二仙湯〕。

活血調経
・止痛

補血とともによく血を巡らせ,月経を調整(調経)し止痛する。血虚証のほか,瘀血・気滞などに使用される。寒証に適する。
(1)調経の重要薬といわれ,血虚・瘀血・気滞などの月経不順・閉経・月経痛・崩漏・産後の腹痛などに使用される。
①気滞瘀血証には,桃仁・紅花・香附子・川芎などと用いる。〔代表方剤:桃紅四物湯〕。
②血虚寒証には,肉桂・艾葉・呉茱萸・人参・桂枝などと用いる。〔代表方剤:温経湯 〕。
③脾虚証を伴う血虚証には,白朮・茯苓・桂枝・沢瀉などと用いる。〔代表方剤:当帰芍薬散〕。
④血虚血熱気滞証には,牡丹皮・赤芍薬・山梔子・白朮などと用いる。 〔代表方剤:加味逍逝散〕。
(2)活血し寒邪を散じてよく止痛する。気滞瘀血証・血虚証などの頭痛・胸痛・腹痛・季肋部痛などに多用される。そのほか,風湿痺証・筋肉痛・外傷打撲・血痢腹痛など種々の疼痛にも使用される。
①頭痛には,川芎・白芷などと用いる。
②胸痛季肋部痛などには,川芎・鬱金などと用いる。
③虚寒血虚の腹痛には,桂枝・白芍・膠飴・生姜などと用いる。 〔代表方剤:当帰建中湯 〕。
④血虚寒証の四肢冷感疼痛には,桂枝・白芍・細辛・木通・呉茱萸などと用いる。〔代表方剤:当帰四逆加呉茱萸生姜湯〕。
⑤風湿痺痛には,羗活・独活・桂枝・秦艽・姜黄・黄耆などと用いる。〔代表方剤:独活寄生丸〕。
⑥血痢には,黄芩・黄連・木香などと用いる。
(3)腫脹を緩和し止痛し,排膿を促進して傷口修復を促進(生肌)する。気虚証や血虚証の化膿遅滞・排膿後の傷口回復不良などに使用される。外科の常用薬。
①皮膚化膿症の初期には,金銀花・連翹・穿山甲・天花粉・貝母などと用いる。〔代表方剤:仙方活命飲〕。
②皮膚化膿症後期には,黄耆・肉桂・皀角剌などと用いる。〔代表方剤:当帰飲子〕。

潤腸通便

潤性があり,血虚証や虚弱体質・老人・産後などの腸燥や虚秘の便秘に使用される。肉蓯蓉・麻子仁・柏子仁・桃仁・牛膝などと用いる。〔代表方剤:潤腸湯〕。

止咳平喘作用があり,慢性の咳嗽や喘息などに使用される。半夏・蘇子・ 厚朴・陳皮などと用いる。〔代表方剤:蘇子降気湯,金水六君煎〕。

[注意点]甘味で潤腸作用があり,湿証・胃腸虚弱者・脾虚証の下痢には禁忌。

トウジン

党参とうじん

とうじん

[基原]キキョウ科ヒカゲノツルニンジンやトウジンなどの根。

[性・味]温・甘・微苦

[帰経]心・脾・肺

[用法]10~15g。多量の使用も可(~30g)。伝統的に五霊脂を畏れ,藜芦に反する。

一切の気虚証ききょしょうに使用可能な人参の代用薬。特に肺脾気虚証はいひききょしょうに多用される。

補気益脾肺

脾胃と肺の気を補う。膩性・燥性ともに弱く,薬性は温和。気虚証全般に使用されるが,特に脾・肺の気虚証に多用される。
①脾胃虚証の倦怠感・食欲不振・下痢などには,黄耆・白朮・枳実・山楂子・陳皮などと用いる。〔代表方剤:健脾丸〕。
②肺気虚の咳嗽・息切れ・易感冒・易汗などには,黄耆・五味子・紫苑などと用いる。

補気生血生津・扶正祛邪などの作用があり,人参と同様に使用される。だが薬力は弱い。

[注意点]実熱証には使用しない。

トウチュウカソウ

冬虫夏草とうちゅうかそう

とうちゅうかそう

[基原]コウモリガ科などの幼虫にバッカクキン科フユムシナツクサタケが寄生し子実体を形成したもの。

[別名]冬虫草とうちゅうそう

[性・味]温・甘

[帰経]肺・腎

[用法]5~10g。丸・散剤も可。食品として調理してもよい。

腎の陰陽とともに肺も補う薬性温和な補腎薬ほじんやく温性おんせいだが燥性そうせいは弱く,陰陽両虚いんようりょうきょ気虚ききょ陰虚いんきょにも使用可能。

補腎壮陽益精

腎陽を補うとともに腎精をも補う。腎虚による陽萎・不妊・遺精・腰下肢痛倦怠・耳鳴・健忘・痴呆などに使用される。また病気の体力回復にも用いられる。淫羊藿・杜仲・巴戟天・亀板・鹿茸膠などと用いる。

補肺腎・平喘

肺と腎を補い,肺陰を滋養し,肺気を収め流暢にし,咳嗽を止め, 呼吸困難などを緩和する。止血化痰作用もある。
(1)軽度喀血や痰を伴う癆咳に多用される。沙参・阿膠・貝母・麦門冬・百合などと用いる。
(2)肺腎両虚証の慢性の咳嗽・息切れ・呼吸困難・喘息・労咳などに使用される。 虚喘には,人参・胡桃肉・臍帯・五味子・蛤蛉などと用いる。
(3) 虚寒の自汗にも用いられる。

[注意点]表実証には禁忌。

 

トウニン

桃仁とうにん

とうにん

[基原]バラ科モモやノモモなどの成熟種子。

[性・味]平・苦

[帰経]心・肝・肺・大腸

[用法]6~10g。

広範囲に使用される活血祛瘀かっけつきょおの重要常用薬。紅花こうかとともによく配合される。平性へいせい瘀血おけつ常用薬。紅花こうかに比べ,潤腸通便じゅんちょうつうべん止嗽しそう作用を有する。

活血祛瘀

血をよく巡らせる。活血力に優れ各種瘀血証に使用される。平性であり血熱瘀血にも使用可能。紅花と同様に,瘀血証の常用薬で,月経痛・閉経・産後腹痛・瘀血腹痛・外傷打撲・腫瘍(癥瘕積聚)・風湿痺証などの関節痛・血熱瘀血による皮膚化膿症や斑疹など各種の瘀血証に使用される。さらに肺癰(肺炎など)や腸癰などにも用いられる。
①月経痛・閉経などには,紅花・当帰・川芎などと用いる。〔代表方剤:桃核承気湯,通導散,桃紅四物湯,血府逐瘀湯,生化湯〕
②慢性重症瘀血には,水蛭・虻虫・大黄などと用いる。 〔代表方剤:抵当湯,抵当丸〕③外傷打撲には,紅花・当帰・穿山甲・赤芍薬などと用いる。〔代表方剤:復元活血湯〕
④癥瘕積聚には,紅花・三稜・莪朮・枳殻などと用いる。〔代表方剤:隔下逐瘀湯〕
⑤慢性の風湿痺証には,紅花・秦艽・川芎・羗活などと用いる。〔代表方剤:身痛逐瘀湯〕
⑥皮膚化膿症には,金銀花・連翹・蒲公英などと用いる。他の清熱解毒薬の補助薬として使用。
⑦肺癰には,冬瓜子・葦茎・薏苡仁・芦根などと用いる。〔代表方剤:葦茎湯〕
⑧腸癰には,大黄・牡丹皮・芒硝などと用いる。〔代表方剤:大黄牡丹皮湯,腸癰湯 〕

潤腸通便

大腸の気を降ろすとともに潤性があり潤腸通便する。腸燥便秘に使用される。柏子仁・杏仁・鬱李仁などと用いる。〔代表方剤:潤腸湯,五仁丸〕

止咳平喘

肺気を流暢にし止咳する。咳嗽や呼吸困難の補助薬として使用される。杏仁などと用いる。〔代表方剤:双仁丸〕

[注意点]血虚証には慎重に使用する。

トシシ

菟絲子としし

としし

[基原]ヒルガオ科マメダオシやネナシカズラなどの成熟種子。

[性・味]平(やや温)・辛・甘

[帰経]肝・腎

[用法]10~15g。

薬性温和な平補肝腎薬へいほかんじんやく潼蒺藜どうしつりに比べ,補腎固摂ほじんこせつ作用に優れ,止瀉ししゃ作用を有する。よく肝腎を平補へいほする。

補腎固精

陰液を滋養し潤す性質があり,腎陽を補うとともに肝腎の精血も滋養する。膩性は少なく薬性は温和で,腎陽虚・腎陰虚の両証に使用可能。潼蒺藜に比べ,平性でより補腎固摂作用に優れ,よく精液や尿・帯下の漏れを防ぎ〔代表方剤:固精縮尿〕。よく腎陰腎陽を補う 。腎虚の腰痛・遺精・頻尿・尿失禁・白色帯下などに使用される。
①腰下肢痛・倦怠には,杜仲・枸杞子・桑寄生・山茱萸などと用いる。〔代表方剤:鹿角菟絲子丸〕。
②陽萎・遺精には,枸杞子・五味子・覆盆子などと用いる。〔代表方剤:五子衍宗丸〕。
③尿失禁・夜間尿・頻尿などには,桑螵蛸・五味子・肉豆蔲・牡蛎などと用いる。〔代表方剤:菟絲子丸〕。
④白色帯下には茯苓・蓮子肉・芡実などと用いる。

養肝明目

肝の陰血を養い明目する 。肝腎不足による視力減退・霧視・眼花・ 眼球乾燥・めまいなどに使用される。熟地黄・車前子・枸杞子・女貞子などと用いる。〔代表方剤:駐景丸〕。

止瀉

脾を補い止瀉する。脾虚や脾腎両虚の下痢・食欲不振などに使用される。補骨脂・黄耆・白朮・山薬・人参・茯苓などと用いる。

(1)腎虚の消渇にも使用される。生地黄・知母などと用いる。
(2)安胎作用もあるとされ,腎虚の妊娠不正出血や胎動不安などに使用される。 桑寄生・続断などと用いる。

[注意点]平性だがやや温性に傾いており,陰虚火旺・燥性便秘・湿熱証には使用しない。

トチュウ

杜仲とちゅう

とちゅう

[基原]トチュウ科トチュウの樹皮。

[性・味]温・甘・微辛

[帰経]肝・腎

[用法]10~15g。散・丸剤も可。炒杜仲は補肝腎力に優れる。

補腎強健筋骨安胎ほじんきょうけんきんこつあんたいの重要薬。続断ぞくだんとともによく配合される。続断ぞくだんに比べ補肝腎力ほかんじんりょくが強い。

補肝腎 ・
強健筋骨

よく肝腎を補うことで筋骨を強健にする。
(1)補腎力が強く腎虚の腰痛・筋無力に多用される。そのほか,肝腎不足の腰痛・腰下肢倦怠無力や筋委縮などにも用いられる。
①腎虚腰痛には,補骨脂・胡桃肉などと用いる。〔代表方剤:青娥丸〕
②肝腎両虚の腰膝関節痛やだるさには,続断・熟地黄・牛膝などと用いる。
(2)腎虚の耳嗚・めまいにも使用される。熟地黄・天麻・磁石などと用いる。
(3)腎陽虚の頻尿・尿失禁・陽萎などにも使用される。山茱萸・菟絲子・補骨脂などと用いる。

補腎安胎

肝腎を補うことで妊娠をよく継続させる。腎虚による胎動不安・習慣性流産・妊娠性出血などに使用される。安胎の重要薬。続断・白朮・山薬などと用いる。〔代表方剤:杜仲丸〕

[注意点]陰虚火旺には慎重に使用する。